モチベーションの源泉:何のために働くのか、転職か起業か

この1〜2年、転職であったり起業であったり人の動きが激しいような気がします。私の知人も、大手企業でエリートだったのに起業したり、大手メーカーからソーシャルゲームの会社に転職したりしています。そうした人たちを見ていて、人の働く動機には色々ある中で、いくつかパターンがあるのかなと思い、人は何のために働くのかについて考えてみました。

※この記事は、2011年07月07日に公開された記事を再編集したものです。

モチベーション4つのパターン

私なりに人が働くモチベーションとして、以下の4つのパターンがあるのではないかと考えてみました。(これは私の知り合いからの類推なので、専門的で正確な話ではありません)

・「アントレプレナー」タイプ
・「クラフトマン」タイプ
・「サラリーマン」タイプ
・「サポーター」タイプ

アントレプレナータイプの方にとっての仕事に対する動機は「夢」が大きく影響しているように思います。何か成し遂げたいビジョンがあり、自分の仕事の結果によってどのような世界にしたいのか、そういった思いをもっています。

この人たちは「どんな仕事をするか」については、拘りをもっておらず、ビジョンを成し遂げられるのであれば、たとえ嫌な仕事であっても取り組めます。経営者ですね。「どう仕事をするか」よりも「何をするか」に重きをおくので、プロダクトオーナーもこのタイプが向いているかもしれません。

クラフトマンタイプは、職人です。達人プログラマを目指すような「職」に対する動機が強いと思います。自分のスキルアップを何より重視し、業務時間外でも勉強会に参加したり、オープンソースに参加したり。その源泉は、自分のスキルアップです。

この人たちにとっては「どんな仕事をするか」が重要です。技術者としての誇りを持っており、マネージャをするとなったらモチベーションが萎えてしまいますよね。それは、自分の目指すスキルセットと違うからでしょう。自らの腕を磨いて「俺ってすげー」感を味わうことが幸せです。

アントレプレナーとクラフトマンの共通点

アントレプレナーとクラフトマンの共通点は、その「夢」や「職」のためであれば、業務の枠を超えて活動をする点です。

アントレプレナーとクラフトマンの違いは、アントレプレナーの人たちは、世の中にある問題に着目します。もしくは、問題そのものの定義を行うことを大事にします。一方で、クラフトマンの人たちは、用意された問題を解くことを得意とします。難題であればあるほど燃えるのが職人です。

だからアントレプレナーとクラフトマンが手を組むことはスタートアップには良いコンビになるのです。アップルの創業者の二人のスティーブは、まさしくこのコンビでした。

クラフトマンとサラリーマンの軋轢

サラリーマンタイプは、わかりやすくサラリー「金」のために働く人たちです。そういうとイメージが悪いかもしれませんが、この人たちには、仕事そのものよりも大事な価値のある「家族」や「趣味」をもっており、それを充実させるために、仕事をして糧を得ているのです。

なので「どんな仕事をするか」については、多少希望はあったとしても、人事異動など基本的に会社の指示に従います。当然、モチベーションとしては出世をすることで、給与があがることは大きな動機付けになります。

良い意味でプロフェッショナルですし、大きな組織で役割を遂行するためには必要な人材になります。真面目な人が向いています。

クラフトマンとサラリーマンが同居するような業種では、時に軋轢が起こります。クラフトマンを目指すエンジニアは、日々自分の時間を使って勉強をしたりするのに対し、サラリーマンはそこまでの気持ちをもっていません。

お互いの価値観が違うのに、同じように評価や働き方が決まってしまうと、マイノリティの方が居心地が悪くなるのは当然です。その組織を去る理由としては十分かもしれません。

アントレプレナーとサラリーマンの共通点は、どんな仕事も厭わない点です。モチベーションは違えど、清濁併せ飲めるのがこの人たちです。ただし、スタートアップのタイミングでは共存しない方が良いでしょう。ミッションに人生の全てをかけるアントレプレナーと、そうではないサラリーマンではうまくいくとは思えません。

「誰と(誰に)仕事をするか」を重視するサポーター

最後のサポータータイプは、「誰と(誰に)仕事をするか」を重視する人たちです。ラブではなく、アガペーとしての「愛」をもって仕事にあたります。一緒に働く仲間を助けたい、提供するサービスで喜ぶお客様の笑顔が見たい、困っている誰かの役に立ちたい、といった感情が、最大の働く動機付けに繋がります。

重要なのは「誰か」で、仕事の内容や仕事の仕方については受け入れていく度量があります。究極的には、ボランティアやNPOにいきつくのかもしれません。しかし、応援したい人がいないと頑張れません。

クラフトマンとサポーターの共通点は、期待に応えることに対するモチベーションが非常に高いことです。難しいことや困っていることがあったら、なんとしても解決したいと頑張ります。この両名はプロジェクトで一緒にいる場合、非常にうまく力をあわせてくれることが多いです。両極端ではあるのですが、だからこそ気が合うのかもしれません。

アントレプレナーとサポーターは、お互いを必要とする関係であることが多いです。スタートアップのタイミングでは、アントレプレナーだけでは実働が足りないので、実務を担当しアントレプレナーを支えるサポーターがいることでうまくいくように思います。ソニーやホンダの創業期のそれぞれの2人はこの組み合わせにも思えます。

アントレプレナーとサポーターの行動原理は、右脳的で感情によって奮い立つことが多い一方、クラフトマンとサラリーマンは左脳的で、非常にロジカルに行動します。

アントレプレナータイプにとっての起業

「夢」「職」「金」「愛」と、それぞれのタイプのモチベーションの源泉を考えてみましたが、必ずしもどれかではなくて、自分の中にいくつものタイプが共存しているのが人間だと思います。

おそらく、子供の頃に考えていた「夢」は「職」であることが多く、「本屋になりたい」「ケーキ屋になりたい」ことが根源的な働くモチベーションだったんではないかと思います。そこから、色々と経験をすることによって「世界を変える」ことが重要になったり「家族との時間」が重要になったりと変わっていくのでしょう。

アントレプレナータイプの人は、それまで属していた企業がもつビジョンや理想に共感していれば、組織の中であっても一生懸命働けるかもしれませんが、その組織と自分の考えている世界観と異なってきたとき、起業の選択肢を選ぶように思います。

なぜなら、このタイプはどの組織に属しても違和感を感じながら生きているからです。世界中に自分とまったく同じビジョンをもつ人はいないので、いつかは自分のビジョンのためにスタートアップすることになるのでしょう。

クラフトマンタイプにとっての転職

クラフトマンタイプの人にとっては、仕事の内容が自らが極めたいスキルと違ってきた時に、組織を離れることを考えます。人のマネジメントをしたくないから偉くなりたくないと嘯くプログラマもいます。

組織を離れるとき「どういう仕事をするか」が重要なので、自らがやりたい仕事がある場所に転職する選択をするでしょう。その方が手っ取り早いからです。クラフトマンにとって、天職と思える職業に出会い、それを一生の仕事にできるとしたら最高でしょう。

会社における評価の仕組みとビジネスモデルは強い関連性があります。もし技術者のままで評価される側に居続けるなら、既存の評価の仕組みを変えることはできないことに気付かないといけません。

もし既存の組織にいながらにして、その組織を変えていきたいと思うならば、まず技術者であることを捨てて何にでもなる覚悟が必要でしょう。

組織を変える一番の難しさは、偉くならないと組織は変えられないけど、偉くなるためには自分自身を変えないといけないが、そうするうちに組織に染まって変えられなくなる、ということに尽きるのです。

もし、クラフトマンタイプで、組織があわないけれど自分の考える「職」を極めたいのであれば、組織を変えようとするよりも、早めに転職を決意した方が良いかもしれません。

転職か起業か踏みとどまるか、自分の中にある働くモチベーションの源泉を、よく見極めてから行動するのが良いと思います。

倉貫 義人

株式会社ソニックガーデン代表取締役社長。経営を通じた自身の体験と思考をログとして残しています。「こんな経営もあるんだ」と、新たな視点を得てもらえるとうれしいです。

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