先日「ユーザエクスペリエンスのためのストーリーテリング」という本を献本頂きました。ありがとうございます。本書はユーザエクスペリエンスとストーリーテリングについて学ぶことのできる本です。前半は、ユーザエクスペリエンスそのものについての重要性の理解から、表現としてのストーリーテリングの必要性について説明し、そして、本書の後半では具体的なテクニックも交えて手法について解説しています。
具体的なテクニックや内容は本書を読んで頂くのが良いと思いますので、以降では私が本書を読んで感じたことや、考えたことを記しておきます。書評というよりコラムになってしまいました。
目次
ユーザエクスペリエンスの難しさ
そもそもユーザエクスペリエンスとはなにか。ソフトウェア開発で言えば、ディスプレイに表示される画面のインターフェースのことではありません。それは単なるユーザインタフェースに過ぎないのです。ユーザエクスペリエンスとは、利用者がそのソフトウェアと対峙をした際に感じる気持ちや感覚、結果として受ける印象や思考の流れのことまでを含んだもののことです。
ユーザエクスペリエンスの設計は、単に出来ることを満たせば良いかどうかという機能の話だけではなく、どんな色や絵を配置するかといった見た目の話だけでもなく、ユーザ自身の体験を設計しなければいけないので非常に難しいことです。しかも、設計者が設計したものを「伝える」方法はさらに難しいのです。「ユーザの体験」を伝えるって一体どうすれば良いのでしょうか。
そこで「ストーリー」を使います。ストーリーとして表現すること、伝えることで、「ユーザの体験」を考えることが出来るし、共有することができます。ストーリーテラーとして書き出すことで、利用者の心理状況を具体的に考えることができるし、オーディエンスはストーリーを読むことで利用者の気持ちを追体験することができます。
ユーザエクスペリエンス設計は誰が身につけるべきか
製品のユーザエクスペリエンスは、誰が設計するべきでしょうか。もしくは、ユーザエクスペリエンスの善し悪しを誰が判断すべきでしょうか。単にUX専任のデザイナーがいれば済む話ではありません。ユーザエクスペリエンスとは製品そのものを表すと言ってよくて、だからこそ、製品やサービスの責任者自身が、ユーザエクスペリエンスの設計に携わるべきです。専門家にアウトソーシングして済む問題ではないのです。
製品やサービスの責任者であれば、ユーザエクスペリエンスを考えるべきだし、他に作り手がいるのであれば、それを伝えなければいけません。ユーザインタフェースの設計に画一的な答えはありません。使うユーザやシチュエーション、そのサービスで実現したいビジョンによって、ユーザインタフェースは変わってきます。そのユーザインタフェース設計の前提となるのがユーザエクスペリエンスについての共有です。
ユーザエクスペリエンスがちゃんと伝わっていなければ、ユーザインタフェースや機能についての本当に細かい点まで伝えないと思い通りにならないと嘆くことになるでしょう。しかし、ユーザエクスペリエンスが共有できていれば、そんなことにはならないはずです。製品やサービスの責任者であれば誰でも、ユーザエクスペリエンスについて学び、伝え方としてストーリーテリングを学び、実践すべきです。その学びのきっかけとして本書を読むと良いでしょう。
アジャイルとユーザエクスペリエンス
ソフトウェア開発においてはアジャイル開発というのは、ユーザエクスペリエンスを高める最良の方法だと、考えています。ソフトウェアの場合は、実際に動かすまで本当にどんなユーザ体験が起きるのかわかりにくいという問題があります。動くソフトウェアなしでユーザエクスペリエンスを高めることはとても難しいのです。よって、アジャイル開発を通じて動くソフトウェアで確認していくことは効果的なんです。
ではストーリーは不要でしょうか。そんなことはありません。大河ドラマほどになるような膨大なストーリーを最初から最後まで用意しておくようなことは必要ありませんが、プログラミングをしていくにあたり、やはり何かしらのよりどころがなければ、ユーザインタフェースの設計に一貫性を欠くことになってしまいます。
アジャイルの場合は、一気にすべてのストーリーを書き上げるのではなく、少しずつ書いていき、それにあわせて少しずつ動くソフトウェアを完成させていき、その動くソフトウェアからのフィードバックをうけてまた、ストーリーを書き直したり書き足したりしていくというやり方になります。アジャイル開発では昔から、作るべき仕様を「機能」や「要求」と言わずに「ユーザストーリー」と呼んでいたのです。
アジャイルジャパン東京サテライトでも、ユーザエクスペリエンスに関するセッションがありますので、ユーザエクスペリエンスに興味をもったなら、ぜひご参加ください。
目次 こちらより引用
- 1章:なぜストーリーなのか?
- 2章:UXストーリーの効果
- 3章:ストーリーは聞くこと、そして観察することから始まる
- 4章:ストーリーの倫理
- 5章:UXプロセスにおけるストーリー
- 6章:ストーリーを集める
- 7章:ストーリーを選択する
- 8章:アイデアを生むストーリーの使い方
- 9章:ストーリーで評価する
- 10章:ストーリーを共有する
- 11章:ストーリーをクラフトする
- 12章:オーディエンスに配慮する
- 13章:ストーリーの構成要素を組み合わせる
- 14章:構造とプロットを作る
- 15章:ストーリーの伝え方
- 16章:新しいことに挑戦する