大量生産のために一斉に同じことをするような仕事は減り、個々人の創造性やアイデアが求められる仕事が増えてくる中で、チームのマネジメントも変えざるを得ない。
計画した通りに手を動かしているかどうか管理するようなマネジメントから、個性や強みを活かしながら成果を出すマネジメントへの変化が求められる。その先にあるのが「チームの自己組織化」だろう。
ティール組織が注目されたのも自己組織化すれば、自律的に働きながらもチームとして成果を出せるかもしれないという期待からではなかったか。
しかし、チームの自己組織化を実現しようとしても、そう簡単にはいかない。自主性を重んじて、マイクロマネジメントをやめるだけではダメだ。なにより気をつけなければいけないのは、従来のパラダイムに引っ張られてしまうことだろう。
本稿では、自己組織化を妨げてしまう13個の古い常識や価値観について書いた。
目次
1.計画通りであることを良しとする
これまでのパラダイムでは、計画を立てることはとても重要だった。年間計画があるからこそ予算も立てることができる。そして、その計画通りに進捗しているかどうかは重要な指標になった。
自己組織化しようとするチームでも計画は重要だし、見通しを立てることも大事なことだが、一度たてた計画通りの結果であるかは重要ではない。計画を立てた段階では、わからなかったり不明瞭だった点があったはずだ。そんな解像度の低い計画通りであることよりも、結果が出ている方が良い。
2.やりたい通りにさせようと放置する
自己組織化なのだから、本人たちのやりたいようにやらせれば良いと思っていたら、おそらく失敗してしまうだろう。
自己組織化するのは大変なことだ。常に自分で考えなければいけないし、自由であることに伴う責任もある。嫌な人もいるだろう。「自己組織化したい」というのは組織側の望みでしかない可能性もある。自己組織化することの意義やコンセンスのないまま、放置しただけでは自己組織化は起きない。
3.時間を100%使わせようとする
マイクロマネジメントは自己組織化の真逆のものだ。だから、権限委譲するし、仕事の進め方も任せようとする。そこまでは良いが、マネジメントとしては成果を最大化したいので、せめて時間リソースは使い切りたいと考えてしまう。
しかし、本来の業務だけで100%の時間を使わせてしまうと、余白がなくなってしまう。たとえば、仕事の進め方を見直す「ふりかえり」の時間が取れなくなってしまうと、自己組織化からは遠のいてしまうだろう。
4.カタカナの肩書きを多用する
プロジェクトマネジメントオフィスやエンジニアリングリードといったカタカナの肩書きや役割はかっこいいけれど、使いどころを抑えないとチーム内に依存が生まれてしまったり、役割を超えた行動を恐れてしまうようになることがある。
特にカタカナの肩書きは、どういう役割なのか人によって認識が違っていたりすることがあり、一見するとわかった気になってしまうことに問題がある。役割はチーム全体が持っており、それぞれが強みで助け合うことが自己組織化だろう。
5.雑談は業務ではないと考えている
仕事をする仲間との雑談は、関係性を円滑にするためや、会議のアイスブレイクとして重要である。わかってはいるものの、それでも雑談はあくまで休息であり、業務外だと考えてしまうことがある。
そうなると、チームで雑談することに対する遠慮が生まれてしまう。堂々と雑談できないチームには心理的安全がうまれない。心理的安全のない職場では、新しいアイデアや改善案は出てこない。
6.競争と賞罰で動機付けをする
メンバーの働く動機付けのために評価があるが、他人との競争をさせることで成果をあげさせたり、結果が出ないことに対してペナルティを与えるような働きかけは、自己組織化を目指すのであれば適さない。
そもそも個人評価が強すぎると、チームの中でも他人を助け合おうという気にはならないだろう。「自己組織化するチームにする」という取り組み自体を外発的動機付けで実現しようとすることが矛盾をはらんでいる。
7.問題児にあわせてルールを決める
組織を運営していると問題が起きることはある。よくあるのが、スーツ着用が不要となってカジュアルな格好が許されたとして、どのレベルまで許されるのかわからずに、あまりにも不適切な格好できてしまう人がいる。そうしたときに結局、全員に目安となるルールが決められて、スーツ着用と変わらない状況になってしまう。
問題を起こした人に合わせてルールを作ろうとすると、誰にとっても不幸なルールになってしまうことがある。そんなルールが徹底された環境で自己組織化は難しいだろう。
8.信頼関係がないまま採用する
自己組織化チームの特徴は、メンバーが互いのことをよくわかっているからこそ、着飾ることなく素の自分を出せる心理的安全が保たれていたり、何か困ったことがあったときに強みを活かして助け合いができるようになっている。それは信頼関係があればこそだ。
しかし多くの採用では、まず採用を決める、そして入社があって、そこから信頼関係を築こうとする。その結果うまくいく人もいれば、そうでない人も出てくる。ギャンブル的な要素が強い。
9.遅れているプロジェクトに人を入れる
「遅れているソフトウェアプロジェクトへの要員追加は、プロジェクトをさらに遅らせるだけである」これは、ソフトウェアの世界で昔から言われているブルックスの法則だ。ソフトウェア開発プロジェクトでの教訓だが、現在の仕事の多くは、ソフトウェア開発のように、創造性が求められる。
マニュアル通りに一斉に手を動かす作業があるだけならばまだしも、量よりも質が求められる仕事においては、人の追加は混乱を増やすだけだ。
10.目に見えるKPIだけで評価する
目標管理制度による評価や昇進の仕組みを多くの企業が取り入れている。その評価項目は「KPI」といった数値で判断することが多いだろう。
しかし、チームで仕事をしていく上で、どうしても数字に現れてこない部分がある。ミーティングの際にさりげなくファシリテーションしてくれる人や、大変そうにしている人のケアをしてくれる人、チーム全体には欠かせないものの数字には簡単には現れてこない。
目標を数字で設定し、数字で評価することはとてもわかりやすいし、シンプルではあるが、わかりやすいものばかりだと頭を使わなくなってしまう。盲目的に猛烈に進むことは自己組織化とは言えない。
11.すぐに効果が出ることを求める
自己組織化はチームの状態であり、状態変化はすぐに結果がでることはない。 自己組織化に向けた取り組みは、たとえば社員同士が深く知り合うための機会を作るようなことをするが、それでも簡単にわかりあえるほど人間は単純ではない。人間の関係を変えるには時間がかかるのだ。
1ヶ月で効果が出るような取り組みなどなく、漢方薬やダイエットのように少しずつ効果が生まれてくる。それが待てないとしたら、自己組織化は難しい。
12.自己組織化に切り替えようとする
「Don’t just Do Agile, Be Agile」これはアジャイル開発でよく言われている言葉だ。アジャイル開発というのは、様々な取り組みはあっても結果として、良いソフトウェア開発ができている状態を目指すものであって、するものではないということだ。
自己組織化も同じことだ。そもそも「自己組織化しましょう!」と言っても何から始めたらいいかわからない。何かチェックリストがあって、タスクをこなしていけば自己組織化できるわけでもない。自分たちで考えて取り組むからこそ、自己組織化された状態になることができる。
* * *
私たちソニックガーデンは、上司なし、部署なし、ノルマなし、それでも年々成長を続けることができた。管理することよりも、各人の自主性を伸ばして、自律的に働いてもらうことで成果をあげることに取り組んできた。しかし、そうはいっても自己組織化を目指してきたわけではない。
私たちが最初に取り組んだのはアジャイル開発ができる組織になることで、仕事をしていく上での無駄を取り除き、各自の生産性を最大化するための工夫を重ねてきた。そうして、最小の労力で最大の効果を出せる下地ができた。
その次に、チームとしてより高い生産性を出すために、自律的に考えて動けることを目指した。創造性が求められるコンサルティングやプログラミングの仕事で、ボトルネックとなるのは上司だったから、上司をなくしたのだ。
会社として独立するときには、新しいビジネスモデルを始めて、組織のあり方もオリジナルで考えた形を実現することができるようになった。「遊ぶように働く」と言い出したのも、ここ数年のことだ。
このように「自己組織化をする」というスタンスではなく、生産性を高めて自律性を身につけることで独創性のある組織になったのだ。そして、これは他のどのチームでも同じように辿ることで、結果として自己組織化されたチームになるのではないか、と考えて書いたのが、以下の本だ。
13.教科書の通りにやろうとする
さて、本があるからと言って安心してはいけない。あくまで書籍は参考になるけれども、その通りにやるだけでは自己組織化とは言えない。
まずは、守破離でいう守の段階を教科書に従って進めつつ、自分たちの置かれた状況や自分たちのビジネス、メンバーなどをよくみていくことで、自分たちなりのやり方が見つかるはずだ。その時は、勇気を持って外れてみる。それが破の段階だ。その先にはオリジナルの形が見つかる。それで離となる。
本書の3つのステップも守破離を意識したものになっているので、ぜひ最初のとっかかりとして参考にしてみてほしい。
管理ゼロで成果はあがる
~「見直す・なくす・やめる」で組織を変えようhttps://gihyo.jp/book/2019/978-4-297-10358-3