「利益主義」から「幸福主義」へのシフト 〜 “cybozu.comカンファレンス2014″基調講演レポート「この変化はリスクか、チャンスか」

「利益主義」から「幸福主義」へのシフト 〜 “cybozu.comカンファレンス2014″基調講演レポート「この変化はリスクか、チャンスか」

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先日、サイボウズ株式会社の主催されたイベント「cybozu.comカンファレンス2014」の基調講演にゲストで登壇、午後にはパネルディスカッションに参加させていただきました。とても素晴らしいイベントでした。ありがとうございました。

パネルディスカッションの様子は既にASCII.jpさんに記事にして頂いています(「納品をなくせば」の倉貫CEOたちが語る新しいSIへの道)。私の発言が記事になると思ってなくて、かなりストレートな物言いになっていますが・・・。

基調講演の模様は、サイボウズ社から開催レポートが公開されています(cybozuconf.com conference 2014 東京開催レポート)。基調講演の動画もありますので、ご覧ください。ちなみに、私の登場は、始まって1時間ちょっとしたくらいからです。

ソーシャル時代に求められる経営の姿勢

サイボウズ青野社長の基調講演は、今年のベストチーム・オブ・ザ・イヤー2014の受賞チームの紹介から始まりました。

そして、働くママを応援するということで作られたムービーの紹介がありました。

働くママたちに、よりそうことを。

公開してすぐに多くの方がご覧になって大きな反響を呼んでいるようです。このムービーそれ自体がサイボウズ社にとって直接の利益になる訳ではないですが、会社をあげてワークスタイルを変えていくことを示そうとする姿勢は伝わってきます。

これからのソーシャル時代のマーケティングは、企業として取り組む命題に対し、直接の利益になるかどうかに関わらず、全社で取り組んでいくことが評価される社会になりつつあるように思います。そんな経営の観点から見ても勉強になりました。

ワークスタイル変革のための3つの要件

このくだりで印象深かったのが、ワークスタイル変革のためには3つの要件があるという話だったことです。「ツール」と「制度」と「風土」の3つです。もちろんグループウェアの会社なのでツールは当然としても、ちゃんと「制度」と「風土」のことを考えているのは流石ですね。

私たちソニックガーデンでも、企業内における社員同士の関係深化を目指したSKIPという社内SNSの製品を販売していますが、そちらでもツールだけが問題となることはむしろ稀で、その会社の風土まで変えようとしなければならないケースが多数あります。

この「ツール」と「制度」と「風土」の3つの要素は密接に絡み合っていて、経営だけ現場だけ、というわけではなく、全社をあげて取り組まなければ、本当のワークスタイルの変革は実現しないのでしょう。

この変化はリスクか、チャンスか

サイボウズ青野社長の基調講演は、「この変化はリスクか、チャンスか」というテーマに移って続きます。今の日本社会に起きている様々な問題を4つのカテゴリーに分け、それぞれについて問いかけるものでした。

その4つのカテゴリーとは、以下です。

  • 「エネルギー問題」
  • 「持たざる経営」
  • 「少子高齢化」
  • 「多重下請け構造」

「エネルギー問題」におけるリスクは、原発の危険性や化石燃料の枯渇、そして地球環境の悪化といった問題です。今の日本のエネルギー状況は、未来を託す子供たちに誇れるものではない、と仰っていました。そうしたリスクに対し、テレワークを推進することで電力消費を抑え、再生可能エネルギーの開発を支援するというのがサイボウズ社の取り組みです。

「少子高齢化」のリスクは、市場の縮小に加え、労働力が不足し、年金・医療・介護費用による財政の圧迫といった暗い話になりがちです。そこで出来ることはなにか、グローバル市場への進出、自動化・効率化の推進、ワークスタイルの多様化といったキーワードが出てきました。社会において一部の人だけが働くのではなく、あらゆる人に負担なく働く機会ができるようになると、日本の未来は変わっていくように思いました。

「持たざる経営」のもたらすインパクト

「持たざる経営」のエピソードは面白かったですね。クラウドソーシングやクラウドファンディングによって、人もお金も流れが変わりつつあることを背景に、電気自動車の”テスラ・モーターズ”や、タクシー配車サービスの”Uber”などを例に、経営資源をコアコンピタンスに集中することで、旧来の産業や業界の構造を変える新しいビジネスモデルが登場したことを紹介されました。

この「持たざる経営」について理解することは経営者として非常に重要なことです。私たちソニックガーデンでも実践していて、コアコンピタンスであるプログラマ以外はすべてアウトソーシングしていて、全社で必要な総務的な仕事すらもアウトソースするために別の会社まで作ったりしています。この辺の話は、青野社長と私の対談でも触れています(日本のサラリーマンは「35歳定年」でいい――倉貫義人×青野慶久、プログラマーを再定義する)。

また、私たちソニックガーデンの「納品のない受託開発」のお客様も「持たざる経営」を実践されていて、そのためにソフトウェアエンジニアを社内に抱えるのではなく、私たちを顧問としてパートナーに選んでいただいています。私たちソニックガーデンも、「納品のない受託開発」のお客様も、「持たざる経営」によって新しいビジネスモデルを実現し、業界を変えようとしているのです。

「多重下請け構造」と「新しいSI」の形

そして、最後のひとつが「多重下請け構造」です。

IT業界における「多重下請け構造」によるリスクは、もはや既に現実的な問題となって起きています。今年は個人情報流出を引き起こしたのが内部不正によるものという問題が発覚しました。どれだけシステムを堅牢に作ろうとも、そうなってしまうと意味がありません。かけるべきコストのかけ方を間違えてきたのでしょう。

そうした内部不正の問題以外にも「多重下請け構造」によって様々な問題が生まれていることに対して、2つの取り組みを紹介されました。それが「スパイラルアップ開発の採用」と「利益主義から幸福主義へ」です。

「スパイラルアップ開発の採用」では、J:COM(ジュピターテレコム)社が、ウォーターフォールで作ってしまった利用率の非常に低かった営業端末のソフトウェアを、現場の声を聞きながらソフトウェアを直し続けていくスタイルに変えて大幅な利用率の向上を果たしたという事例を紹介されました。

そのような開発を支える「新しいSI」の形として、「来店型+ワンプライス39万円」で開発を行う株式会社ジョイゾーさんの「システム39」を初め、多くの企業の取り組みを紹介されました。そして、その流れを代表する企業として、私たちソニックガーデンを紹介して頂き、壇上にあがってお話をさせて頂きました。

「利益主義」から「幸福主義」へのシフト

その基調講演の中で私が登壇した際のテーマが『「利益主義」から「幸福主義」へのシフト』です。お金さえ貰えばなんでもします、という考え方を変えてしまった企業としてソニックガーデンを紹介して頂きました。基調講演は青野社長と私の掛け合いで進みます。

青野社長『「納品のない受託開発」とはどのようなサービスなのか教えていただけますか?』

私たちソニックガーデンでは、受託開発から「納品」をなくしてしまいました。そのポイントは3つあります。

  • 見積りをなくし、月額定額にして納品をせずに、開発と運用をずっと続けていく
  • 工程の役割分担をなくし、開発者がお客様の顧問として、全ての工程を担当する
  • 働く時間の約束をなくし、客先に常駐するのでなく、毎週の成果だけを約束する

これによって、お客様は「持たざる経営」を実現することができ、マネジメントなしで毎週の着実な進捗と成果が得られ、コアコンピタンスに集中することができます。

エンジニアは、システムの完成ではなく、お客様のビジネスの成功にコミットすることができ、とても前向きに仕事をすることができるようになります。どちらもハッピーになるのです。

青野社長『このスタイルに⾏き着くまでの背景についても教えていただけますでしょうか?』

IT業界での15年以上のキャリアの中で私が気づいたことは、これまでの受託開発で起きていた問題の多くは、お客様と開発会社でのゴールの違いではないか、ということです。

開発会社にとってみれば納品こそがゴールですが、お客様にしてみれば納品されてからがスタートだったのです。これまでの受託開発では、スタート地点を予測して作り込んだあとは、スタートしたら手を離すということをしていて、そのすれ違いが多くの不幸を生んでいたのです。

お客様にしてみれば、完成形を予測することは非常に難しいにもかかわらず、利用開始してから直すことはコストがかかりすぎたり、担当者がいなかったりして、使いづらいままになってしまう。開発会社は、納品と納期に縛られて利益は逼迫され、開発者は人月で働くことで優秀な人ほどヤル気がなくなる。誰もが幸せになっていなかった。

その原因は旧来からのビジネスモデルにあり、その象徴として「納品」があって、ビジネスモデルを変えるためには「納品をなくせばうまくいく」のではないか、と考えたのです。

青野社長『これからの⽇本のIT業界のビジョンと、ご⾃⾝の抱負をお話しください。』

私の個人的な人生のミッションは、ソフトウェアを作る人、その人のことを私たちは「プログラマ」と呼んでいますが、その仕事を価値あるものにしていき、子供たちの憧れの職業にしていくことなんです。そのためにも、お客様とプログラマの両方を幸せにする「納品のない受託開発」を広げていきたいと思っています。

ただ、私たちソニックガーデンはお金儲けだけを目的とした会社ではないので、一社だけで寡占するつもりも、巨大企業になって支配するつもりもありません。「納品のない受託開発」に取り組むたくさんの開発者がいて、そのための市場を作っていくことができればと考えています。その戦略のひとつとして、フリーランスや小さな会社の開発者を支援していくことに取り組んでいます。

そうして「利益主義」から「幸福主義」へIT業界を変えていく、というのが私のビジョンです。

そのために新しい取り組みをもう一つ始めることにしました。「納品のない受託開発」は、これまで新規事業に取り組む方々を、Rubyという技術を使って支えてきました。新規事業とRubyは非常に相性がよかったのです。そして、ソニックガーデンでは、より多くのニーズにお応えするために、社内向けのシステム、業務改善を目的としたソフトウェアの開発にも取り組むことにしました。そして、そちらのプラットフォームとして、サイボウズ社の「kintone」を採用することにしました。

「納品のない受託開発」で新規事業に取り組むときは国産の「Ruby」を使い、業務改善に取り組むときは国産の「kintone」を使う。ビジネスモデルとテクノロジーで、日本のIT業界を一緒に変えていきたいと思っています。よろしくお願いします。

「納品のない受託開発」で「kintone」を採用

この基調講演の最中に、私たちソニックガーデンから丁度のタイミングで、プレスリリースを出しました。

「納品のない受託開発」において「kintone」を採用し、社内システムの開発にもサービス提供を開始

株式会社ソニックガーデン(本社:東京都渋谷区、代表取締役社長:倉貫義人)は、同社が提供する新しいソフトウェア受託開発のビジネスモデル「納品のない受託開発」において、主要技術の一つとしてサイボウズ株式会社(本社:東京都文京区、社長:青野 慶久)の提供する「kintone」の採用を決定したことを発表いたします。

この度の「kintone」の採用により、「納品のない受託開発」で主に取り扱っていたインターネットを活用した「新規事業」の領域に加えて、企業内で社員が利用する「業務改善」のシステム開発も取り扱うことにいたしました。

このプレスリリースも、非常の多くの方に見ていただいて、たくさんの反応を頂きました。ありがとうございました。この「納品のない受託開発」x「kintone」の案件は、既に実際のプロジェクトが幾つも動いています。近いうちに、そこから事例を発表することができるように準備も進めています。

また、「kintone」を使った「納品のない受託開発」に一緒に取り組んでくださるフリーランスや少人数会社の方がいらっしゃいましたら、ぜひこちらからご連絡ください。共にIT業界を変えていきましょう。よろしくお願いします。

日本経済新聞にサイボウズ社の出したレポートに写真も載せてもらいました
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倉貫 義人

株式会社ソニックガーデン代表取締役社長。経営を通じた自身の体験と思考をログとして残しています。「こんな経営もあるんだ」と、新たな視点を得てもらえるとうれしいです。

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