社内ベンチャーの経験から学んだ新規事業の失敗を防ぐための5つのポイント

社内ベンチャーの経験から学んだ新規事業の失敗を防ぐための5つのポイント

企業が新規事業を創り出す為にはどうすれば良いでしょうか。それまでの延長上にない事業を創り出すためには、それまでの延長上でない形が必要なはずです。その一つの取り組みが「社内ベンチャー」でしょう。

社内ベンチャーとは、既に事業をもっている大企業の中で、新規事業創造を目的に独立した事業部隊として作られる組織のことです。法人登記をしていないため、法人格をもった会社ではありません。

Soup Stock Tokyo」が、三菱商事の社内ベンチャーから始まったことをご存知の方も多いでしょう。以下の本に詳しく書かれており、私も読みましたが、とても興味深い内容でした。

私たちの会社ソニックガーデンも、元々は大企業の社内ベンチャーとしてスタートして、今は買い取って完全に独立した会社にさせてもらっています。社内ベンチャーをしていた期間は2年間でしたが、そこでは非常に沢山のことを学ばせてもらいました。

ただ、私が社内ベンチャーを始めたときは、社内に制度があった訳ではなかったので、事業に取り組みつつ、様々な社内の仕組みについても作っていきました。うまくいった部分も、どうしても出来なくてうまくいかなかった部分もありました。

以前、「新規事業における事業計画から始まるジレンマ〜企業内リーンスタートアップが難しい理由とその対策」という記事を書きましたが、この記事では、その中でも「社内ベンチャー」にフォーカスをあてて、どうすれば社内ベンチャーがうまくいくのか、を考えてみました。

 

Green houseGreen house / SX-242

社内ベンチャーの関係者は、大きく分けて2種類あります。社内ベンチャーをつくる会社側と、実際に社内ベンチャーをする側です。社内ベンチャーを成功させる為には、片方だけの努力では駄目で、双方が協力しあわなければいけません。

この記事では、会社側とベンチャー側のそれぞれの立場からのポイントを書いています。

 

1)新規事業を生み出すのは経験を積んだチームである

新規事業を立ち上げるというときは、事業計画通りにいくなんてありえません。最初のアイデアがあったとして、そのアイデアをもとに事業計画を書いて、会社の経営会議で議論して予算をつける決裁したからといって、それでうまくいく訳がないのです。

アイデアに予算をかければ、そのままリターンになるのは既存事業の延長です。新しいことをするのに、予算さえ付ければうまくいくなんて幻想です。

新規事業を立ち上げるための活動は、仮説と検証の繰り返しです。正しい方向に向かっているかどうかを常に確認しながら、間違っていたら方向から見直していかなければいけません。

そうであれば、最初に立てた事業計画とは違う事業をすることになってしまうこともあるでしょう。そのときに大事なのが「チーム」です。

それまで一緒に、新規事業のためにトライ&エラーに取り組んできたチームが財産になります。

大企業で失敗しがちなのが、プロジェクト制で新規事業に取り組む形です。特定の事業にトライしてみたもののうまくいかなかったら解散してしまいますが、これは非常にもったいないことです。そのチームでの学びが分散されてしまうからです。

新規事業を創り出したいならば、まず作るべきは「チーム」であって、事業ではないのです。新規事業を生み出すためのチームで経験を積ませて、その中でピボットしつつ新しい事業を見つけていくのです。

これは時間のかかることです。それだけの忍耐力が企業側には必要になりますし、社内ベンチャー側にも、自分たちがやりきるんだという意識が必要になります。

 

2)本社のリソースに頼らず対等の立場で考える

それまでの事業の延長上にない新しい事業を創り出そうというときに必要なリソースとオペレーションは、当然ですが、それまでの事業で用意していたものとは異なります。

社内ベンチャーで陥りがちなのが、本社側のリソースを使おうとしてしまうことです。

例えば、技術は得意な人たちだけで立ち上げてしまって、営業経験が足りないとき、本社の営業部隊に売ってきてもらうことを考えたりします。

しかし、そのケースでうまくいくことはないでしょう。本社側の既存事業をしている営業部隊は、既存事業に最適化されていますから、新しい商材を扱うことには長けていません。

何よりも、既存事業と新規事業で、事業規模が違いすぎるため、既存事業の営業部隊からすると魅力がありません。

そこに「シナジー」なんて掛け声は虚しいだけです。

そもそも、新規事業を創り出す半分の大事な仕事は「顧客を見つけること」なので、それを外に出そうという根性では、うまくいくわけないでしょう。

また、既存事業でベテランと呼ばれている人たちのアドバイスは、驚くほどあてにならないことも知っておくべきです。人生の先輩として尊敬はしても、彼らは既存事業で実績を積んでいるからこそのベテランな訳で、そのままでは参考にならないことが多いです。

本社の持つリソースを使うのであれば、本社に対して、それなりの見返りを渡さなければいけません。つまり、会社対会社の関係で依頼するのです。その依頼先として、最初に相談する先としては信用の面で考えても本社は妥当でしょう。

 

3)小さくても会社としての機能を自分たちですべて持つ

社内ベンチャーをするならば、小さくても会社としてのすべての機能を自分たちで受け持つつもりで始めないと、うまくいきません。

本社のリソースを前提としてるようでは、まだ本社の小さな事業部に過ぎないのです。

ただし、それを実現すると、社内ベンチャーのことを本社の経理や総務といった本部機能は煙たがります。そもそも本部機能とは、全社で共通化して持たせることで効果を出す組織であるため、例外処理をもっとも嫌います。

しかし、社内ベンチャーで新しいことをしようとすればするほど、既存事業とオペレーションの違いが出てきます。ひとつの案件が数千万から数億のオーダーで処理するような既存事業と、ひとり月額いくらで処理する新規事業で同じ経理処理な訳がありません。

それを、毎度の例外処理とするのは、社内の調整に時間がかかりすぎるため、社内ベンチャーとしてはやってられません。

新規事業を創り出すというのは、ただ製品をつくる、ということではなく、新しいビジネスモデルでマーケットを創り出すということであり、そのためにはオペレーションも含めて独立させて実行させるべきです。

また、評価を含めた人事権は、社内ベンチャーの責任者に渡した方がうまくいきます。それまでの既存事業での評価基準とも違ってくるのは間違いないからです。それが出来るだけの権限をもっているといいでしょう。

私たちのケースでは、最後までここがネックでした。

あとはオフィスを物理的に分ける、というのは思っているより効果があります。物理的な距離をおくことで、心理的な効果を発揮するのだと思います。

 

4)社内ベンチャーとしてのミッションとビジョンをもつ

新規事業というのは、生み出すことはもちろんのこと、売上が経つまでにも時間がかかりますし、利益を出すとなったらなおさらのことです。それだけの期間をじっと耐えながら続けるのです。

そうしたときに、拠り所になるのは、会社からの指示や命令ではなく、社内ベンチャーをしている自分たち自身が何のためにするのか、という内発的動機が必要です。

社内ベンチャーというのは、本社の組織からしてみると非常に特異な存在になるため、他の社員からも様々な視線を受けます。そうしたときに、なぜ自分たちがやっているのか、強い意志がなければ負けてしまいそうになります。

その会社内における居心地の悪さといったらないです。

社内ベンチャーを進めた先に、そのチームである自分たちが目指す方向性、成し遂げたいビジョンがあると良いですね。

それぞれの会社で社内ベンチャーにもEXITプランが用意されると思いますが、ただの事業部になるのではなく、別の会社として独立することを目指す方が、より前向きに頑張れるでしょう。

社内ベンチャーとして成功したときに、会社として独立する際にビジョンをもって立ち上げることができるようにするためにも、その社内ベンチャーの期間でビジョンを熟成させることが肝要になります。

私たちは、社内ベンチャーを始めた当初はビジョンなんてなかったですが、EXITする頃にはビジョンができあがっていました。メンバーのみんなでビジョンを煮詰めることをしていなければ、途中で空中分解していたかもしれません。

 

5)社内ベンチャーは始めたい社員の思いから始める

私が社内ベンチャーを始めたときは、社内ベンチャーがしたくて始めた訳ではありませんでした。

やりたかったことは、自分自身で育てた社内SNSの製品を使って、自分たちのチームのメンバーと、自分の考えたビジネスモデルで事業をすることでした。

それを、当時に所属していた会社の社長との会談の中で、プレゼンして説得した上で、ご理解頂いて、新しい事業に取り組むことにOKをもらったのでした。その際は、すぐにでも子会社を作ってやっていく、という位の勢いでした。

しかし、上場企業でそう簡単に子会社など作れる訳も無く、まずは社内で事業をすることに、その際の器として、通常の事業部とは切り離した形で、ということで、社内ベンチャー制度を作ることになりました。

なので、社内ベンチャー制度があった上で、私が始めたのではなく、私たちの事業のためにその制度を作って頂いた形になります。

私は、私自身が言い出したことでもあり、始めたことでもあるので、何が何でもやり遂げる思いでいましたし、成功しても失敗しても会社を去ることは心に秘めていました。

最終的に、自分たちの会社にするという、とても良い形でEXITさせて頂くことが出来ましたが、これが、自分の思いから始めたものでなければ、やってこれなかったと思います。

社内ベンチャーと言えども、本当にスタートアップするつもりの決意で始めることが大事なんだと思います。

ベンチャーキャピタルからの出資や、銀行からの借入をしてでも始めたい事業があるのだとしたら、サラリーマンの場合、最初に相談する相手として、所属するその会社というのは、良いのではないか、と思うのです。

もし、信頼関係のある自分の会社の人間ですら説得出来ないのだとしたら、ベンチャーキャピタルからお金を出してもらうことなど出来る訳がないように思います。

成し遂げたい思いがあるなら、自分の環境を最大限に活かすことは悪いことではないはずです。本当にお互いにメリットがあるなら会社側も支援するはずです。それが会社です。

起業するときに大事になるのは、なんとしても事業を成功させるという思いであり、それがあれば、会社を作るのか、社内ベンチャーでやるのか、そんな形については些細なことではないでしょうか。

倉貫 義人

株式会社ソニックガーデン代表取締役社長。経営を通じた自身の体験と思考をログとして残しています。「こんな経営もあるんだ」と、新たな視点を得てもらえるとうれしいです。

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