会社の課外活動「部活」から生まれる新規事業 〜 事業計画よりも遊ぶ時間と楽しむ気持ち

会社の課外活動「部活」から生まれる新規事業 〜 事業計画よりも遊ぶ時間と楽しむ気持ち

私たちソニックガーデンには「部活」という制度があります。テニスやフットサルのような部活なら、どこの会社にもあるでしょう。しかし、私たちは仕事中におこなう創作活動や新規事業のことを「部活」と呼んでいます。

なぜ新規事業でなく「部活」と呼ぶのか。その理由は、前回の記事に書きました。

本記事では、「部活」制度の会社と社員の双方にとってのメリット、そして、部活から生まれる新規事業とイノベーションの可能性について考えました。

会社を辞めずに挑戦し、新規事業の練習ができる

ソニックガーデンにおける「部活」制度は、論理出社してる時間の間であっても、会社の仲間と共に、会社の経費や設備を使って、好きな創作活動をしても良いというものです。会社としての副業みたいなものです。

もし新しい事業のアイデアが思い浮かんだとして、普通の会社に勤めていたら、もしかしたら今の仕事を辞めないと始めることは出来ないかもしれません。時間的な制約や、就業規則もあるでしょうし、かといって勤務先の会社の新規事業として提案するにも、提案を通すだけで大変だったりすることもあるでしょう。

そういった理由で会社を辞める必要がないのです。そして、そもそも新規事業は非常に難しいもので、一度の挑戦で成功する確率は高くありません。どんなものでも同じで、何度か経験を積むことが必要です。しかし一般的に起業といえば、その練習をする機会はありませんでした。

私たちソニックガーデンは、大手企業の社内ベンチャーから出発しました。社内で経験を積ませてもらったことは私たちにとって非常に良い経験になりました。失敗を繰り返しながら、経営を学ぶことができました。つまり部活という活動を通じて、経験を積んで、練習をしてもらいたいのです。

一般的に新規事業と言えば会社設立や株主構成など、形から入りがちです。しかし、それは本質ではありません。事業が成立するかどうかは、顧客や市場の存在、商品が出来るかどうか、継続していけるかどうかです。本来はうまくいってから形にすれば良いのです。「部活」だったらそれが出来ます。

部活がうまくいけば、会社にすることもあります。その際は、ソニックガーデンからも出資という形で応援しつつ、関係を継続させることができます。そうしてプログラミングする経営者が生まれるとしたら、それも「プログラマを一生の仕事にする」という私たちの理念の一つの形でもあります。

タイムリミットがないから部活が新規事業に変わる

新規事業の創出ではなく「部活」なので、そこにかかるコストは部費になります。投資と言わなくて済むので、経営者としては、非常に気が楽です。また、必ずしも成果や売上を出さなくても良いので、気にかける必要も無くなります。ある意味、福利厚生のようなものです。

投資の回収がある訳でもなく、成果が求められる訳ではないので、タイムリミットなく長く活動を続けていくことができます。前回の記事で紹介した「イシュラン」は、マネタイズのプランなしに始めて、少しずつ活動を続けて、提供する県を広げていき、今や全国全てを網羅するまでに至りました。

3年以上かけてデータの蓄積や人脈の構築を続けた結果、膨大なデータベースになり、Google検索での上位を得ることができました。それを活かして、今は事業化に成功し、売上をあげるサービスになったのです。そう、なんと収益を求めない部活で始めた活動が、みごと新規事業に化けたのです。

イシュランは、元々は信頼のおける友人からの持ち込み企画です。しかし、当初は儲かる見込みも薄く、資金もさほど潤沢にある訳ではありません。そこで、互いに足りないものを持ち出して提供し合う、私たちならソフトウェア開発力を提供することで部活が始まりました。このように、利害関係を超えて始めることができるのも部活ならではです。(乳がんの病院・名医ガイド『イシュラン』ができるまで

このケースは非常に重要な示唆を含んでいます。当初、事業計画を元に始めようとしたら、収益の問題があって始めることすら出来なかったでしょう。また、始めたとしても、途中で止めていたかもしれません。

しかし、ある意味で趣味の部活だったから続けられました。続けたから、市場を知ることができて、アイデアが出て、事業化を実現することが出来たのです。

無駄な時間と遊びからイノベーションは生まれる

イノベーションはどうやって生まれるのか。上司の指示ではできない。どれだけお金があっても実現しない。一生懸命に働いても生まれるとは限らない。過去の事例を真似ても意味はない。イノベーションは再現しない。あれはイノベーションだったと後になって他者から評価されるものこそ、イノベーションでしょう。

プログラミング言語のRubyを作ったMatzは、Rubyの開発は趣味で始めて、趣味だから続けられたし、続けてきたから今のように世界中の多くの開発者に使われるようになったと語っていたのを聞いたことがあります。

何か新しいことを始めるときに最も重要なのは、モチベーションと自由にできる時間ではないでしょうか。他人から見て無駄と思われるようなことでも取り組むのに必要なのは、内発的動機です。

始めるきっかけは、些細なことです。雑談の中で生まれたアイデアだったり、自分が困っていることの解決だったり、好きなことを追求することだったり。そして、続けていくのに必要なのは、楽しさと仲間です。活動そのものが楽しくなければ続けられません。自分ひとりだと挫けてしまうこともあるでしょう。

これらの要素を取り込んだ制度が「部活」です。最初から得られる果実を狙って始めるのではなく、仲間とともに楽しむために始める。続けても良いし、モチベーションがなくなればやめても構わない。そうして幾つもチャレンジすることで、新しい価値を生み出すことができる、かもしれません。

ちなみに、価値なんて生まれなくたって良いんです。それが部活の良いところです。

生産性を高め、仕事を早く終わらせて、たくさん部活をする。部活で楽しんでる方がかっこいい、もっと自由に挑戦したい、だから腕を磨こう、そういうカルチャーが生まれます。それこそが「部活」制度が生み出した一番の価値かもしれません。

倉貫 義人

株式会社ソニックガーデン代表取締役社長。経営を通じた自身の体験と思考をログとして残しています。「こんな経営もあるんだ」と、新たな視点を得てもらえるとうれしいです。

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