「働くということを先輩に聞いてみよう」というテーマで東工大の学生たちに話してきました

「働くということを先輩に聞いてみよう」というテーマで東工大の学生たちに話してきました

先日、東京工業大学にてお話をさせて頂く機会を頂きました。現役の学生さんたちに向けて話すという機会はあまりないことなので、何を話そうかと思いましたが、私が学生時代にはわからなかったこと、社会に出たからこそ知ったこと、などを話してきました。

今回の記事では、その際にお話ししたことを思い出しながら、ちょっと追記しながら書いてみました。

東工大@大岡山、去る東工大@大岡山、去る / yto

お話しする機会を頂きありがとうございます。今日は3つのことをお話しようとします。

1つ目は私のキャリアについて。私が社会にでてから既に15年以上経ちますが、学生時代に知りえなかったことを、私自身のキャリアを振り返りながらお話します。

2つ目は、これから就職したい会社を選ぶ皆さんにとって、その会社を選択する際のポイントについて、3つの観点からお話します。

そして最後の3つ目は、会社と個人のあり方と考え方について、私の考える大事なことを「オーナーシップ」というキーワードでお話します。

キャリアからわかる働きかた

私の職業エンジニアとしての最初のキャリアは、大学生時代に始まりました。それまでは趣味でやっていたプログラミングを、アルバイトとはいえ、お金を頂いて仕事をすることになりました。とてもエキサイティングな経験でした。その体験から、私はプログラミングのできる仕事に就くことを選びました。

当時の私はまだ、これから就職する会社がどういったビジネスをしているのか、というところまで深く考えてはいませんでした。当時、興味をもっていた「オブジェクト指向」という技術が出来そうな会社ということで、あまり考えずに大手のシステムインテグレーター(SIer)さんに就職しました。

入ってみてわかったことですが、大手のSIerさんで求められるスキルというと、お客さまの業務を理解すること、手を動かす人たちをマネジメントすることでした。プログラミングが出来ることで重宝されますが、そのビジネスにおいて、そこは本質的な部分ではなかったのです。

これはマズいな、と思いまして、色々と勉強する中で「アジャイル」というキーワードに出会い、そのやり方に心酔しました。これを広めることが自分の使命だと勝手に思い込んで、それを広める活動を始めました。ただ、当時の会社では広めるのが難しかったので、まずは日本で広めようと思っちゃったんですね。

そこで、社外に飛び出て、アジャイルのコミュニティに参加してみたり、自分で発表してみたり、色々な活動を続けました。そうこうする内に、会社の中でも評判になって、それまでいた現場の部門から、本社の部門にスカウトされて異動することになります。そこでは、かなり自由に色々な活動が出来ました。

今度は、社内に向けても色々と活動をしたのですが、30歳になる頃に、プログラミングをしていない自分に気づいたんですね。このままじゃ駄目だ、と一念発起し、社内での評価は下がってもいい覚悟で、社内向けのSNSを自分で作ることにしました。完全に出世コースからは外れた訳です。

しかし、そうして自分で作って広めてきた社内SNSが、社内で評判になって会社の公式システムになる頃には、私の立場も変わってきます。新しいメンバーを増やして、自分のチームを持たせてもらうことができ、改めて評価して頂くことができたのです。そこで私は次の決断をするのです。

せっかく育てたチームとソフトウェアを、もっと続けていきたいと思うようになって、自分でビジネスをしたいと思うようになりました。そこで、当時の社長と偶然ランチをご一緒させて頂く機会があったので、私はランチそっちのけで、事業計画についてプレゼンをしました。

結果として、新しい事業をさせてもらうことになって、社内ベンチャーという仕組みまで作ってもらいました。そこから私は経営者として仕事をしていくことになりますが、それまでエンジニア一筋で、プロジェクトのマネジメントはしてましたが、事業経営をした経験はなく、大変苦労しました。

それでも色々な挑戦をしていった中で、2年はかかってしまいましたが、なんとか収益化の目処もたち、ようやく独り立ちできるところまで来ました。しかし当時、本社側ではグループ内の合併があり、別会社を作るのは難しい流れだったため、独立はペンディングになりそうでした。

そうしてる最中に、東北の大地震があったんですね。そこで、多くの人と同じように私も価値観をちょっと見直すことになって、長期戦ではなく、自分で事業を引き受けるという形で独立することを選択しました。そうして株式会社ソニックガーデンを作りました。それが2年前です。

こうして思い返すと、決して順風満帆だったわけではなく、浮いたり沈んだりと色々とあった訳ですが、すべてが用意されたレールに乗っかるのではなく、本流から外れてみるということで、新しい立場や仕事を得ることが出来てきたんだな、と思います。

自分の想いがあれば、たとえ主流派から外れたとしても気にせずに、一生懸命がんばることで新しい道は開けるのだと思います。多少の回り道に入ったからといって腐らずに頑張ってください。

会社を選ぶ3つのポイント

次にお話しするのは、これから就職をしていこうとする皆さんにとって、会社を選ぶ際の3つのポイントについてお話したいと思います。以前にブログでも書いた話です。(自分にあった会社を選ぶための3つの視点 〜 ビジネスモデル・人数・方向性

自分が就職しようとする会社をどうやって選びますか。大学で研究したことを活かせるところであったり、自分の興味のある技術を扱っているところ、などが最初のきっかけになるかと思いますが、中々そのまんまの仕事というのはなかったりしますね。そこで、ある程度の業界を絞ってその中から選んだりすると思います。

ただ「IT業界」というところは、少し違います。ITを活用する場面は今となっては多種多様になっていて、様々なビジネスの形があります。たとえば、楽天もNTTデータもGoogleも同じIT企業と呼ばれることもあるでしょう。しかし、彼らのビジネスは大きく違います。

それぞれのビジネスによって、中で働く人たちに求められるスキルは違ってきますし、身に付くものが違えば、その先の将来もきっと違ってきます。何をもってその会社が儲けているのか、そこをしっかりとわかった上で選ぶことが大事だと思います。ビジネスモデルですね。

次に、大きな会社か小さな会社か。どちらも良いところもあれば、そうでないところもあります。大きな会社の良いところは、分業がしっかりされているということです。沢山の人を抱える組織では役割分担がしっかりしていないと成り立ちません。専門的にやっていくには良いところだと思います。

一方で、小さな会社だと人数が少ない分、なんでもやらないといけないことが多いです。大きな会社ほどしっかりと制度やルールも成熟していないので、自分たちで考えて進めていかないといけません。逆に、早いうちから即戦力であることが求められますし、その分、現場で実力をつけることも出来ます。

どちらが良いか悪いかということではありませんが、わかった上で選ぶのかわからずに選ぶのか、では大きく違います。会社が大きいから安泰ということで選ぶのではなく、それぞれの働きかたに違いがあるということを理解して選ぶといいでしょう。

3つ目のポイントは、経営者のビジョンや方向性を知ることは大事なことです。その会社で働いている人たちの話を聞くことも、社内の雰囲気を知るにはいいかもしれませんが、その人たちが経営している訳ではないのですから、やはり経営者の考え方を知る方がよほど大事です。

経営者自身でブログを書いたり、自分の言葉で情報発信しているのであれば、それを知ることは、会社の方向性を知る上でとても良いインプットになります。オーナー企業でなければ難しいかもしれませんが、やはり自分が共感できる会社に入る方が望ましいと思います。

私自身は、そんなことを考えたりも学んだりもせずに、もっと安易に会社を決めてしまった人間なので、そんなに偉そうに言える立場ではないですが、だからこそ事前に知っておけば良かったな、と思うことをお伝えしました。

オーナーシップを持ちましょう

最後になりますが、会社と個人の関係について、私がようやく最近になって考えるようになったことについてお話します。私が社会に出て15年くらい経ちました。時間が経つのは恐ろしいですね。大きな会社で働くことも、小さな会社を経営することもやってきて、なんとなくわかってきたことがあります。

学生から大学を卒業して、一括採用で会社に入ってしまうと、一人一人が会社を雇用契約を結んでいるという意識は持ちにくいです。私もそうでした。会社に入るのは、雇ってもらうという感じですね。

そして、初めて入った会社で知った常識は、自分にとっての社会での常識になってしまうことがあります。その会社で教えてもらう常識が、その会社の中だけのものかどうかなんてわかりませんから。そう考えると最初に入る会社や上司はとても重要な選択になります。上司は選べませんが、会社を選ぶ権利はあります。

新卒で入ってしまって会社の中にだけいると、自分の半径10メートルくらいが自分の世界になってしまいがちです。3年後は先輩のようになって、5年後は主任のように、その先は課長か部長か、みたいな自分の将来像すら、そこに存在しているように思ってしまうことがあります。

インターネットのある今となってはそんなことはないかもしれませんが、他の会社のことを知る機会は重要です。これから新卒で会社に入る皆さんが、30年、40年、定年までその会社があるというのは、そんなにリアリティのあることではないでしょう。ひとつの会社がずっとあり続けるなんてことはありません。

会社がなくなってしまった時に、その会社の常識だけで生きてきたとしたら、とても苦労することになると思います。積極的に外の世界を知って、自分にとっての基準を見つけていくと良いと思います。

本来、会社と自分の関係は、所属するとか従属するというものではなく、取引の契約です。会社で働くことの対価として、報酬を得るというのは、お客さまとの関係と違いはありません。そう考えると、会社というのは自分にとってのお客さまでもある訳ですね。

自分の人生のオーナーは自分自身です。当たり前のことですが、忘れがちになります。自分の生き方や働きかたを決めるのは自分です。それが「オーナーシップ」を持つということだと思います。どの会社を選ぶのか、どの働きかたを選ぶのか、どの仕事を選ぶのかも、結局は自分で選ぶということです。誰かに言われたから絶対ということはありません。

会社に入ってしまうと、自分と会社の関係でいえば、まさしく「会社に入る」ということで、一体化されてしまうし、逆らうこともできないと思ってしまいがちですが、そんなことはありません。会社という法人とあなたという個人との間での契約関係があるだけで、偉い偉くないということはないのです。

だからといってオーナーシップを持つことは、何も傍若無人に自分本位で動けということではありません。自分の人生のオーナーであるならば、最終的にうまくいくように考えたら、その中で他者との関係も、良い関係を築けるようにするように考えられるはずです。

自分の働く会社との関係もそうです。会社により多くの利益をもたらすことで、自分にとっての利益にもつながります。愚痴をこぼしてる場合ではありません。まわりをうまく利用するというのは、まわりにも利をもたらすように動くということで、全体としてうまい方法を考えられるはずです。

そうして、オーナーシップをもって、自分で決断した人からは愚痴が出ないです。どの会社を選ぶかもそうですし、独立することを選んだ人も、会社員を続けていくことを選んだ人も、その選択を自分で考えて選んだ人からは愚痴は出ないのです。だって自分で決めたのだから。流されるように選んでしまった人からは愚痴がでるでしょう。

自分で決めたからには頑張れるし、当事者意識をもって仕事に取りかかることが出来ます。自分で決めた仕事は楽しいはずです。

社会人になるというのは独立するということです。これからは、自分で考えて自分で決めることが大事になります。ぜひ愚痴を言わない社会人になってほしいと思います。

倉貫 義人

株式会社ソニックガーデン代表取締役社長。経営を通じた自身の体験と思考をログとして残しています。「こんな経営もあるんだ」と、新たな視点を得てもらえるとうれしいです。

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