セルフマネジメントは、これからのビジネスマンにとって必須のスキルになります。マニュアル通りに手を動かせば良い仕事は今後ますますなくなっていくからです。自分で考えて成果を出せない人は淘汰されていくでしょう。
そんなセルフマネジメントは、訓練で身につけることができます。身につけたいスキルと思考法ですが前回の第3回では、「オープンマインド」「自己認識」「自分軸で決断」について解説しました。
最終回となる今回は、成長がテーマです。誰かに指導されたり、上司や会社がキャリアを用意してくれたりしないと成長できないようでは、セルフマネジメントとは言えません。
セルフマネジメントで成長していくためのスキルと思考法について解説します。
目次
ふりかえりを習慣化する
仕事を長く続けていると、その仕事に慣れてくるので、それなりに成果は出るようになります。しかし、それは果たして本当に成長していると言えるのでしょうか。ただ慣れただけではないですか。
仕事の生産性を高めるためには慣れることも大事ですが、そこからさらに改善していくには、仕事の進め方そのものを見直していく必要があります。そのために「ふりかえり」をしましょう。
たとえば、資料を作る仕事を依頼されて取り組んだとして、どんな風に取り組んだのか、仕事の進め方はどうだったのか、確認や相談のタイミングは適切だったか、もっと早く、より良い成果物にするにはどうすれば良かったのか、そういったことを見直すわけです。
もし無駄なことをしていたのなら、やめるべきでしょう。うまくいったやり方があれば、それは続けるべきです。そのように、仕事のやり方自体の改善をすることで、次からの仕事の生産性を高めるのです。
仕事の進め方を、より良くしていくというのは、誰かに言われても変えることは難しいものです。人間どうしても変化を避けたいものですから。それが、まずは自分自身でふりかえってみることで、自分で課題を認識した上で改善した方が良いのだと納得感をもつことができます。
ふりかえりの習慣が無いのなら、まずは、週に1度の単位で1週間の仕事をふりかえる時間をとってみましょう。もし可能なら、そこからより高い頻度でふりかえりを行うようにしていきます。最終的には、何か仕事をするたびごとにふりかえりをしていくようになれば、改善サイクルを自分のものにできたと言えます。
会議をしたら、その会議のあとに少しふりかえる。レポートを作成したら、その仕事のあとに少しふりかえる。そうしていくことで、ふりかえりそのものを「小口化」していくことができます。
最初のうちは、ふりかえりは決まったフォーマットを使ってみると良いでしょう。「KPT」は有名です。Keep/problem/Tryの略ですね。「YWT」というのもあります。やったこと/わかったこと/次にやること/の略です。両方を組み合わせても良いでしょう。フォーマットは正直に言えば何でも構いません。改善サイクルが習慣化されていることが本質です。
また、新卒社員のように仕事に慣れていないうちや、会社のカルチャー・価値観などがわからない時期は、他の人にメンターになってもらって、ふりかえりを実施するのも良いでしょう。
ふりかえりの本質は「客観視」です。自分の振る舞いを改善していくためには、どれだけ客観的に見ることができるのか。客観視ができないと、問題に対して言い訳が出てきます。それでは改善されません。客観視ができないなら、メンターのような他の人に客観的にフィードバックをもらうのです。
つまり、ふりかえりにおけるメンターの役割は鏡です。自分の顔が汚れているかどうか、鏡を見ないとわかりません。汚れていることがわかれば、あとは人に拭いてもらう必要はなく、自分で顔を拭くはずです。これがセルフマネジメントです。
言語化でアウトプットする
ふりかえりのキモは客観視です。そのうえで、より効果的に改善していくためのポイントが「言語化」になります。
ふりかえりをするときに、ただ自分の頭の中だけで考えているのと、何かに書き出してアウトプットするのでは、大きく違ってきます。というよりも、頭の中にあるだけというのは、実は何も考えていないことに等しいのです。
違いは言語化しているかどうか。言語化してアウトプットしようとすると、それまで曖昧に考えていたことや、なんとなくで想像していたことを、しっかりと実体をもって捉えなければならなくなります。言語化は、イメージに実体を与える行為です。
言語化できれば、その次は抽象化して考えることができます。抽象化というのは、たとえば複数の似たシチュエーションや物事をグループ化して考えることであり、複数の実体から共通項を見つけて本質を捉えることでもあります。
非常に簡単な抽象化思考で言えば、もし熱く熱せられたフライパンを触って、熱いと感じたなら、熱く熱せられたヤカンも熱いものだと考えて注意するようになるでしょう。これは、熱く熱せられたものを扱うときは注意すべきだと抽象化して考えられたからです。
仕事に置き換えてみても、抽象化できない人は似たようなミスを何度もしてしまいます。少しでも状況が違うと初めてのようにミスしてしまう。これは抽象化できていないからです。
あらゆる事象をうけて、自分の中で抽象化して考えることができるようになれば、なんでもかんでも経験をする必要はなくなります。書籍を読むというのも抽象化できる人にとっては大変有効なインプットになります。その書籍から得た知見を抽象化して自分の出来事に置き換えて考えることができるからです。
抽象化ができないと、いくら本を読んでも、それはそれとしてしか受け止められません。それは自分自身のふりかえりの結果も同じです。自分の経験ですら、言語化しておくことができないとなると、抽象化などもってのほかです。
言語化することは、文章として残すのが一番です。ブログのような形で、自分の経験したことから学びを抽出し、他の人にも通用するような知見として書き起こすことができれば、それは抽象化となります。
もし、文章を書くのが苦手なら、誰かに話すのも良いでしょう。自分の中にある言葉を誰かに話をすることで言語化されていきます。少なくとも人間同士であれば、言語化しないと相手には伝わらないからです。
文章に残す、誰かに話す、どちらでも自分に合った方法で構わないので、言語化してアウトプットすることを意識していくと、自分一人でも成長していくことができます。
自己マスタリーを身につける
「成長」の観点におけるセルフマネジメントの最後の項目は、キャリア設計を自分自身で考えて決めることです。
一般的な会社であれば、新卒社員で入ったところから、キャリアアップしていくための道筋は用意されています。会社の中には職種があり、職位があります。たとえば営業職で、数年の実践を積めばチームを任されて、そこで成績を出すことで係長や課長といった役がつくようになり、いずれは主査や部長のように管理職になっていくという道があるでしょう。
そうした会社の用意したキャリアに沿ってステップアップしていくのも良いでしょう。ただし、それが自分自身が考えているキャリアやビジョンに適合しているのであれば、です。自分の軸がない状態で、盲目的に会社に従ったキャリアを積み上げていくと、いつか後悔することもあるかもしれません。
実際、私は職業柄、中途採用の方を面談する機会も多いのですが、一つの会社の中で20年勤め上げてから転職活動をされている方もいて、それが本人として考えた末の選択であれば、その次のアクションに繋がっているのですが、ただレールにのって従ってきた方が、いきなり転職しようとされても、その会社では通用したものが外では通用しないということも多くあります。
まずは自分自身にビジョンやキャリアについての考え方を持つこと。そして、会社側のビジョンや求められることと、自分自身の考えをすりあわせしていくことが大事になります。
私たちの会社では、YWTのフォーマットをつかった1on1でのすりあわせを行っています。YWTは、前述の「ふりかえり」で使ったものと同じです。やったこと、わかったこと、次にやることで考えます。
いきなり大きなビジョンを考えようとしても難しいものです。しかも、何の根拠もないビジョンを考えたとしても、説得力もないし、自分でも忘れてしまうでしょう。
まずは3ヶ月から半年程度を思い出して、「やったこと(Y)」をリストアップする。次に、そこから「わかったこと(W)」を中心に分析をしていきます。経験したことをもとに、自分の特性は何か、何が得意で好きなのか、もしくは苦手で嫌いなものは何か、洗い出していきます。そうすることで、おのずと「次にやること(T)」が見えてきます。
一方で会社側には、困っていることや足りていないことは沢山ありますので、そこへの期待感と、個人で考えたYWTのすりわせをすることで、自分自身の仕事に納得感をもって取り組めるようになります。そして、さらに成長の機会を得ることが出来るのです。
こうして、誰かに促されなくても自分自身で成長を続けていくことができれば、セルフマネジメントできていると言えるでしょう。
内発的動機づけで学習し、自分自身を変革していくことをピーター・センゲは著書「学習する組織」の中で「自己マスタリー」と称しています。自分の有りたい姿と現実を比較し、そこをどう繋げていくのか、自分で考えなければなりません。
自己マスタリーを身につけることで、誰かの評価など気にせずに、自分自身の志に従って粛々と熟達への道を進むことができます。
第1回〜第3回はこちら。