ソフトウェアビジネスの新分類

ソフトウェアビジネスの新分類

4/15に開催されたAgileJapanに実行委員として参加してきました。AgileJapanは3年目になりますが、もはや毎年の定番のイベントになっているように思います。

私は今回は、事例セッションの一つでコーディネータをしました。セールスフォースジャパンでCTOをされている及川さんに登壇頂き、”Inside Salesforce”ということで、どういったやり方でクラウドのソフトウェアを開発されているのかを紹介して頂きました。セールスフォース自身は、あまりテクノロジ企業であることを前面には出していないイメージですが、実際は、開発はすべて社員による内製をおこなっているそうで、実はエンジニアの多い会社なのかもしれません。

今回は、及川さんにはクラウドのソフトウェアを開発している方法がいかにアジャイルであるかを中心に説明してもらいました。ADMというスクラムをベースにした開発手法を採用しているという話でした。資料はまた後日公開されるようです。

私は、そのセッションの前座としてクラウドとアジャイルの相性について説明をしました。

クラウドとアジャイルについて語る前に、クラウドを含めた今のソフトウェアビジネスの世界がどういった分類になるのか、分析したマトリクスを作ってみました。組み込みやゲームなどといった分類の軸もあると思いますが、今回はエンタープライズを中心に市場を分けています。

左と右で分けているのは、対象とする顧客とそれに対する提供方法について分けました。

「ソリューション型」というのは、簡単に言えば、受託ビジネスです。特定顧客が抱えている課題を解決するためにソフトウェアを提供するビジネスです。特定の顧客から発注された仕事をするので、低リスクではありますが、高いリターンは得られない安定的なビジネスです。顧客にとってのメリットは、顧客の抱える特殊な課題にも対応できるという点です。

一方、「プロデュース型」というのは、特定の顧客のためだけに提供するのではなく、多くの顧客が持つであろうニーズを仮説とし、そのニーズに応えられるような汎用的なソフトウェアを提供するビジネスです。ソフトウェアの性質上、不特定多数に販売できれば、驚くほどの利益率をあげることができますが、ニーズの把握を間違えたり市場規模の予測を誤れば、殆ど利益をあげることのできない投資型のビジネスです。顧客にとっては比較的に安価で手に入れることができ、購入すればすぐに使える点です。

次に、上下で分けているのは、ソフトウェアという媒体の提供方法です。

「製造納品」というのは、オンプレミスで使われることの多い、いわゆる昔ながらのソフトウェアの提供方法です。製造納品であるからには、どこかで「ソフトウェアそのもの」を顧客に明け渡してしまう必要があります。顧客は手に入れたソフトウェアは資産計上を行い、減価償却していくわけです。ビジネスとしては、その「納品」の一点のために、「製造」という作り込みの品質管理を行い、販売機会を増やすことで売上をあげます。事業を安定させるために販売側はソフトウェア保守費という名目のストックを狙わざるを得ないですが、顧客にとっては嫌な出費です。

「サービス」というのは、いわゆるクラウドで提供されるソフトウェアのことです。顧客は、ソフトウェアを購入して所有する訳ではなく、利用するということで、資産計上するのではなく、経費として支払うのです。多くのクラウドサービスでは月単位で利用することができ、使うのをやめたいときにいつでもやめることができるのもメリットです。ビジネスとしては、顧客に継続的に利用してもらうことで売上があがるという、ストックビジネスと呼ばれます。このビジネスで重要なのは、蓄積されていく顧客からの利用費を得て行くためには、常に最新で最高の状態を保つことが重要です。

この4つにソフトウェアビジネスは分類されます。それぞれのビジネスの特性は大きく違うため、そこでのマネジメント(経営)の仕方や判断の勘所は違っているのです。また、開発のプロセスも違ってきますが、「アジャイル」は「サービス」の領域(上部の2つ)にマッチするのだと考えています。

市場としては、右上の「プロデュース型」「サービス」、つまり一般的なクラウドと呼ばれる領域が、この数年で注目されて、今後も拡大していくであろう領域です。それがわかっているので、右下のパッケージベンダーや左下のシステムインテグレータは、右上のクラウドの市場を目指したいと考える訳です。

しかし、既に書いた通り、経営判断から現場のオペレーションまで大きく違っているので、そうは簡単に別の市場に入っていけないというのが実際のところでしょう。特に、システムインテグレータにとっては、それまで低リスクでしか経営判断をしてこなかった経営陣にしてみれば、投資型で製造業でもないビジネスの判断など、非常に難しいというのは容易に想像できます。

こうしたことを理解せずに「クラウド」という言葉だけに踊らされて「これからはサービス化」だという経営メッセージを出してしまっても、自社の事業構造を変えることは難しいでしょう。

エンタープライズにおいて、SalesforceやGoogleAppsなどは、「プロデュース型」で「サービス型」の右上の領域にあたると思います。

さて、実はまだ左上の市場がまだ空いてるのがわかりますか。顧客にとっての特殊なニーズや課題の解決をするのに対して、利用という形でソフトウェアを提供するビジネスです。この市場では、今までの開発の仕方や運用の仕方をしていては、あまりに旨味の少ないビジネスと思わざるを得ません。不特定多数ではなく、一度の売上高も大きく計上できるものではないのに、運用コストがかかってしまいます。

しかし、ソフトウェア開発のやり方を根本から見直し、その手法に変革を起こすことで、この市場での勝算を立てることも可能です。SonicGardenでは、ARC(Agile, Ruby, Cloud)を駆使することで、この市場のニーズにも応えていこうと考えています。SonicGardenでは、この市場に提供するビジネスを「カスタムクラウド」と呼んでいます。これがソリューション型である受託開発の未来の姿だと信じています。

「カスタムクラウド」は既に数社からのオファーも頂き、稼働しているサービスもあります。もし、ご興味ある方は私までご連絡ください。

倉貫 義人

株式会社ソニックガーデン代表取締役社長。経営を通じた自身の体験と思考をログとして残しています。「こんな経営もあるんだ」と、新たな視点を得てもらえるとうれしいです。

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