今回の記事では、社員や仲間を集めて起業しよう、良い経営をしていきたいと考える人に読んでほしい本を紹介します。この本は、私が初めて経営に取り組み始めた頃に出会い、それから何度も読み返している一冊です。
本書では、どうやってビジョンを作り出し共有していくのか、企業経営と個人の生き方におけるビジョンの効果について知ることができます。本書を読んで、仲間の力を一致団結させる「ビジョン」について学んだことを記事にしました。
会社にビジョンがあれば、一丸となってがんばれる。
人生にビジョンがあれば、決して後悔することはない。
大切だけれどわかりにくい「ビジョン」の創造と実践を、
ストーリー形式でやさしく教える。
目次
どうすれば共感を得られ、指針となるビジョンを作り出せるか
本書はビジネス書ですが、すべてストーリー形式で記述されています。保険会社を経営する2代目社長のジムと、離婚をきっかけに中途採用でその会社に入社したエリーの二人が、会社のビジョンを考え、それぞれの個人のビジョンを考えて実践していきます。
ストーリー形式のビジネス書は、翻訳されたものだと読みにくいものが多い中で、本書は非常に読みやすく書かれています。もともとの表現もシンプルで、かつ翻訳の仕方も上手なのだと思います。気軽に読み進めることが出来つつ、読み終えたときにしっかりと心に残るもののある書籍です。
また、本書で扱う「ビジョン」ですが、とかく曖昧で捉えにくいビジョンについて、ビジョンとはそもそも何か、というような教科書的な話をするのではなく、主要登場人物である二人の立場から、どうすれば社員から共感を得られ、指針となるビジョンを作り出せるか、を示してくれるため、とても参考になるはずです。
「はっきりした目的をもち、その実現に一生懸命取り組み、きっと実現できると自分を信じるーつまり『ビジョン』をもつことによって、どんな障害があろうと断固として前進していくという意味だよ」(p.30)
ビジョンがあれば、管理しなくても社員全員が全力で働ける
本書の原題は”FULL STEAM AHEAD!”というもので、日本語にすると「全速前進!」になります。
会社にビジョンがあり、社員の皆がそのビジョンに共感すれば、全員が、何を、何のためにやっているのか、きちんと意識することができるようになり、エネルギーにあふれて取り組むことができるようになります。その状態を「全速前進」と呼ぶのです。
会社に共通のビジョンがあれば、いちいち人を管理する必要がなくなります。目指すべき目標と方向性がはっきりしていれば、それぞれの現場での行動などは、それぞれの社員に任せておけば良いのです。
同じビジョンに向かう仲間には、強い信頼とお互いへの尊敬の念で結ばれるのです。
「従業員ひとりひとりが、自分で判断する権限を与えられていた。いちいち父や幹部にお伺いを立てる必要はなかった。自分の行動には自分で責任をもち、自分の将来も、幸運を座して待つのではなく、自分の力で切り開いた。各自が自分らしい方法で実力を発揮できたし、個性が尊重された。それもまた、全員が会社という船に乗り組んだ仲間同士という自覚をもっていたからだ」(p.32)
ビジョンの構成要素(1)有意義な目的
説得力のあるビジョンのためには「目的」が必要です。社員全員が一致協力できるようにするためには、共通の「わが社の目的」が必要だと考えます。そのためには、自分たちが売っているものは何か、を知る必要があります。
マットレスを売る会社は、ただマットレスを売っているのではなく、顧客が買いたいものを「安眠」だと定義すれば、会社の使命が見えてきます。自分たちの使命が何かを理解すれば、社員たちは何をすればいいか、自分たちで考えられるようになります。
目的において大事なことは「顧客の視点」です。ビジョンにおける目的は「なぜ」を説明するものです。なぜ、なんのために、それが目的です。
「目的というのは、自分はなぜこの会社で働いているのか、自分はなぜ生きているのかを理解することなんだ。全員が『目的』の達成に向かって力を結集できるように、わが社の使命は何なのかを、みんなが理解するということなんだ」(p.38)
ビジョンの構成要素(2)明確な価値観
そして、その目的のために「いかに」を伝えるのが「価値観」になります。価値観は、いかに、どうやって判断するか、その判断基準となるものです。価値観があれば、その価値観に合致した行動をとることができ、それも組織に「全速前進」を促すことになります。
価値観を考えるときに大事なことは「優先順位」をもつことです。優先順位をはっきりすることで明確な価値観になります。
「社員と会社の価値観が一致すれば、もっとやる気もわくし、誇りをもって働けるようになる。仕事の質も高まる。価値観をはっきりさせることのメリットは、そういう情熱がわいてくるからかもしれないね」(p.86)
ビジョンの構成要素(3)未来のイメージ
そして、「有意義な目的」と「明確な価値観」に加えて必要な、ビジョンの最後の要素は「未来のイメージ」です。
どうありたいか、ビジョンに必要なのはプロセスではなく、最終結果そのものに焦点を絞ったものです。そうすることで説得力のあるビジョンになるのです。未来のイメージは、なくしたいものではなく、手に入れたいものに集中することです。
ビジョンとは何か
ビジョンとは、自分は何者で、何をめざし、何を基準にして進んでいくのかを理解することである
個人の人生にもビジョンがあれば前向きに過ごせる
本書では、会社におけるビジョンのつくり方、そして伝えかた、実践のしかたについて書かれていますが、そこに加えて、個人の人生におけるビジョンの力についても語っています。
個人においてもビジョンがあることで、日々の生き方に不安や迷いがなくなり、前向きに過ごすことができるようになると伝えています。
個人におけるビジョンは、どのように捉えることができるのでしょうか。本書では、ノーベル賞の生みの親であるアルフレッド・ノーベルのエピソードを元に紹介しています。
「ノーベルの兄が亡くなったとき、ノーベルは新聞が兄のことをどう書いているか知りたくて、スウェーデンにある新聞を手に取った。ところがその新聞社は兄と弟を取り違えたらしく、そこにはアルフレッドの死亡記事が載っていた。アルフレッド・ノーベルはダイナマイトの発明者だったから、その死亡記事にはダイナマイトやそれがもたらす破壊のことばかり書いてあった。ノーベルは非常にがっかりした。(略)以来、彼は自分が『平和』によって人々の記憶に残るように、人生の舵を切り直したんだ」(p.146)
自分の死亡記事を書いてみることで、自分のビジョンが見えるかもしれません。
ビジョンを伝え一緒に語り合うのがリーダーの振る舞い
会社のビジョンは、リーダーがただ一人で考えて、立派な額に飾ってもまったく意味はありません。社員全員が共感し、日々の仕事の中での判断基準にして、一致協力して向かえる目標として成立しなければいけません。
そのためには、3つのプロセスが必要です。ビジョンの創造、ビジョンの伝達、そしてビジョンの実践です。
全速前進!するためのその1:ビジョンの創造
ビジョンの創造は、ただ一人でするものではありません。ビジョン創造のプロセスはそれ自体が、ビジョンそのものと同じ位に大事なことなのです。
そのためには、リーダーが作った叩き台を皆からの意見で直していくことが必要です。それでも最初の叩き台をつくるのはリーダーの仕事です。
「この会社のリーダーとしてのあなたの役割は、人々にビジョンを語らせ、彼らのビジョンを守ることであって、ビジョンを『私物化する』ことじゃないわ」(p.155)
全速前進!するためのその2:ビジョンの伝達
ビジョンの伝達で考えることは、社員たちが自分ごととして考えられるようにすることです。
トップダウンでスローガンを投げかけても駄目なのです。自分ごとで考えられるようにするために、ビジョンの創造に参画させることが重要です。誰だって、自分が考えたことなら、愛着もわくからです。
そして、そのビジョンづくりは、どこかで完成があるものではない、というのです。ビジョンを伝えていくのはリーダーの最大の任務のひとつであり、それは、ビジョンを一緒に語り合うことに他ならないのです。
「ビジョンの創造は静的なプロセスじゃない。一度つくれば、それでおしまいというものじゃないんだ。ビジョンは現在進行形のプロセスであって、たえず変化していく。人の意見に耳を傾ければ傾けるほど、ビジョンは絞り込まれていく。だからこそ、ビジョンをめぐってたえずコミュニケーションをとる必要があるんだ」(p.164)
全速前進!するためのその3:ビジョンの実践
共有されたビジョンは実践されて初めて意味がうまれます。社員のそれぞれが、お互いを尊重し、自分に対しても、周囲に対しても責任を果たすようにしていくのです。
そのとき、ビジョンを支える習慣や行動パターンを生み出すための「構造」があることが大事になります。その「構造」がなければ、かけ声で終わってしまうのです。
どんなに大層なビジョンがあっても、それが普段の行動に繋がらないような「構造」を会社が持っていたとしたら、そのビジョンはただの飾りになってしまうのです。私たちソニックガーデンで言えば、その構造が「納品のない受託開発」なのです。
「あなたの仕事はみんなに、何がいちばん大切なのかを思い出させること、そして、みんながビジョンを見失わないよう助けること、可能な限り障害を取り除いてあげること、そしてみんなに行動を促すことね。(略)リーダーシップはより高い理想に奉仕することじゃないかしら。そこに自己中心的なリーダーシップが入り込む余地はないわ」(p.176)
ビジョンとは、自分さえよければいいのではない
私たちソニックガーデンのビジョンは3つあります。
- 顧客企業の真のパートナーとして価値を提供し続ける
- プログラマを一生の仕事にする、高みを目指し続ける
- いつまでも、いつからでも夢に挑戦できる社会にする
「納品のない受託開発」というビジネスモデルにしたことで、それらのビジョンとしっかり繋がった日々の行動ができるようになっています。私たちソニックガーデンはビジョンに向けて全速前進で進んでいきたいと思います。
私個人としても、久しぶりに読んだこの本のおかげで、経営者として改めてすべきこと、出来てなかったことを再確認させてもらった気持ちです。読み終えて、こうしてブログで伝えた今から、また全速前進で進みたいと思います。
「『成功』から『意味』へ。
心の余裕ができたら、社会にお返しすることを考えよう。
ビジョンとは、自分さえよければいいのではない。
私たちはみな、この世界でともに生きているのだから」
ダイヤモンド社
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