クリエイティブな仕事をする自律型組織における人材育成

これまで私たちソニックガーデンでは、新卒も含めて若い社員は少しずつ入社していましたが、例外的な存在と言えました。定まった型があるわけでなく、たまたま応募してくれた人に合わせて採用や育成を個別対応してきました。

私たちが採用してきた多くは経験を積んだ即戦力となるベテランでした。それは拙著「人が増えても速くならない」で記した通り、ソフトウェア開発には誰でもできる雑務が少なく、生産性の高い少人数で対応する方が成果を出しやすい特徴があるからです。

それが、ここ数年で若い社員の採用を増やしています。それは一体なぜか。セルフマネジメントで働く人たちの自律型組織であった環境において、そしてクリエイティブな仕事において、人材育成をどうしているのか。私たちの取り組みを紹介します。

セルフマネジメントをサポートするマネージャ

私たちソニックガーデンでは、業務において卓越した実力があり、セルフマネジメントできる人たちを採用することで、フラットな組織で厳密なルールや制度もない代わりに、自立的かつ自律的に動く組織を作ってきました。

それは、自由である一方で各自が一定の責任を果たせるから成り立っています。ここに、まだ仕事もセルフマネジメントも未熟な状態で入れて放置してしまうと、育つかどうかもその人次第になってしまい、うまくいかないことが何度かありました。自由というのは厳しい自然環境みたいなものだったのです。

まだ若くセルフマネジメントができないのであれば、それを段階的に身につけていくことはできないか、ゼロかイチかではなくて成長において段階があると考えました。それがセルフマネジメント5段階の考え方です。(詳しくはこちらの記事「セルフマネジメントで自由に働くまでの5段階ロードマップ」

そしてセルフマネジメントを身につける段階の人たちには、マネージャをつけることにしました。一定のセルフマネジメントができている状態を100だとすると、たとえば10くらいの人がいれば残り90の部分が足りていない。そこを補いサポートするのがマネージャの仕事です。

目指すのはセルフマネジメントできて自律型組織で働けるようになることなので、最初は手間がかかったとしても、徐々に育っていけば楽になっていくはずです。最終的には、中途採用と同じスタンスで働けて、カルチャーも身についた状態になって欲しいと考えています。

クリエイティブな仕事だからこその徒弟制度

自律型組織でありつつ、チームを組んだ時に高い生産性を発揮するために重要になるのが、組織のカルチャーです。カルチャーを中心として人が集まることで、仕事の進め方や価値観が揃っているため、意思決定が早くなったり、協力しあうことも容易になります。

これは、ある意味で流派みたいなものです。特に、クリエイティブな仕事には流派が必要なのではないかと考えています。私の言うクリエイティブな仕事とは、一人一人が違う成果を出す、毎回違う成果を出すことが求められる再現性のない仕事のことを指しています。

プログラミング、コンサルティング、デザイン、経営、人事、企画職など、どれも再現性がありません。マニュアル通りに手を動かす仕事とは違い、常に新しく頭で考える必要がある不確実な仕事です。不確実だからこそ、共通の型や判断基準があればチームとして成果が出しやすくなります。

マニュアルのない仕事で上達するには、経験を積むしかありません。スポーツや音楽に似て実践や練習で身に付くもので、それを闇雲に取り組むよりコーチがついていた方が伸びます。コーチがついても、どれだけ伸びるか個人に依るところも、クリエイティブな仕事とスポーツは似ています。

私たちにとってのマネージャは、カルチャーを伝えていくコーチのような存在であり、この流派の師匠と言える存在です。そのため社内ではエンジニアのマネージャを「親方」と呼んでいます。クリエイティブな仕事には、らせん一周回った徒弟制度が有効なのではないかと考えています。

成長ファーストで考えた育成の環境と働き方

自律型組織においての働き方は、リモートワークで働く場所は自由であり、勤怠についてもコアタイムなしのフレックスで柔軟に調整できます。それでも成果を出せるから良いのです。しかし、マネージャが必要な段階においては、そうはいきません。

マネージャである親方のもとにいる間は弟子であり、弟子のうちに目指すのは早く成長することです。リモートワークやフレックスは、自律的に動ける人たちの成果の最大化を目的とした環境整備でしたが、弟子たちには成長の最大化を目的とした環境整備が必要です。

そこで、毎日決まった時間に出社して働ける環境を用意しました。やはり親方の近くで働いた方が目がいき届くし、伝えられる情報量も増えます。リモートワークだと仕事の結果だけは見えても途中経過を見ることは困難ですが、一緒の空間にいれば過程にもフィードバックできます。

また、同じ立場のメンバーで出社することで同期や先輩とのつながりを作ることができます。これもセルフマネジメントできる人たちの中でリモートワークをしていると、なかなか弱音を共有したりする関係になることは難しいですが、リアルにいれば関係構築もしやすくなります。

こうした環境整備をする上で、私たちの場合は既にセルフマネジメントを前提とした人たちがいるので、そうした人たちは今まで通りにした上で、これからの人たちに合わせた新しい制度を作りました。これは自律型組織を維持しつつ、もう一つ別の組織を作ったようなものです。大変ですが必要なことでした。

入門であるという採用時の認識のすりあわせ

クリエイティブな仕事で成果を出して自律型組織で働けるようになるまでは、学校教育のようにして育てる形よりも、いかに自主的に育つ環境を整えるのか、という観点が重要になると考えています。育てるのではなく育つ、そのための良い環境で良い仕事を渡すことです。

親方から渡される仕事に取り組み、成果に対してフィードバックや指導があり、ふりかえりで内省を促された上で価値観を共有されて、自ら試行錯誤を繰り返していきます。これはなかなか大変な道のりですが、本人が前向きに努力すれば着実に成長できる環境です。

そうした環境は、自由でも楽でもありません。報酬を得るための労働として選ぶとしたら、あまり理にはかなっていませんが、エンジニアとして出来ることを増やし、セルフマネジメントを身につけていく成長を望んでいるなら良い環境と言えるでしょう。

そのため、入社する前の当人と私たちの認識のすりあわせが欠かせません。目指す先は自律型組織で、それこそ「遊ぶように働く」ようになることをビジョンとしつつも、そこに至るためには大変でも成長していく必要があり、その環境を望んでいるか?ということです。

若い人を受け入れていくことは私たちにとっても容易なことではないし、単純な労働力が欲しいわけでも、まして入ってすぐ労働力になるわけでもないからこそ、応募者の方にはソニックガーデンという流派に入門するという認識で入ってもらいたいと伝えています。

人を育てるのは投資ではなくアクティビティ

自律型組織ができている私たちが、あえて手間と時間をかけて若い人たちを採用しているのは、増え続けるお客さまの期待に応えたいというのはありますが、それよりも自分たちにとっても成長の機会になり、組織にしてみると変化の機会になると考えたからです。

私たちは創業から10年が経って、あまり人も辞めずに組織が成長したことで、安定するとともに新鮮な刺激や挑戦が減ってきたのも事実です。安定した経営は望むところですが、変化を取り入れなくなったら停滞となり、今は良くてもいずれ安定しなくなってしまうでしょう。

若い人の育成に携わるのはベテランのエンジニアにとってみれば、技術問題でなくベクトルの違う適応課題に取り組む人生経験の場にもなります。経営者にしてみれば、組織の形やマネジメントを変える必要があるのですが、それも難しくも良い経験が得られます。

私たちにとって育成は、人が育った先の将来的なリターンを求めた投資という感覚ではなく、今の私たちだから経験できるアクティビティであるという感覚です。この取り組み自体から得られるものがあるからこそ、十分に時間や労力もかけることができます。

今のところ時間をかけるだけの会社として体力もあるし、短期的な事業成長を求める外からのプレッシャーもないため取り組むことができています。そして時間さえかけることができれば、いずれお客さまに提供できる価値も増やすことができるだろうと考えています。

自律型組織における人材育成の知見のシェア

こうした考え方と方式での採用と育成に取り組み始めたのは、まだ2年ほど前のことです。なので、この取り組み自体が成功なのか失敗なのか、それはまだわからないというのが正直なところ。しかし、実験として捉えるならば、すでに多くの知見が得られています。

こうしたことは、オフィスをなくして全社員リモートワークを始めたときも、顧問型のビジネスモデル「納品のない受託開発」を始めたときも感じたことです。長期か短期か時間的に、どの視点で見るのかによって、良かったかどうか変わってくるでしょう。

少なくとも、この数年で入社してくれた若いメンバーたちが、師匠のもとで日々奮闘しながらも成長を続けてくれている様子を見ていると、大変だけど取り組んで良かったと思えています。会社や組織としても、もう一段の成長できそうな感覚です。

育成を通じて改めて私たち自身がどうありたいのかを考える機会になり、このことはソニックガーデンに応募してくれる方々にも知ってもらいたいと思い至り、コンテンツから作り直して採用情報のページを刷新しました。今回、中身をすべて書き下ろしました。

もっと良いプログラムを書けるようになりたい、ソフトウェアで直接お客さまに喜んでもらえる仕事ができるようになりたい、同じ志をもった仲間と切磋琢磨しながら腕を磨いていきたいと考えている方がいれば、私たちの採用ページをのぞいてみてください。

ソニックガーデン採用ページ
https://www.sonicgarden.jp/join_us

倉貫 義人

株式会社ソニックガーデン代表取締役社長。経営を通じた自身の体験と思考をログとして残しています。「こんな経営もあるんだ」と、新たな視点を得てもらえるとうれしいです。

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