コロナ禍になって大いに普及したのがテレビ会議でした。ずっと以前からリモートワーク/テレワークでやってきた私たちとしては当たり前だったツールが、やっと世の中の人の当たり前に変わったようです。
そんな中で、よく受ける相談が「テレビ会議で顔を出さない人をどうすれば良いのか」「テレビ会議では顔を出したくないがどうすれば良いのか」という話です。どちらの言い分にも一理あるのです。
本稿では、テレビ会議で顔を出すべきか否かについて考察します。
目次
そのテレビ会議の目的は何か?
テレビ会議で顔を出した方が良い理由、出したくない理由は、すでに多く語られ尽くしているので、改めて語る必要はないでしょう。実際、どちらが良いかなど正解はありません。ケースバイケースとしか言えないのは、そもそもテレビ会議の目的が違っているからです。
もし、事務連絡だけをしたいのならば顔出しなど不要でしょう。相手からの反応など見なくとも伝えるだけならデパートの館内放送と同じです。
相手の反応を伺いながら、話す内容を変えたりしながら、相手との対話を通じて相互理解を深めたいというなら、顔を出した方が良さそうです。
ただ、これは顔を出した方が情報量が増えるため、顔を出さずに話を続けることよりも短時間で伝え合うことができるという効率の話です。単なる効率の話ならば、どちらでも良いかというと、プライベートならどちらでも良いでしょう。
しかし、業務においては違います。業務ならばコストパフォーマンスの高い方を選びたいものです。
そのテレビ会議の参加者同士で、無駄に時間を使わず成果を出したいと共通の思いがあるなら、対話をするようなテレビ会議においては効率の良い方、すなわち顔を出した方が良いのではないでしょうか。
テレビ会議で顔を出すかどうかで諍う前に、その参加者同士で何を目指しているのか、そのテレビ会議の目的は何かをすりあわせることが先です。その上で、どうしても顔を出せない理由を持つ方もいるでしょうし、それは尊重されるべきです。
関係性の濃淡と参加者の数による分類
テレビ会議の目的を踏まえた上で、どういったケースにおいて顔を出すと良いか、出さないとしたら代替手段はあるのか、考えてみましょう。
テレビ会議に限りませんが、会議のような1人以上が集まって何かしらコミュニケーションが発生する際に、2つの軸がありそうです。
・参加者が少ない ←→ 参加者が多い
・関係性が薄い ←→ 関係性が濃い
たとえば、新しい少人数のプロジェクトが始まるときの顔合わせであれば、参加者は少なめで関係性も薄い状態であり、その目的から考えれば文字通り、顔を出した方が良いでしょう。
たとえば、関係性がすでに濃い相手と1対1で話をするなら、顔を出さなくても大丈夫。つまり電話ですね。気心を知れた相手なら、どういった反応があるか顔を見なくてもわかります。
たとえば、関係性の薄い人数が多い相手に対して話をするのは講演です。1対他のコミュニケーションをするテレビ会議にはコツがあります。そのノウハウについては後述します。
関係性が濃い状態で、参加者が多いというのは、実際のところ、あまり有り得ません。本来は人数が増えるに従い、どうしても関係性は希薄になってしまうものだからです。
非対称はコミュニケーションを阻害する
テレビ会議の目的、人数や関係性によって顔を出すかどうかは変わってくるとして、どうしても避けたいのが参加者同士が非対称な状況でのコミュニケーションです。
テレビ会議において、一方だけが顔を出して、もう一方が顔を出していない状況になると、コミュニケーションが成立しにくくなります。出さないなら、いっそ両方が出さない方が良いでしょう。
これは、以前から私がずっと提唱してきた会議室からのテレビ会議を廃止したいことにも通じます。数人が会議室で集まって話をしているところに、一人だけテレビ会議でつないで入る状態は、よくある光景ですが、これでは円滑なコミュニケーションはできません。
テレビ会議をするなら、全員が自分のパソコンからテレビ会議に入ること。そうすることでマイノリティが作られないので、立場や関係性はさておき、物理的には対等にコミュニケーションをとることができます。
リアルの良さは、そういったコンディションの公平性が、場所に集まることで担保できることでした。テレビ会議においては、ネットワークの安定性やパソコンの調子など、そうした環境整備が個々人に委ねられてしまいます。
これからは、そうした各自のテレビ会議のための環境構築は、社会人が身だしなみを整えるのと同じくらいの基礎的なリテラシーになってくるでしょう。
多数の参加者の前で講演するノウハウ
私は立場上、オンラインで講演をする機会が多くあります。そして、オンライン講演の場合は参加者の人たちは顔を出さないことが多いです。社内講演などは、ネットワークを圧迫するなどが理由らしいですが、どうも話にくいと思っていました。
講演する側まで顔を出さないというわけにはいかないので、完全に非対称な条件になります。話をしても、誰の反応も見えないので、まるで暗闇に向かって話している感覚になります。もはや事前に収録して流せば良かったのでは、と思うことも。
とはいえ、聴衆の方々に顔を出していただいたとしても、たとえばZoomだったら、プレゼン資料を画面共有してしまうと、結局のところ顔が表示されるのは、せいぜい数人となります。
そこで、最近は顔を出してもらうのではなく、チャットで反応してもらう方式に変えました。本質的には、聴いて下さってる方々の反応があり、それを受けて気持ちを込めて話ができれば良いので、大事なことは顔が見えることではない、と考えを改めました。
Zoomであればチャットウィンドウを、プレゼン資料を映す画面とは別のところに表示をして常に見える状態にしておきます。そして、プレゼンテーションの最初に、参加者の皆さんにチャットでリアルタイムに反応をしてもらうようにお願いします。
だいたい私の場合、その日の朝食か昼食で何を食べたか、チャット欄に参加者の方々に書いてもらうところからスタートします。一度やっておくと、そのあとのハードルが下がるためです。そして、相槌の代わりに「へー」「なるほど」みたいな一言でも良いので、話の途中で書いてもらうようにします。
そうすると、聴衆の方々の顔が見えなくても沢山の人が聴いてくれていることが実感できます。よくある質疑応答なども、講演後に手を挙げてもらうのではなく、リアルタイムに出してもらって、講演中に回答していくこともします。
そうした工夫で最近は講演の際に顔出しをしてもらわなくても楽しめるようになってきました。
ヴァーチャルの顔はリアルなのか?
対話を目的としたテレビ会議だと、お互いの顔が見えた方が、表情を見ることで話していることの理解度や、面白く感じてそうか、つまらなそうか、たくさんの情報が得られます。
それでも、リアルに会うことの情報量には敵いません。だから出社を推奨するというのも短絡的で、もはや時代錯誤です。なので、テレビ会議でも情報量を増やすことに意義があります。
ただ、声以外の情報量といった際に、どこまでのリアリティが必要なのかは、改めて考えても良いでしょう。
瞬きの回数、目線の動き、口元や目元から発せられる表情、汗や紅潮した頬で感じられる緊張などでしょうか。それ以外の、顔つきや肌の色、髪型などは必須とは言えません。
リアルとテレビ会議の大きな違いはデジタル化されているかどうかです。今や写真は、リアルをそのまま映すものではなく、加工されるのは日常茶飯事で、写真とCCの違いもなくなりつつあります。それがデジタルの力です。それは、テレビ会議というリアルタイムの動画処理に対しても応用できます。
最近は、Zoomにもアバター機能がつきましたが、目と眉と口をトラッキングして表情を作れるようになってきました。まだ情報は足りていませんが、リアリティの追求は時間の問題でしょう。
そうなってきたら、目的を達するには、もはやアバターで十分となります。顔出しをするかどうかの議論は過去のものとなるでしょう。それも、そう遠くない将来のうちに。
お知らせ)監修に携わった書籍が出ます
テレビ会議で顔を出す是非はともかくとして、これからリモートワークに取り組もうとする「働く人の目線」で書いた本が発売されます。45の具体的な事例と手法で、わかりやすくリモートでの働き方を解説しています。