ホラクラシーはスケールできるのか 〜 小さな会社から自律型の会社へ

ホラクラシーはスケールできるのか 〜 小さな会社から自律型の会社へ

私たちの会社、ソニックガーデンでは「管理のない会社経営」として、セルフマネジメントができる人材で構成されたフラットなチームの在り方を模索してきました。これは最近だと「ホラクラシー」と呼ばれる経営スタイルに近いものです。

そして今、これまで信頼関係やカルチャーを維持する手段として使ってきた「小さな会社」という表現を見直そうと考えています。かといって大きな会社を目指そうというわけでもありません。

この記事では私たちの考えている組織のあり方について書きました。

自分たちがやってみせて世の中にやれることを実証していく

「小さい会社」であることを重視していると言えば、どれ位の人数のことかとよく聞かれます。それについては具体的な数字は考えていなくて、カルチャーが守れて、信頼関係を失わずにやっていける位と答えていました。

今のソニックガーデンは、一人前のメンバーは10名を超えたところですが、弟子や見習いジェントルワークスの人たちを入れると20名を超えてきて、5人で始めた頃からすると大きくなりました。これは「小さい会社」なのでしょうか。

何千人何万人もの会社にするつもりは到底ないですが、「小さい会社」と言いつつも私たちは採用を止めたことはありません。だから、少しずつではありますが、人が増えて成長してきました。

そこで「小さい会社」にこだわって、採用をストップするかというと、そんなことはないのです。私たちが目指しているのは、プログラマの働きかたの新しいカルチャーを広めていくことです。

そのために私たちが今選んでいる戦略は、新しい働きかたのプラットフォームを作ることよりも、自分たち自身がやって見せて世の中にやれるんだということを実証していくというやり方です。

出来るわけがないと思い込んでいる人たちの「脳のブレーキ」を壊すためにやって見せるのです。そのために「納品のない受託開発」で幸せにできるお客さまを増やしていきたいし、それを実践できる顧問プログラマを増やしていきたいと考えています。

案件ありきでなく人ありきの採用で緩やかに成長を続けていく

おかげさまでお客さまは沢山お求め頂いていて、お待ちいただくケースも出てきました。経営者としては心苦しいところではありますが、ここで妥協して焦って人を入れてしまうと全てが崩壊してしまう位に考えて、採用は慎重に行っています。

というのも、これまでもこれからも、この「納品のない受託開発」というビジネスモデルの肝は、セルフマネジメントが出来て、技術的に一気通貫できて、私たちのカルチャーに合う人で構成することだと考えているからです。

だから、案件があるから人を入れるという順番ではなく、本当にいい人がいるから入ってもらって仕事をしてもらう順番でいく「ピープルファースト」という姿勢は崩すつもりはありませんし、今まで通り長く厳しい採用の期間と手法も変えません。

また、そうしたカルチャーを維持していくためにも急成長はできませんが、そのスピードさえ許容した上で、止まることなくゆっくりと成長と変化はし続けていきたいと考えています。これは遠回りのように見えて、案外正しい道な気もしています。

なによりも、楽しく天職と思える仕事を、認め合った良い仲間と長く続けていけることを大事にしたいと思っていて、ただ続けるためには維持するのではなく、変化をしていくことが生き残る術だとも考えています。

新しい仲間を加えていくのは、チームにとって新陳代謝を生み出すきっかけになりますし、新しいことができる可能性が広がります。だから人の採用は続けていくし、結果として「小さな会社」という言葉はいつか実態と違ってきてしまうでしょう。

たとえ人が増えても管理のない自律的なチームであり続ける

そもそも、なぜ「小さな会社」で良いとしていたのか。私たちが実現したいのは、セクショナリズムがなく、伝言ゲームや承認による無駄がなく、仲間とともにやりたいことに取り組むし、困ったときは助け合える、そんなチームです。

そして、さらに「そもそも」を考えると、なぜそんなチームを望むのかと言えば、私を含め全員がプログラマ気質なため無駄なことが嫌いで、形式的なことよりも実利的なことを好むからという背景があります。

また、私たちのような顧問ビジネスで最大限に生産性を高めることを考えるなら、管理で縛るよりも個々人の自主性と自律性に任せた方が効率的だし、問題解決の仕事の場合、指示命令を上司がするのは実質的に不可能だからです。

なによりも、もし経営者の私が社員であってもそんな会社だったら働きたいと思える会社にしたいからです。経営者でも心はプログラマだから怠惰なので、支配してコントロールするのは面倒だと思っちゃうというのもあります。

管理で縛らないことを成立させるために重要なことは2つ。1つはその仕事が本人にとって好きでやりたい仕事、つまり天職であること。もう1つは、仲間との信頼関係が築けていることです。

これまでの信頼関係を保つための手段が「小さな会社」でした。これからは、それに代わる新しい手段に取り組んでいこうと考えています。人が今よりも増えたとしても本質的な部分を変えずに保っていけるかどうかが、これからの挑戦です。

リカルド・セムラー「奇跡の経営」3000人のホラクラシー

そんなことは無謀な挑戦のように思えます。しかし、コントロールを放棄した経営を実践しつつも、大きくしている企業の実例があります。それが、ブラジルにあるセムコ社です。

セムコ社は、6年という期間で売上が3500万ドルから2億1200万ドルに成長し、従業員数が3000人もいて、ブラジルで最も人気のある企業です。それをコマンドコントロール型のマネジメントをしない経営で実現したのです。

セムコ社の存在は知っていましたが、少し絵空事すぎると思っていたし、3000人という数字に共感できる部分はないと思っていましたが、このセムコ社の創業者リカルド・セムラーの書いた本書を読んで大きく印象は変わりました。

奇跡の経営 一週間毎日が週末発想のススメ
リカルド・セムラー
総合法令出版
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本書のタイトルにある「一週間毎日が週末発想」とは、仕事の時間とプライベートな時間をうまく融合させて、仕事を楽しみ、仕事への情熱と個人生活の情熱のどちらも満足させる新しい働きかたのことです。

そして、それを実現するためのポイントが、コントロールをやめること、社員の誰もを大人として信頼する、会社の規模を拡大しない、ということなのです。そのどれも、私たちソニックガーデンの哲学に近しいものばかりです。

そのような似ている哲学でありながら、マーケットの上でも高い評価を受けるまでに成長させていることに、とても勇気づけられました。本書については、改めて詳しく紹介する記事を書いてみたいと思います。

まとめ

– ビジョンの実現と会社の新陳代謝のため、今後も採用は続けて仲間は増やしていく
– 信頼関係とカルチャーの維持のため、急成長は求めず、厳しい採用基準は保つ
– 自己組織化された自律型の会社を目指し「小さな会社」という表現にこだわらない

記事を書きながら尊敬する経営者の一人である松下幸之助さんの言葉を思い出しました。

会社を大きくするか小さくするかは、経営者が決めることでも会社が決めることでもない。社会が決めるのである。

Posted by 松下幸之助 on 2015年7月5日

倉貫 義人

株式会社ソニックガーデン代表取締役社長。経営を通じた自身の体験と思考をログとして残しています。「こんな経営もあるんだ」と、新たな視点を得てもらえるとうれしいです。

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