日本プロジェクトマネジメント協会(PMAJ)が主催している「PMシンポジウム2015」において、「優秀講演賞」という賞を頂きました。ありがとうございました。
いつも「プロジェクトマネジメント」からは少し離れた内容で講演させて頂いてきたのですが、それでも何度も呼んで頂き、あまつさえこんな賞まで頂き大変恐縮です。
目次
PMシンポジウムでの「納品のない受託開発」4度目の講演
たしか私がPMシンポジウムで最初に講演したのは2012年だったと思います。今回で4回目の講演になります。2012年のPMシンポジウムでは起業したばかりの私たちが提唱した「納品のない受託開発」についての話をさせてもらいました。
当時は「アジャイル開発」というキーワードと絡めて、それを実現する新しいビジネスモデルということで紹介しました。まだ実績も少なかったのですが、多くの方に共感して頂いたのを覚えています。あれから3年が経ちました。
私たちソニックガーデンも当時は7人だったのが、それから今や20人を超えるチームになりました。少しずつですが成長する過程で「納品のない受託開発」の事例も多く出すことが出来ましたし、書籍も出版させて頂きました。
今回は、初めてPMシンポジウムで話したときよりも、少しばかり自信をもって「納品のない受託開発」について話をしてきました。そして、そのビジネスモデルの背後にある経営スタイル「管理のない会社経営」についても話しました。
プロジェクトマネジメントの世界で「管理」をなくす話をした
今回の講演タイトルは『「納品のない受託開発」で拓く未来 〜 社会と業界とエンジニアの働きかたのビジョン』というものにしました。講演の資料は、以前に書いたブログ記事で紹介したものから抜粋した内容を使いました。
以下が講演資料の元ネタです。時間が足りなかったので、半分ほどを抜粋して話しました。
業界に起きた変化と「納品のない受託開発」に求められるもの
PMシンポジウムで初めて講演したときから3年が経過して、業界をとりまく状況にも変化が起きました。4つの変化として表現しました。
- クラウド:所有しないで利用する
- モバイル:産消逆転の現象が拡大
- ウェブ:全ての企業がIT企業に!
- アプリ開発:人数よりも個の能力
クラウドは3年前に比べて、もはや企業ユースの選択肢としては当たり前になりました。そして、モバイル(スマートフォン)の普及も進みました。産業で使う機器よりも、消費者が使う機器の方が新しいものを使う時代になったんですね。
そうした環境が利用者のITリテラシーを高めたことで、たとえ企業内で使うものであっても、ソフトウェアに求められる使い勝手や機能も高いものが求められるようになりました。使いながら、使いやすいように変えていく必要が出てきたのです。
こうした変化の中で「納品のない受託開発」に対するニーズが高まってきたのだと思います。エンジニアを雇用したいけれど採用と育成が難しく、開発会社に発注するには要件定義が難しく、それらの課題を解決するために相談に来られます。
新しい働きかたとこれからの社会に求められるマネジメント
「納品のない受託開発」で私たちは、ソフトウェアを開発する仕事から、お客さまの抱える問題をソフトウェアで解決する仕事というように、プログラマの仕事を再定義しています。その再定義した新しい職業を「顧問プログラマ」と呼んでいます。
問題解決の仕事に指示命令のマネジメントは不適です。するべき業務が決まった仕事であれば、指示して経過を管理する手法も通用しますが、「顧問プログラマ」の仕事にルーチンワークはないので、現場に権限委譲をして任せるしかありません。
クリエイティブな仕事をする人たちのモチベーションは細かく管理しない方が高まります。ヒエラルキーで管理するのではなく、セルフマネジメントできる人材が集まりフラットにコラボレーションするチームでこそ、高い生産性を発揮するのです。
「顧問プログラマ」のような新しい仕事、そして新しい働きかたには、それに適したマネジメントの手法があるはずで、それこそが「ホラクラシー」や「管理のない会社経営」であり、それを実践する企業はこれからも出てくることでしょう。
人は説得や説明では変えられないから実証してみせるしかない
プロジェクトマネジメントの世界の人たちの前で「ホラクラシー」に通じる話をしたことで、賛否両論のいずれも様々なフィードバックを頂きました。案件よりも人という考えに共感してくれる人もいれば、本当にできるのかという疑う人もいます。
中には本当に一部ですが強烈な批判も頂きました。批判があるのは想定の範囲内だったとはいえ、反射的な反論で返してしまったことは、今となっては反省しています。よく考えれば、そんなフィードバックをくれることは非常にありがたいことです。
それに、人は言葉でどれだけ説得されても、それで考えを変えることってほとんどありません。人が変わるキッカケは、出来るという事実を見て自ら気付くことです。そのためにやってみせて実証するしかありません。私たちはその実証に挑戦します。
新しい変化や考えは批判や不審から始まるものだという経験
新しい変化や考えは登場したばかりの頃は、それまでの多数派からは批判と不審を受けるものです。どんなものも、最初はオモチャのようなもの、取るに足らないものだと思われるものなのです。だから批判があることは、悲しむことではないのです。
よくよく思い出してみれば、15年前に「アジャイル開発」を大手SIerの中で実践しようとしたときも、10年前に「Ruby」で企業向けのシステムを作ろうとしたときも、5年前に「納品のない受託開発」を唱えたときも、批判や不審はありました。
それでも実践して、少しずつでも実績を積み上げてきたことで、失敗もありましたが自分たちの経験となりました。「ホラクラシー」もいずれ自分たちなりのスタイルで実績をつくり、また自信をもって講演できるように頑張っていこうと考えています。