上司をなくせばうまくいく「ホラクラシー」採用と育成の仕組み 〜 ギルドを2年やって得た学び

上司をなくせばうまくいく「ホラクラシー」採用と育成の仕組み 〜 ギルドを2年やって得た学び

先日、私たちの会社ソニックガーデンのウェブサイトを少しリニューアルしました。会社を始めて5期目になって、少しずつ人も増えて組織も変化してきました。会社の顔であるウェブサイトもあわせて変化させたいと考えました。

この記事では、この1〜2年ほどのソニックガーデンで起きた出来事と変化について書きました。これからの具体的な戦略や施策については、また日々の経営の中で変わっていくものなので、またいずれ振り返って書くことになるでしょう。

カルチャーを受け継ぐ若者を「弟子」から育てる

採用について起業当時と大きく変わったことは、新卒採用を始めたことです。2014年から毎年1名ずつ採用をして、現在2名の若者が働いてくれています。彼らは、顧問プログラマが「一人前」と呼ばれるのに対して「弟子」と呼ばれています。

「納品のない受託開発」では人月商売をしないので人がいても売上には直結しませんし、仕事ができるようになるまでお客さまを持つこともありません。そのため弟子を雇うことは、教育にかける時間も含めて考えると相当な投資となります。

しかし、私たちは企業カルチャーを大事にしつつ、長く続けていける会社を目指しているので、そのカルチャーを受け継いでいってくれる人たちを育てるためには、新卒採用をすることはとても大事なことだと考えています。(弟子の書いたブログ記事

採用のハードルは下げずに「見習い」で修行する

中途採用を続けてきて学んだことは、どれだけプログラミングの腕があったとしても「納品のない受託開発」で一人前の仕事をするのは簡単なことではなかったということです。開発の経験は活かせますが、それだけでは足りません。

「顧問プログラマ」をこれまでにない新しい職業だと考えると、即戦力は現実的には存在しないことになります。かといって採用のハードルを下げることはしたくありません。そこで、早く一人前になるための「見習い」という育成制度を始めました。

「見習い」の間は、裏方や自社サービスの仕事を通じて「納品のない受託開発」について学び経験する修行をしてもらうことになります。「見習い」は以前「アカデミー」と呼んでいましたが、修行の感じを出すために改名しました。

会社と社員の関係を再定義「見習い」で採用する

これまでの中途採用では「一人前」として仕事ができるようになるまでは雇用契約を結ぶことをしてきませんでした。前職を続けてもらいながら、その中で採用に時間をかけて、半分は修行のような形で続けてもらってきました。

ただ、やはりフルタイムで修行をしなければ一人前になるまでに相当に時間がかかってしまうし、体力的にも厳しいです。そこで「見習い」でありながら、雇用契約を結ぶという採用制度を用意しました。これを「見習い採用」と呼んでいます。

「見習い採用」は法律上は正式な雇用契約ですが、あくまで見習いなので一人前としてソニックガーデンに入れた訳ではありません。一人前と認められて初めてウェブサイトなどに掲載されて「ジョインした」ということになります。

採用応募の仕組みをシステム化「トライアウト」

ソニックガーデンでは、非常に慎重に採用するため、応募から採用までとても時間をかけるという特徴があります。しかし、これまでの人たちは、特定の決まったプロセスがあった訳ではなく、人にあわせて進め方を考えていました。

採用では社長である私が最初に面談をするので、私のところがボトルネックになりがちでした。そこで、採用プロセスそのものをシステム化して、なおかつ気軽にチャレンジできるようにしました。その仕組みを「トライアウト」と呼んでいます。

「トライアウト」は試験をする仕組みではなく、オンラインで技術力と人間性を確認し、足りないところは自習してもらえる仕組みになっています。「トライアウト」をクリアできて初めて「見習い」として一緒に働いてもらうことになります。

自分たち自身が実践することで文化を広めていく

このように採用と育成には、とても力を注いでいます。それは「納品のない受託開発」に求められるお客さまのニーズとして、優秀なエンジニアの目利きと育成と評価に困っていて、その解決のため私たちに相談に来られるケースが多いからです。

私たちがビジョンを実現するためには、「納品のない受託開発」のプラットフォームを展開するやり方か、自分たち自身がやってみせることで文化を広げるやり方をとるか、2つの選択肢がありましたが、いま私たちは後者を選んでいます。

私たちの職人気質として、やはり自分たち自身で実践したいし、お客さまには間違いなく良いサービスを提供したいのです。プラットフォームではそこが欠けてしまいます。急成長も急拡大もできませんが、私たちには合っていると感じています。

「ギルド」を実践して学んだことと制度の見直し

当初に「ギルド」を考えていたときは、多くのお客さまに私たちだけで対応しきれないので、ビジネスモデルを展開し、かつ、お客さまも紹介することで、カルチャーを広げていこうとしていましたが、足りなかったのは人の育成の部分でした。

ビジネスモデルがあってお客さまがいても、やはり腕の立つプログラマがいなければ実現できません。そこで入社する以外の形で「納品のない受託開発」をしたいと希望する場合でも、採用と同じだけのプロセスを踏んでもらうことにしました。

そうなると相当な時間をかける必要があり、お互いにそれだけの投資をするならば、長期的な関係でないと割が合いません。ビジネスモデルだけを提供する形はやめて、一緒のチームに入ってもらえる長期的な関係を前提となるよう見直しました。

チームに入れば誰もが対等でお互いに助け合うこと

「納品のない受託開発」をうまく機能させるために、チームで対応することが必須となります。お客さまへの継続的な価値の提供と、高い品質を実現するために、お互いの案件をサポートしあい、コードレビューなどしあう必要があるのです。

雇用契約を結んだ社員だろうと、フリーランスだろうと、所属する会社が違おうとも、チームに入ったからにはその一員として、仕事の内容や働きかた、年俸制という報酬まですべて同じ内容にしました。違いはないので本人が自分で選べます。

もはや「ギルド」と呼ぶ必要もなくなり、その呼称は社内では使わなくしました。まったく同じ立場・役割なのに言葉を分けると、そこにセクショナリズムが発生するからです。契約にかかわらず仲間と思えることが、私たちの目指す関係です。

契約関係よりも仲間であることの本質を重視する

アウトソース先でなく、一緒に働く仲間であるためにしていることは、働く時間を揃えることです。リモートワークの多いメンバーですが、Remotty上で、いつでも相談できる状態にしておくことがチームワークを高めるために大事なことでした。

そのため、自分の案件だけすれば良いという訳ではなく、チーム全体で成果を出すことに貢献してもらうことになります。年俸は決まっているので、空いた時間は他のメンバーのサポートや、自社サービスの開発などを手伝ってもらうことに変えました。

契約があるから仲間になるのでなく、お互いに尊敬しあい助け合える関係になることが本質で、そこに必要であれば契約を結ぶのです。所属会社が違えど、フリーランスのままでも、契約関係はさておき「心はソニックガーデン」なら一緒に働けます。

会社公認の「部活」がイノベーションを生むかも

これまでソニックガーデンでは、「納品のない受託開発」で安定した収益源としつつ、自社サービスで新規事業に挑戦することをしてきました。ただ、よくよく考えれば、私たちがやりたかったことは事業開発ではなく、ソフトウェア開発でした。

「事業」としてしまうと、事業化できないものは実施できなくなってしまうし、短期的に数字的な成果を求めてしまって、つまらなくなってしまいます。むしろ会社公認でゆとりもって遊んだ方がイノベーションが生まれるのでは、と考えました。

それが「部活」で、会社公認で仕事中でも仲間と取り組める新しい挑戦としました。部活を通じて、新規事業のネタを作り出すこともあれば、新規技術の検証を行います。「サカナタッチ」や「イシュラン」などが、これまでの部活の成果です。

プログラマを一生の仕事にできる長期的な関係を築く

私たちは、一緒に働く仲間のことを会社のための資源と考えている訳ではなく、それと逆の発想で、それぞれのメンバーがビジョンに向けて進むための場が会社である、という考えでいます。個人がやりたいことを応援するのがソニックガーデンです。

ソニックガーデンのビジョンには、「プログラマを一生の仕事にする」というものがあり、まさしく天職としてずっと「顧問プログラマ」の仕事を続けていきたいという思いがあるならば、ずっと会社としてはバックアップしていきたいと考えています。

そうした道のほかにも、自分のサービスで起業したいというビジョンや、経営に携わりたいというビジョンが個人ごとにあるならば、それらにも応えていけるような会社でありたいし、そうした道を用意することが長期的な関係には不可欠です。

社内ベンチャーの経験を活かして起業の成功率を高める

これまでギルドという制度で支援したいと考えていたことは、将来は自分のサービスで起業したいと考えている人に、それに挑戦するための資金的・時間的な余裕を持ってもらうことでした。それは「部活」で実現することができそうです。

一か八かで起業しても成功する確率は低いです。私たちソニックガーデンの場合は社内ベンチャーから始めたことで、経営の経験を積んでから起業できたので、より安全に始めることができました。それと同じことが出来ないかと考えました。

まずは「部活」を通じて、事業の経験を得て、一緒にやってくれる仲間を見つけ、うまくいきそうならソニックガーデンが出資の形で資金援助と起業支援まで行います。これによって起業したいビジョンを持つ人とも長期的な関係を築けます。

「納品のない受託開発」を広めるための経営に参画する

顧問プログラマの道を究めること、コードの書ける起業家になることに加えて、3つ目の道を用意しています。それが、ソニックガーデンの経営に携わるという道です。顧問プログラマの仕事を続けながら、経営の仕事をしてもらいます。

ソニックガーデンにおける経営の仕事は、「納品のない受託開発」の案件に関わる仕事、弟子や見習いを育てる仕事が一人前の仕事とすると、それ以外の採用に関する仕事、制度や仕組みの改善などの、零れ落ちる仕事をすることです。

これまで創業メンバーには取締役として、その役割に従事してきてもらいました。そしてこのたび、その取締役に新任として、ソニックガーデンの西見が就任することになりました。より責任のある立場で頑張ってもらいます。(新任取締役について

目指すのは小さな会社からホラクラシーな会社へ

新卒採用に見習い採用を始めて、フリーランスや別会社でも同じチームとしてやっていくとすれば、会社そのものの人が増えていってしまうのではないか、という懸念があります。これまで、私たちは「小さな会社」が良いと考えていたことに反します。

しかし、小さな会社でいることは、私たちにとって管理の無駄をなくし、信頼関係で保たれた組織を作るための手段でしかなかったのです。目指しているのは、セルフマネジメントができる人材を集めたフラットで中間管理職のいらない組織でした。

私たち自身が実践してみせることで文化を広めるという手段をとるために、実践できる人を中で育てていくためにも、人は増えていっても良いと考えました。とはいえ、ピープルファーストという戦略は変えないので、急成長することはありません。

人が増えるときヒエラルキーで管理することは簡単ですが、私たちはそれをしません。ホラクラシーなままカルチャーを壊さずに人を増やしていくこと、とても難しいことと誰もが思うかもしれませんが、そこに挑戦していくのが私たちの決意です。

倉貫 義人

株式会社ソニックガーデン代表取締役社長。経営を通じた自身の体験と思考をログとして残しています。「こんな経営もあるんだ」と、新たな視点を得てもらえるとうれしいです。

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