納品のない受託開発」についての話をすると、よく出る質問のひとつが「そんなビジネスモデルが、なぜ実現出来たのか?」というものです。

たしかに「納品のない受託開発」は、今の時代だからこそ実現できるビジネスモデルです。私が最初に問題意識をもった10年前に同じことが出来たかといえば、まだ難しかったように思います。では、どんな時代の変化があったから実現することができたのか、この記事では考えてみました。

Clouds
Clouds / PhotoAtelier

クラウドやオープンソースといった「技術」

技術的な側面からいえば、もっとも大きなポイントは「クラウド(コンピューティング)」の出現です。私たちの場合は特に、"Amazon Web Services(AWS)"の登場が大きかったと思います。これまでのシステム開発といえば、サーバーなどのハードウェアの調達からセットアップも含めて行っていました。ソフトウェアの前にハードウェアが必要だったのです。そして、いくらアジャイル開発と言っても、ハードウェアは少しずつ作るというわけにはいきませんでした。

それが、 AWSをはじめとするクラウドを利用する事で、ハードウェアの調達がなくなりました。しかも、月額定額で必要になったタイミングですぐに使い始めることができ、また必要に応じて環境を増強させることができるようになりました。「納品のない受託開発」において言えば、お客さまに「納品」することなく、ずっと我々が開発と運用を続けていくことが必須で、その実現に必要だったのがクラウドです。

また、オープンソースが普及したことで、プログラミング言語だけでなく、開発に必要な様々な部品を使うことができるようになりました。そして、機能の一部として利用できる決済やメール配信など様々なウェブサービスも登場してきました。「納品のない受託開発」では、たくさん時間をかけて作ることに価値はないため、そうした利用出来る部品や機能が増えることは、コストから見ても重要なことでした。

こうした技術環境の変化によって、一人のエンジニアが知らなければ作ることのできない分量が少なくなってきました。そこで「納品のない受託開発」では、個別のエンジニアが技術を狭く深く知って役割分担をするのではなく、ビジネスの話から作って運用するところまでの全てを一人で担当します。それによって、無駄な伝達コストがなくなり、非常に効率的なソフトウェア開発を実現することができました。

新しいワークスタイルを可能にした「道具」

「納品のない受託開発」では、お客さまのところに行って仕事をすることはありません。打ち合わせすらも、インターネットを介したオンラインで済ませてしまうことがあります。私たちソニックガーデンには在宅勤務の社員もいるのですが、なんの問題もなく、お客さまへのサービスを提供させてもらえています。そうした働きかたを実現したのは、様々な道具の発達です。

特にインターネットを介したツールやウェブサービスがたくさん出てきて、しかも今ではリアルタイムにコミュニケーションをとることも難しくありません。特に"Skype"の普及が大きかったです。オンラインでの打ち合わせのことを、「Skypeしましょう」と言って通じるのでとても楽です。実際に使うのはSkypeではないとしても、です。

また、お客さまもそうしたツールを使うことへの抵抗がなくなってきました。それは、スマートフォンがコンシューマへ広がっていったことで、多くの利用者がインターネットを介したコミュニケーションに慣れてきたということが背景にあると思います。スマートフォンは、一般の人のITリテラシーを確実に上げてくれました。

こうしたインターネットを介したツールが広まったおかげで新しいワークスタイルを実践することができます。新しいワークスタイルに取り組めば、またその新しいなりの問題が見つかりますが、今度はそうした問題を解決するために、私たちソニックガーデンでは、必要なサービスは自分たちで作るようになりました。それが、youRoomRemottyです。

インターネットが切り開いた新しい「市場」

インターネット以降で変わったのは道具だけではありません。ビジネスの世界も大きく変わりました。インターネットの登場以前は、ビジネスにおけるチャネルは、物理的な制約に縛られていました。それが、インターネットが登場したことで、どんな業種やメーカーであっても、顧客と直接つながることのできるチャンスができました。

業種や業界、そして企業の規模にも関係なく、すべての企業にとって、顧客や取引先へダイレクトにサービス提供や販売を通じてつながることができるのがインターネットの起こした革命です。それによって、それまでのシステムといえば、社内の業務を管理するものが主だったものから、自社のお客さまが使うような外向けのソフトウェアが求められるようになってきました。

また、インターネットの世界で、新しいビジネスや市場を作ろうという動きも出てきました。インターネットを活用することで、これまであった市場を置き換えるような事業やサービスが登場してきましたし、多くのスタートアップやベンチャーと呼ばれる人たちが、そこにチャレンジしようとする機運が高まってきました。

こうした事業の成否を握るソフトウェアを作るために、プログラマが求められる時代になりました。特に優れたプログラマに対する価値は今までにない位に高まりつつあります。

私たちの「納品のない受託開発」の多くのお客さまが、インターネットを使った新しい事業に取り組もうとされる方々であり、優れたプログラマを求める方々です。そうしたお客さまに対して、本当に優秀なプログラマを揃えて教育し、手を動かす顧問としてサービス提供させて頂いています。こうしたニーズが生まれなければ、私たちのサービスも続けられなかったでしょう。

インターネットによる変化してきた「認識」

時代の変化とともに少しずつ着実に変わったものといえば、人の価値観や意識です。それを変えてきたのもインターネットと言えるでしょう。パラダイムシフトが起きつつあります。

たとえば、BtoBのビジネスにおける取引先の探しかた。インターネットの登場以前は、BtoBで何か商材を探したり、取引先を探したり、相談相手を探そうとすると、人を介して行うしかありませんでした。どれだけ沢山の名刺を抱え、出入りの業者と顔がつながり、声をかけられる人がいるか、その多さがビジネスチャンスを広げていました。もちろん、今もそれらの重要性が失われた訳ではありませんが、それ以外に、インターネットを通じて情報収集するという行為が入るようになってきました。

新しいものを買うとき、特に高価なものを買う際は、多くの場合インターネットで事前に調べると思いますが、BtoBでも同じことが起きています。インターネットに沢山の情報を載せて、見込み顧客に知ってもらうことがとても重要なマーケティングになりました。コンテンツマーケティングの隆盛です。「納品のない受託開発」は、特に新しい概念でもあるので、まずは知ってもらうことから始まるために、たくさんの情報を載せるようにしています。それが実はビジネスに繋がっているのです。

また、開発者たちの間ではアジャイル開発に関する認知度が高まったのも大きな変化です。10年前では考えられないほど、アジャイル開発に対する認識が高まって、特別なものではない、というようになってきたと感じます。アジャイル開発という枠組みが大事な訳ではありませんが、そこで考えられているソフトウェアの保守性を大事にする考えかたや、チームワークや開発者の習慣を変えていく仕組みなどの本質的な部分の理解が広まったのは、「納品のない受託開発」の後押しになりました。

実際に行動し壁を壊し続けるだけの「熱意」

新しいビジネスモデルを実現させるためには、それが実現できる時代背景があります。よく「時代が追いついてない」と言われるようなサービスやプロダクトもありますが、そうした外部環境の時流を読むことも、新しいことを成し遂げるには大事な事です。

しかし、新規事業や新しいビジネスモデルを実現させるための本当に大切なことは、実際に行動することです。様々な業界で問題がないなんてことはなく、多くの人が問題意識を持って分析をします。しかし、その問題を解決しようと行動する人は稀です。大抵は居酒屋で発散して終わりです。

そして、実際に行動してみると、必ず壁にぶち当たります。きっと頭のいい人は、問題意識をもって分析したときに、そうした壁が予想されるから行動に起こさないのでしょう。しかし、新しいことを成すためには、立ちはだかる壁も壊して、乗り越えていかねばなりません。

事業を進めていくと、理想が高ければ高いほど、新しい壁は次々と現れます。それを壊し続け、乗り越え続けていくには、相当な「熱意」が必要です。情熱みたいな目に見えないものに頼るのは、どう考えてもロジカルではないのですが、最後に必要なのは、事業を起こしたい人の「熱」なのです。

どんな時代背景があったとしても、やろうと行動する人がいなければ実現しません。クレバーに時代背景を読む能力と、どんな困難も乗り越えようとする情熱の両方があって、初めて新しいビジネスモデルも新しい事業も生み出すことができるのではないでしょうか。