セルフマネジメントの組織づくりに欠かせない「ふりかえり」

私たちソニックガーデンでは「ふりかえり」をとても重視しています。週に1度するものではなく、どんなときでも実施する習慣になるべく取り組んでいます。

もはや、私たちにとっては「ふりかえり」は文化と呼べるほど当たり前になっていますが、どうしてそこまで「ふりかえり」を重視しているのか、これまで言語化したことはなかったように思います。

本記事では、改めて「ふりかえり」をなぜ重視して取り組んでいるのか、その意義と価値について考察します。(ここでの「ふりかえり」は、一般的なアジャイル開発でのふりかえりとは異なります。参考記事

考え方とやり方が揃わないと生産性が出ない

ふりかえりによって、自分たちでやり方の見直し改善ができて生産性が高まること、個人の取り組みで改善されることで成長できることなどが、一般的に知られている意義です。しかし、ふりかえりにはそれ以上の価値があると考えています。

セルフマネジメントの組織づくりをしていると、個々が自由に振る舞えることだと勘違いされることがあります。個人で仕事するならともかく、チームで仕事するなら誰もが好き勝手にしていては成果を出すことは難しくなります。

チームで生産性を高めるためには、チーム内でのやり方や考え方を揃えておく必要があります。往々にしてプロジェクトの進捗が遅くなってしまうのは、仕事そのもの以前に、仕事の進め方がすりあっていないことに原因があります。

前職時代にシステム開発をプロジェクト形式でやっていたときは、案件ごとにバックグラウンドもポリシーも異なる人たちが集まるのですが、うまく進むまで仕事の進め方や開発プロセスの認識合わせに時間がかかったものでした。

日本代表クラスであっても、スター選手だけを集めたところで即座に結果を出せるわけではないのは、そこに集まる人たちの考え方や哲学が多様で、それぞれに優先順位や進め方が異なっているからです。チームに流儀がないうちは勝てません。

チームで生産性を高めるためには、仕事の進め方ひいては背景にある考え方や哲学を揃えること。そのために大事なのが採用時の見極めです。スキルや能力だけで判断しない方が良いでしょう。そして、もう一つ大事なのが「ふりかえり」です。

再現性の低い仕事を揃えるフィードバック

もし、私たちの仕事がルーチンワークだったらマニュアルを用意したはずです。仕事の進め方のマニュアルがあれば、ポリシーや考え方が違ったとしても揃えることができます。しかし、事細かなマニュアルを作ることができない仕事なのです。

私たちが取り組むのはソフトウェア開発 で、毎日の仕事内容は異なりますし、同じ職種でも取り組む内容は異なります。非常に再現性の低い仕事なのです。これはソフトウェア開発に限らず、現代の仕事はほとんどこうなってきているでしょう。

マニュアルがないけれども会社やチームで取り組む限り、何をやっても良いわけではありません。前述の通り、進め方が揃っている方が生産性も高まります。そこで、「ふりかえり」でのフィードバックを通じて共有し、揃えていくのです。

マニュアルのような正解のない仕事の場合、実際にやってみるしかありません。事前に揃えることができないので、やってみて事後にふりかえりを行って、自分たちの流儀に沿っていたかどうか、先輩や先達からフィードバックをしていきます。

やり方は一つではなく幾つもあるので、フィードバックでは答えを教えるというよりも、大きく外れていないかどうか軌道修正していくイメージです。道みたいなもので道幅があるので、そこから外れない限りは創意工夫することができます。

フィードバックは車の運転に例えられますが、道をまっすぐ走るにも少しずつ微調整を繰り返していきます。そのため外部からの反応は、なるべくリアルタイムに近い方が良いため、慣れないうちはふりかえりの頻度を多くした方が良いでしょう。

フィードバックの前に自分で言語化すること

ふりかえりでのフィードバックによって、価値観を共有していくことができます。例えば、顧客から急ぎの依頼がきたときに、深夜まで残業して対応した場合、ふりかえりでは、それが良かったことかどうかフィードバックされるはずです。

当然ですが、状況によるのでマニュアルにはできません。仮にマニュアルにしたら顧客には満足してもらえないでしょう。しかし、その残業するかどうかの意思決定には一定のロジックがあるはずです。その部分をすりあわせします。

それによって、自分たちの流儀では、どういったときに残業を選ぶのかどうか判断基準を持つことができます。そうした考え方や哲学の部分から揃えていけば、再現性の少ない仕事であっても、徐々に共通の進め方ができるようになります。

その際に、より納得感を持つためには、実体験した人間が自分で考えて言語化することが欠かせません。ただ良い悪いを指摘したり、わからないことに答えるだけでは腹落ちした納得感が得られません。結局、身にはならないのです。

だから、まずは自分自身で考え抜いて言語化します。仕事をしていく中で、どんな風に考えて、どんな理由で、どう判断したのか。そのプロセスを言語化して共有することで、客観的に見ることもできて、指摘や軌道修正を受けやすくなります。

言語化は慣れていない人にとっては、とても難しい作業です。しかし、ふりかえりでの言語化を意識することで、自分で仕事を進めるにあたっても、勘や直感だけでなく、思考プロセスを考えるようになっていくはずです。それも重要です。

コードレビューで見るのも結果よりもプロセス

ふりかえりは、言ってみれば働き方や考え方のレビューみたいなものです。成果物の品質を先輩や先達が確認するのと同様に、そこに至ったプロセスがどうだったのか確認し、誉めるべきは褒め、ダメなところはダメ出しをします。

プログラミングの世界ではコードレビューと言って、出来上がったソースコードの品質が適切かどうか、例えば同僚同士や上司が確認をします。最近だと、Githubの機能を使って、オンライン上でフィードバックすることができます。

しかし、このコードレビューは結果に対してだけ確認をしているため、品質の担保にはなりますが、書いた当人にとっての学びの取れ高は少なくなります。指摘されたとしても、なぜダメで、どう考えたら良かったかまで伝わりにくいでしょう。

もし品質だけでなく、育成の観点を入れるとしたら、書いた本人から意図を聞いて、作った手順を確認していくことで、開発の進め方に関して指摘したり、思考法を伝えることができるはずです。すなわち対面でのコードレビューです。

昨今のコードレビューの考え方が、前者の結果だけにフォーカスしすぎているようで、その風潮には危惧を抱いています。レビューを受ける側にとっては、結果だけ見て良い悪いと言われても、次も当てずっぽうになってしまいます。

プログラムは、すべて意思決定の結果です。どういった意図で、どんな構造にして、どんな表現で書いたのか、意図があるはず。それがないプログラムは、プログラムと言えません。なので、意図に対してフィードバックが要るのです。

正射必中と必中正射のどちらでいくのか

弓道の世界には、必中正射と正射必中という言葉があるそうです。必中正射は、当たったら正しい打ち方だったという考え方で、正射必中は、正しい姿勢で打つことで当たるのだという考え方です。(解釈が違っていたらすいません)

結果を重視するのか、姿勢を重視するのか、と言い換えて考えてみましょう。ビジネスにおいても、結果を重視する会社と、姿勢を重視する会社がありそうです。これは、どちらが良いか、ではなく、どちらの考え方を選ぶのかの違いです。

社会問題の解決や、プロダクトの成功といったミッションを掲げた会社であれば、結果を重視することを選ぶことが多いように思います。実現したいWhatが明確であるほど、Howにこだわりすぎない方が結果を出すことができます。

一方、私たちソニックガーデンでは、結果も大事ではありますが、それ以上に姿勢を重視しています。仕事のプロセス、やり方、その背景にある考え方や哲学といったものを大事にしています。それは、会社と組織の成り立ちに起因しています。

私たちには、「納品のない受託開発」という主要事業はありますが、それに加えて自社サービスも単一ではなく複数抱えています。プログラマを一生の仕事にするというビジョンはありますが、自分たちが考える理想であり目的ではありません。

「チームとコミュニティ」の記事に書いた通り、私たちはコミュニティ型の組織です。そこにいる人たちが先にあり、その人たちが活躍できるような事業や仕事を考えるようにして組織を作ってきました。結果のために人を集めていません。

コミュニティ型の組織における柱となる姿勢

しかし、コミュニティ型の組織だからといって、どんな人でもよくて、なんでもありかといえば、決してそんなことはありません。むしろ、自分たちなりの信念や哲学があり、プロセスや手法に拘りがあります。その姿勢や型を重視しています。

型の根本にある哲学に共感してくれる人たちで集まっているため、流儀が揃うことで高い生産性を発揮することができます。私たちの考え方・哲学に共感してくれる方が応募してくれるし、採用の際に見極めたい部分でもあります。

そして入社された方には、ふりかえりを通じて型を身につけてもらう必要があるのです。コミュニティは、地域や趣味などの拠り所があって人が集まります。私たちにとって、それが仕事の進め方や哲学といった「あり方」にあたります。

セルフマネジメントなのに、先輩からのフィードバックで指導されるなんて嫌だと思う人もいるかもしれませんが、セルフマネジメントができる人たちでチームワークを発揮するためにこそ、流儀を揃える規律が欠かせないのです。

ただし、ルールを守らせるのではなく型を身につけること、マニュアルに従わせるのではなく哲学を揃えること、としています。だから具体的な仕事では、指示命令があるわけでもなく、自分の頭で考えて創意工夫をしなければなりません。

守破離という言葉がありますが、まずは教えを守って型を身につけることから始まります。再現性の低いナレッジワークであり、セルフマネジメントの人材が集まるコミュニティ組織だからこそ、ふりかえりのフィードバックが肝となるのです。

未経験から型を身につけるための「ふりかえり」

世の中には様々な会社があり、それぞれに多かれ少なかれ型と哲学があるでしょう。その型と哲学が気に入らないなら、入社をしない・転職をするという選択肢を取った方が互いに健全でいられます。世の中にはきっと合う会社があります。

一方で、独立してフリーランスになったとして、好きな流儀で仕事ができるかといえば、チームやプロジェクトに参画する形で仕事をするならば、そのクライアント先の型に合わせる必要が出てきます。プロなら、どんな型にも合わせるのです。

それも嫌で、本当に自分流を極めたいのであれば、起業をするのが良いでしょう。新しいサービスとして結晶化することで、型に合わせて顧客に価値提供ができます。ただし、新しいサービスで市場を開拓することは非常に難易度が高いです。

また経験のない市場や業界であれば、ゼロから自分流で始めるのは大変に難しいことです。未経験で、いきなりラーメン屋を始めようとする人がいたら、ちょっと危なっかしいなと感じるはずです。まずは、どこかで修行したら、と思いませんか。

これも最初に身につけるのが型だということです。先人の知恵と言っても良いでしょう。まずは、身につけるには守から始める。型が身についてから、自分なりに破ってみて、やっていけるとなったら離れて自己流で始める。これが守破離です。

そんな型とか古臭いし、もっと手っ取り早くって考え方も最近はありますし、無駄な根性論は私も嫌いですが、本気で専門的な仕事をしていくなら、まずは型を身につける一定の期間を持つことは大事じゃないかなと考えています。

倉貫 義人

株式会社ソニックガーデン代表取締役社長。経営を通じた自身の体験と思考をログとして残しています。「こんな経営もあるんだ」と、新たな視点を得てもらえるとうれしいです。

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