先日、以下のような内容をSNSでつぶやいたところ、大きな反響をいただいた。
スペインからロンドンに約1ヶ月いってる新卒2年目、マルタからハンガリーに2ヶ月いく3年目、オーストラリア一周やシベリア鉄道から働いた人もいる。副社長ですらハワイに1ヶ月ほど滞在してた。
休職する訳でもなく、ほぼ普段通りにコミュニケーションできている。仮想オフィスのおかげで、どこからでも(論理)出社できるので、もはやリモートワーク=在宅勤務という概念すら崩れてしまった。なにげに結構すごいんじゃないか。
https://www.facebook.com/kuranuki/posts/10212082200004737
本稿では、このような働き方を実現しながらも、どうやってチームワークを成立させているのか私たちの取り組みを紹介する。
目次
「リモートワーク」とは場所が離れていても一緒に働くこと
まず初めに、よく誤解されている点から解説すると、私たちが取り組んでいるリモートワークは、離れた場所で一人きりで誰とも話すことなく働くことではない。
よく「リモートワークすると集中できる」ということを聞くが、それはリモートワークの利点ではない。割り込みがない状態を作ることの利点であり、それはオフィスワークであっても工夫次第で実現は可能だ。むしろ工夫すべきだろう。
私たちの考えるリモートワークとは、チームのメンバー同士が別の場所にいたとしても、まるで同じオフィスにいるように気軽に声をかけあったり、雑談しあったりして一緒に働くことだ。そのために「リモートチーム」と呼ぶこともある。
実際に、私たちの会社では40人ほどの社員が18都道府県にまたがって働いているが、「ちょっといい?」なんて気軽に声をかけあって仕事をしている。だから、決して誰かと一緒に働きたくないからリモートワークをしている訳ではない。
むしろチームとして助け合い、互いを高め合うことを非常に重視している。
よりチームワークを活かして働くことが求められる時代に
私たちがチームで働くことを重視しているのは、一人きりで解決することが難しい仕事が増えてきたからだ。
たとえばプログラミングの仕事は、コツコツとコンピュータに向き合うだけだと思われがちだが、そんなことはなくて、お客様と直接話しをすることはもちろんのこと、チームの仲間と相談して設計したり、アイデアを出したりする。
特に今は、テクノロジーの領域も広くなって、対象のビジネス領域も複雑化してきている中で、自分の経験と知見だけでは解決できなくなってきているのだ。
こうしたことは、プログラマに限らず様々な職種で起きてるのではないだろうか。相談することは、今のあらゆる仕事を進めるのに必須なものだ。
そうしたときに、いつでも相談できる仲間の存在がチームになる。そもそもチームとは何か。同じ目標に向かって結果を出すため力を合わせる集団のことだが、それを支えているのは、仲間同士の気軽なコミュニケーションに他ならない。
オフィスはなくても、ザッソウできる「場」は必要だった
では、チームワークを重視する私たちがリモートワークできるのはなぜか。あまつさえ今は、本社オフィスすらない会社になってしまったが、オフィスの機能について考えてみたことがある。それは以下の3点だった。
- 自分の座席
- 会議室
- 書類などの置き場
在宅勤務の場合、1の「自分の座席」は机と椅子とパソコンがあれば良い。2の「会議室」は、全員が自分のパソコンからテレビ会議に繋ぐことで、テレビ会議そのものが会議室になった。3については倉庫的な場所があれば良い。
これでオフィスの代替ができるかというと、実はそうではなかった。
オフィスに集まることで、一緒に働いている感覚を持つことができたり、気軽に声をかけて相談することができたり、ちょっとした雑談をしたりすることができていた。
そうした何気ない会話があったからこそチームワークの土壌となる人間関係が築かれたり、雑談している中で新しいアイデアが閃いたりしたのだった。そうした雑談や相談を「ザッソウ」と呼ぶが、ザッソウこそがチームの土台なのだ。
そうしたザッソウできる環境のことを経営学では「場(ba)」と呼ぶらしい。(ザッソウ本の中でも、野中郁次郎さんのSECIモデルにおける「場」とザッソウ「雑談+相談」の関係性について詳しく取り上げている。)
ソフトウェアをつかって仮想的に「場」を作り出す
本社オフィスのない全社員リモートワークをしたことで、オフィスの本質的な機能である「場」に気付くことができたのだ。リモートワークをする私たちにとって本当に大事なのは「場」であり、物理的なオフィスではなかった。
コミュニケーションの手段であるチャットツールでは「場」にはなりえない。どれだけSlackを使いこなしても、そこで自分が働いている感覚にはなれないし、まわりに人が働いている感覚にもなれない。やはり「場」ではないのだ。
では「場」に求められるのは、どういった要素なのだろうか。
チャットのようなコミュニケーションという目的のための「道具」ではなく、そこに居るという「状態」を作り出すことではないかと考えた。
つまり、チャットもメールも伝える目的があって「使う」ものだから、用事がなければ使わない。そうなると「居る」感覚にはなれない。目的や用事がなくても居るだけでいいのが「場」だ。そこから自然発生的に雑談や相談が生まれる。
「用途→利用」の順番ではなく、「場」に居るうちに用途や目的が生まれてくる。先に一緒にいることで、むしろ目的を生み出すことが「場」の価値となる。
全社員リモートワークをする私たちは、その「場」をソフトウェアで仮想的に実現することにした。それが「仮想オフィス」だ。
そこに居るだけでいい「場」を具現化した仮想オフィス
離れた場所にいてもザッソウできる「場」を具現化した仮想オフィス。このコンセプトのもと自分たちで開発したのが「Remotty」だ。Remottyには、居るだけでいい「場」をソフトウェア的に実装するための工夫を盛り込んだ。
たとえば、各自のノートPCに付いているカメラを使って2〜3分おきに更新される「ライブカメラ」の機能。これによって、ただ居るだけで互いの働いている様子を見ることができる。孤独感はなくなるし、気軽に話しかけやすくなる。
他には、自分の居場所「座席」を具現化した機能。独り言や挨拶など、誰かに伝える訳でもないけれど、ただ状態を発信したいときに書き込むことのできる場所がある。誰の未読にも入らないので、とても気軽に書き込むことができる。
そして、Remottyで行われている会話のすべてが流れる「アクティビティ」の機能。仕事の話も、雑談の様子も、挨拶も独り言も、すべてが流れてくるので、何もしなくても周りに人が居る感じがするし、自分も発言がしやすくなる。
もちろん、何か用事があれば話しかけることもできるし、テレビ会議(Zoom)も起動できるし、グループウェアのように議論する機能もある。そうした様々な機能へのアクセス経路になっていることも「場」らしさである。
朝、仕事を始めるときに仮想オフィスにログインする。それが出社になって、夕方に仕事が終わったら仮想オフィスからログオフする。それで退社になる。
もし仮にその間に何も情報発信しないで、ずっと自分の仕事をしていたとしても、一緒に働いている感覚になることができる。まさしく「場」だ。
仮想オフィスに出社すれば、どこにいたって一緒に働ける
この仮想オフィスへの出社が、冒頭で紹介したような、どこにいたとしてもコミュニケーションに困ることなく仕事ができる裏側にある仕組みとなっている。
私たちは2016年にオフィスをなくしてしまったけれど、そのように物理的なオフィスをなくすことができたのは、その当時から既に仮想オフィスで働くスタイルになっていたからに他ならない。
当初は在宅勤務をする人のために始めた仮想オフィスの仕組みだが、物理オフィスがあった頃に出社して働く人も使うようになって、むしろ優先順位としては、仮想オフィスに出社することがマストで、働く場所は選べるように変わった。
それが、オンラインが先にあるという考え方「オンラインファースト」である。
その発想になると、今度は仮想オフィスにさえ出社していれば、働く場所は家でなくても良いのではないかと柔軟に変わってくる。そうして、旅をしながら働くという人たちが出てきたのだ。このことは、とても大きな意識の変化だ。また一つ、働く常識から自由になることができた。
***
これから在宅勤務を始めようという会社、どこにいても働けるスタイルを実現したいチーム、地元に帰りたい人と働き続けて欲しい会社など、リモートワークに取り組もうとする際に「仮想オフィスで働く」ことから始めてはどうだろうか。