「100人のプロが選んだソフトウェア開発の名著 君のために選んだ1冊」という本が翔泳社から出版されます。僭越ながら私も寄稿させて頂きました。翔泳社さんのご好意でブログで原稿を公開しても良いということでしたので公開します。
本書は、2月の16日17日の2日間で開催されるDeveloper Summit 2012(デブサミ)の10周年を記念して出版される本で、デブサミ当日に会場でも購入することができますし、この本の多くの著者の方々もいらっしゃるようです。私も両日とも参加します。
私の選んだ本は、Eric Sinkの「Eric Sink on the Business of Software 革新的ソフトウェア企業の作り方」という本です。色々ある本の中で1冊だけ選ぶというのはとても難しかったのですが、私がプログラマでありながらビジネスを考えるきっかけになった本ということで、この本を選びました。他の方と被らなければ良いなーと思ってたんですが、アプレッソの小野さんが選んだのと同じ本でした。。。ま、それだけ良い本だということで。
起業のサクセスストーリーはたった一つじゃない〜起業を考えはじめたプログラマに読んでもらいたい1冊
革新的ソフトウェア企業の作り方 Eric Sink on the Business of Software
「起業すること」は、多くのプログラマが一度は考えることだと思います。オープンソースやクラウドといった環境が整いつつあり、スタートアップについても以前に比べ遥かに多くの知識を得ることができるようになりました。私としては、たくさんのソフトウェア企業が出てきてほしいし、プログラマ自身が起業することは多いに賛成なのですが、それでも、安易に会社を辞めたりするのではなく、まずは、どういった企業を作りたいのかを考えるべきだと思います。もちろん、本当に起業すべきかどうかも考えるべきです。
自分一人で食べていくフリーランスなのか、コンサルティングや受託開発をするのか、自社の製品を広めたいのか。ベンチャーキャピタルから出資を受けるか自己資金か。短期間での上場を目指すのか。目指すビジョンによって採るべき選択肢は大きく変わってきます。世の中で目にするスタートアップに関する情報は、ウェブサービスを立ち上げてベンチャーキャピタルから投資をうけ、上場かバイアウトによって一攫千金を得たというようなサクセスストーリーが多いです。しかし、それだけが成功のビジョンではないはずです。
起業を考える上でも、企業のあり方には様々なビジョンがあることを知っておくべきだと思い、本書を推薦します。
この本には「小さなISV」という表現が出てきます。ISVとはIndependent Software Vendorの略。自社でソフトウェアを作り販売しているソフトウェア会社のことです。中でも、特に少人数で構成されている会社のことをそう呼んでいます。著者のEricはこう言っています「小さなISVは小さいままでいる傾向がある。大きくなるにしても、成長はゆっくりとしている。有機的に成長し、自身の利益を投資することで成長する。小さなISVは地味でも収益を上げていることが多い」。こうした会社のあり方も一つのビジョンなのです。
私は、学生時代にベンチャー企業で働いた後、大手のシステムインテグレータに就職し、そこで12年働きました。その大企業の中では、現場部門から企画部門など様々な部署を経験させてもらい、そこでの最後の2年は社内ベンチャーという形で小さな組織を経営する経験をしました。今は、その社内ベンチャーである「SonicGarden」をMBOすることで、株式会社ソニックガーデンの代表取締役をしています。ソニックガーデンも小さな会社であり、これからもさほど大きくしていくつもりはありません。それが私のビジョンだからです。
私たちはアジャイルソフトウェア開発が好きで、自分たち自身で実践していたいと思っています。アジャイル開発では分業をしないため、プログラマはただコーディングをするのではなく、ソフトウェアを作る全ての役割を担います。プログラマが多くの役割を担うことで、間接的な職種や情報共有のための会議などを極力なくして高い生産性を発揮できるようにするために、小さな組織であることを大事にしています。小さな組織で大きな収益をあげることは、時間を販売していては成立しないため、ビジネスモデルが重要になります。
ソフトウェア企業の場合は大量の資金調達がなくても成立するため無理に上場する必要はありません。小さい組織のままで大きな利益をあげていくことで、社員全員で、長く豊かな生活を送るというビジョンをもっています。一般的な起業とは違うイメージかもしれませんが、こうした考えかたもあるということです。
起業を考えたとき、一か八かの一攫千金を狙って大きな賭けに出るようなビジョンだけではなく、ローコストながらも着実に成長するようなビジョンもあると知っておくことはとても大切です。本書を読むことで、後者のビジネスにおいてオーナーシップを持つにはどうすれば良いか、プログラマならではの視点から学ぶことができます。