「30人の壁」を越えた自己組織化の実験と結果 〜 適材適所で全員が活躍できる組織

「30人の壁」を越えた自己組織化の実験と結果 〜 適材適所で全員が活躍できる組織

2017年のソニックガーデンの経営を振り返ると、セルフマネジメントでフラットな組織のままで30人の壁をなんとか越えて、この先も変わらぬポリシーでやっていくための土台づくりに取り組むことが出来た。(参考:去年の記事

その結果、もはや一般的な会社とは根本から違う自分たちなりの形が出来てきたように思う。本記事では2017年に取り組んだ実験と結果について記そう。

内発的動機しばりのマネジメントで人数に立ち向かう

従来のセオリーに従った組織マネジメントをするならば、人数が増えて、社長ひとりでは目が行き届かなくなってくれば、部署に分けて管理職を置いて、報酬を上げて肩書きを与え、組織を分けて管理をする。その積み重ねがヒエラルキーだ。

しかし、私たちソニックガーデンでは、ナレッジワーカーは管理をしない方がの生産性も高くなり合理的だと考えており、セルフマネジメントな人材を集めてフラットな組織でやってきた。外発的動機に頼らず、内発的動機を高める経営を実践してきた。

この「管理のない会社経営」は、私たちのアイデンティティでもあって、このコンセプトを外してしまっては会社を続ける意味はない。一方で、人数が増えたことによる弊害も出てきた。合宿など、全員で一斉に何かをすることが難しくなってきた。

社内のコミュニケーションパスが増えて、全員が全員と同じ量の会話をすることは難しくなったし、互いに助け合うことがセルフマネジメントと言えども、全員に満遍なくとなれば、それぞれに関心が薄くなってしまうのも仕方がない。

後から新しく入ったメンバーも相談しやすい相手が誰かわかりにくいし、何か困ったことがあっても全員に助けを求めるのは抵抗がある。そして、全員の足並みを揃えようとすると、スピード感が失われてしまう。これは避けたい事態だった。

分割統治、セルフマネジメントは個人からチームへ

プログラミングの世界には「分割統治」という考え方がある。大きな問題は、小さな問題に分割して解決しようというものだ。プログラムは、規模が大きくなればなるほど複雑化する。だからといって何をするにも全体を理解しないといけないようでは困る。そこで分割統治だ。

私たちが取り組んだのは、これまでワンチームだった全体を、3〜4人までの少人数チームに分割することだ。チームと言っても、リーダーはいない。管理が目的ではないので、指示も報告もない。チーム自体もセルフマネジメントで動く。セルフマネジメントがフラクタル構造になっているイメージだ。

当初は、このチームを小さな会社のように計数や案件も持たせるようにしようと考えていたが、その目論見は変わった。実際のところ、案件はメインとサブのペアで受けるのだが、その組み合わせをチーム内に閉じるのは現実的ではなかったし、そう言えば数字は会社全体でも管理していなかった。

チームにした効果は「ザッソウ(雑談・相談)」に現れた。やはりすぐに声をかけられる範囲が2〜3人だと話しかけやすくなったようだ。これはオフィスで言えば座席が近いことに似ている。つまり、リモートワークで仮想的に近くの座席を実現したということではないだろうか。

組織のスキマを埋めて、新卒を育てる経営チーム

指示命令をしない組織における経営の仕事は何か。会社の中心であるプログラマたちがやらないことをすることであり、会社に出来る隙間を埋めることが仕事だ。ただし、人数がこれだけ増えると、隙間も大きくなる。そこで、経営もチームで対応するようになった。

経営をチーム化して取り組めたことの一つが、セキュリティやコンプライアンスへの対策だ。セルフマネジメントの良さはスピード感だが、会社として全社で足並みを揃えるべきこともある。そういったことに取り組む時期になったということだ。自由と規律のバランスを保つのも経営だ。

また毎年、1名の新卒社員を弟子として採用しているが、今年も4月に1名入社してくれた。弟子のうちはプログラミングの腕は未熟なため、それで稼ぐというのは難しい。そこで、プログラミング以外の雑用などに従事しながら、プログラミングの修行をするようにしている。

そして、そのプログラミング以外の仕事と言えば、経営チームの仕事な訳なので、必然的に経営チームに入る。だから新卒の面倒は経営チームがみるのだ。実際、今年入社した社員のOJTは私がしていた。現場のプログラマには教育の負担を免除するということにも、合理的に全てが繋がっている。

業務ハックに携わるプロの業務ハッカーたちのチーム

今年の大きな取り組みは「業務ハッカー」というコンセプトを世に出したことだ。業務ハッカーは、業務改善とシステム化を一緒にやってしまう仕事だ。私たちの会社では、それを「納品のない受託開発」の顧問プログラマとして取り組んできた。

これまでは、新規事業の立ち上げに必要なCTO(チーフテクノロジーオフィサー)の役割を担うことが多かったが、ここ数年で社内の業務システムの見直し、業務改善から関わることが増えてきた。そうした仕事に改めて名前を付けたのが「業務ハッカー」だ。

コンセプトを発表したのは今年の年末のことだが、実際に案件としては2014年から取り組んできたので、社内では多くの実績があり、そこに取り組む人も増えてきたこともあって、ようやくチームとすることが出来た。

業務ハッカーとして取り組むメンバーと、バーチャルCTOに取り組むメンバーのスキルや属性には違いがある。チームの文化も少し違っている。そこで、今回は別の会社として立ち上げた。あえてセクショナリズムを持ち込むことでリスペクトを保つことが狙いで、今の所うまくいっている。

適材適所の発見と創出が、多様性と可能性を拡げる

それ以外のチームとして、顧問プログラマをサポートすることを専門とするチーム、「まかない」と呼んでいるソニックガーデンの社内システム開発をするチーム、20代後半の若手で構成されたチームなども誕生した。

改めて言語化されることで光の当たる仕事がある。それまで脇役だと思っていた仕事が、主役の仕事になることもある。それまで見えていなかった仕事が見えるようになり、そこを天職だと思えるような人もいる。適材適所がハマることで、誰もが活躍し輝けるようになるのだ。それに気付けた。

人数が増えてくると、それぞれ好きなこと、得意なことの違いが顕著になってくる。採用の時点でかなりのすりあわせを行っているし、「プログラマ」というシンプルなキャリアしかないにも関わらず、それでも多様性が出てくる。それを切り捨てずに受け入れたことで、会社の可能性は広がったように思う。

工程を切って仕事を受け渡していくような分業は、ナレッジワーカーにとって生産性を阻害するものだと考えている。私たちの考える分業は、プロフェッショナル同士が得意分野でコラボレーションするものだ。「人月の神話」に出てくるスペシャリストで構成された外科手術のチームが理想だ。

会社の再発明、何のための組織か

これからの時代、組織よりも個人が力を持つようになるだろう。組織というものは過去の遺物になるかもしれない。しかし、そうなるまでにまだ時間はかかる。それまでの過渡期の組織はどういうものか。なんのために同じ組織で働くのだろうか。

一つは、得意なことに集中し、苦手なことは補うためだ。フリーランスになってしまえば、本業である仕事以外にも、営業やマーケティングもしなければいけない。もう一つは、何か怪我などで仕事が出来なくなった時などの助け合いをすることだ。

そうは言っても、リモートワークが前提になって、物理的に集まることが会社ではなくなったし、複業が当たり前になって、専属することだけが会社でもなくなった。物理的な意味合いは殆どない。それでも同じ会社の仲間とは。なんなのだろうか。

会社のことを船に例える経営者は多いが、猛烈なベンチャーでなく長く続けること自体を大切にする私たちにとっては、少し違う。一緒に働くことそのものに価値を感じている私たちは、あるときは街のメタファで考えたこともあるが、それも少し違う。

一緒に働くのは誰でも良いわけではない。価値観や信念、文化を共通とした人たちで、ぶつかりながらも成果を出していかなければ、ただの仲良し集団で終わってしまう。私たちは遠い同じ未来に向かって、同じ道を進む仲間だ。文化の継承者なのだ。これからも、私たちの信じる文化を広げていきたい。

倉貫 義人

株式会社ソニックガーデン代表取締役社長。経営を通じた自身の体験と思考をログとして残しています。「こんな経営もあるんだ」と、新たな視点を得てもらえるとうれしいです。

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