ガントチャートの功罪 〜 新規事業で工程表を作ることに意味はあるか?

ガントチャートの功罪 〜 新規事業で工程表を作ることに意味はあるか?

「納品のない受託開発」を通じて、新規事業におけるソフトウェア開発を手伝わせて頂いていることもあり、そこで得た知見を活かして新規事業の審査員のような仕事をさせて頂くことがあります。

そこで審査のために提出された資料の中にあるガントチャートや工程表を見るとき、いつも違和感を感じていました。この記事では、ガントチャートが新規事業においては有効ではないという気付きについて書きました。

ガントチャートは決められた工程の管理をするのに最適

ガントチャートや工程表は、あらかじめ完成品が見えており、工程がはっきりしたものを「製造」していくときに非常に役に立ちます。どの工程にどれくらいの工期がかかるのか見えるようにすることで全体の計画が把握できます。

ガントチャートを有効に使うためには、きちんと工程を分解できること、とりかかる工程の順番がはっきりしていること、それぞれの工程にどれくらいの期間がかかるのか見積もりが出せることが必要です。

だから、あらかじめ決められた製品を作り上げるプロジェクトマネジメントの進捗管理には最適です。もしくは、一般的な受託開発のように納品すべきものが決まっている場合のプロジェクトマネジメントでも有効でしょう。

しかし、あらかじめ工程や工期がはっきりしないものや、優先順位が頻繁に入れ替わってしまうものには有効に働きません。予測の難しい分野や変化への対応が頻繁に求められる状況でのガントチャートは不適なのです。

新規事業では計画通りに作ったところで成功する訳ではない

新規事業は、あらかじめ決められた工程を進めていけば成功するものではありません。どれだけ一生懸命に作業をしても、作業を計画通りに進捗させても、事業なのですから商売にならなければ成功とは言えないのです。

しかし、製造業やシステムインテグレータ出身のマネージャが新規事業に取り組むと必ずと言っていいほどガントチャートや工程表を作ろうとします。私も開発のマネージャをしていた時期に作った事業計画書では線表を引いていた気がします。

しかし、工程通りに進んで成功するなら、どんな新規事業もいずれ成功しているはずです。新規事業は立てた計画の通りに進められれば成功するというものではありません。事業として成立する以外は、進捗率がどれだけあっても無意味なのです。

新規事業のような不確定要素の大きなものを、ガントチャートのような確定的なもので把握しようとすることに違和感を覚えるのです。むしろガントチャートで計画しようとすることで新規事業が失敗してしまうように思えます。

ガントチャートを使ったマネジメントで新規事業は失敗する

ガントチャートのメリットは、それぞれの工程ごとに締め切りが用意されて、時系列に工程を把握できることです。このメリットは逆に考えれば、その時間内であれば作業に余裕が生まれてしまうということです。

工程ごとに見積もるときに担当が決められると、必ずバッファが用意されるでしょう。そのバッファを使わずに前倒しで工程が進めば良いですが、締切があると人間はそれに合わせて仕事を終えてしまうものです。それが「パーキンソンの法則」です。

また、ガントチャートのメリットは、何が進んでいて何が遅れているか進捗が良く見えることです。進捗が見えすぎるからこそ、作業が進んでいることが事業にとって正しいことだと勘違いしてしまうことに問題があります。

新規事業において大事なことはどれだけ進んでいるかどうかよりも、正しい方向に進んでいるかどうかです。ガントチャートに従って、時間通りに進捗を守って進むことを目指してしまうと、新規事業は失敗する可能性が高くなります。

新規事業では進むスピードより方向転換するスピード

新規事業は当たるビジネスモデルを見つけるまでの実験の繰り返しのようなものです。仮説を立てて検証を行って、その仮説が正しいかどうかで決まります。一発勝負でなく小さく仮説検証を繰り返すのがリーンスタートアップと呼ばれています。

どれだけ多くの仮説検証を繰り返すことが出来るかどうかは、小さく方向転換ができるかどうかにかかります。新規事業で求められるスピード感とは、方向転換をするスピードのことです。そのためには、小さなチームで検証をする方が有利です。

小回りの効く小さなチームで多くの検証をするためには、限られたリソースを有効に使う優先順位こそが重要です。優先順位は検証結果によって、逐一変わってきます。そうした変化を前提とするならガントチャートでは捉えきれません。

方向転換をする際には、それまでに作ったものを捨てることさえ良くあることです。最初からしっかりと計画を立てて作ってしまうと捨てにくくなってしまいます。開発は新規事業における検証の手段に過ぎないと考えるべきでしょう。

シンプルに考えて優先順位で並べた一覧だけで管理する

日々のマーケティングや仮設検証の結果からのフィードバックを受けて、頻繁に優先順位や取り組むべき内容が変わっていくような場合には、どのように計画を立てるのが良いのでしょうか。

予測のつかない状況では時系列に合わせた計画はすぐに破綻してしまいます。そこで例えば私たちがやっているのは、取り組むべきタスクや課題を優先順位で並べた一覧だけで管理をする方法です。

タスクごとに進捗率などは管理せず、済んだか済んでないかだけで把握します。誰かの握った仕掛かり状態のタスクは方向転換のボトルネックになるので避けるようにするため、なるべく小さな単位にするのが良いでしょう。

現在から近くて優先順位の高いものは具体的で詳細な内容になっており、先のことはある程度ざっくりとした内容になりますが、それで仮説検証を進めるには十分です。将来まで緻密に予測しても結局は変わってしまうことの方が多いからです。

計画表を作ることよりも、計画を立てることに本質がある

それでは、いつ頃に何が完成するかわからない、という問題が出てきますが、新規事業の本当の初期の段階では完成させることはゴールではありません。そして、事業として立ち上がるのがいつ頃かどうかは、そもそも誰も予測できません。

ここに企業として新規事業に取り組む際のジレンマがあります。計画のないものに投資は出来ないが、事業のアイデアが正しいかどうか、売れるかどうかは計画など立てることなど出来ないのです。だから本当にやりたい人は会社を飛び出す訳です。

ただ勘違いしてはいけないのは、計画が不要ということではありません。計画すること自体は非常に重要なことです。計画することは、仮説を立てることであり、道筋を考えることで、それがなければ方向転換をするかどうかも定まりません。

計画をした過程はメモとして残すことはできるし、取り組む課題は一覧で管理することはできるけれど、それをガントチャートや工程表のような形で確定させて、それに従って進めようとすることが現実的ではないということです。

倉貫 義人

株式会社ソニックガーデン代表取締役社長。経営を通じた自身の体験と思考をログとして残しています。「こんな経営もあるんだ」と、新たな視点を得てもらえるとうれしいです。

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