業務改善とシステム化を一緒にやってしまう「業務ハッカー」という新しい職業

業務改善とシステム化を一緒にやってしまう「業務ハッカー」という新しい職業

前々回の記事『理想の働き方改革より現場の業務改善を 〜 現実的で効果的な「業務ハック」のはじめ方』では、業務改善とシステム化を一緒にやってしまう「業務ハック」というコンセプトについて書いた。

そして、今週末には業務ハックの初の勉強会が開催される。おかげさまで好評なため、大阪でも開催することに。(業務ハック勉強会@東京業務ハック勉強会@大阪

今回の記事では、そんな「業務ハック」に取り組む職業「業務ハッカー」、すなわち業務改善とシステム化を一緒にやってしまう仕事について書いた。

業務改善とシステム化を兼業する「業務ハッカー」の土壌

「業務ハック」では、現行業務の分析と見える化を行い、ボトルネックを発見し、もっとも効果的な部分から小さく始めていくことを特徴としている。そして、なんでもかんでも作るのではなく、便利なツールやプラットフォームを駆使して、もっとも費用対効果の高いところだけをプログラミングする。

そして、そのサイクルを非常に高速に繰り返していくことで、改善の効果を指数的に高めていくことを特徴としている。肝となる部分は、この「繰り返し」だ。業務改善とシステム化を合わせて繰り返していくためには、その両者の分業をすることは、かえって効率が悪い。

これまでの業務改善といえば、業務改善コンサルタントがいて青写真を描いて、システム開発会社が開発する、という構図だったかもしれない。一度きりの業務改善なら、それでも良かったかもしれないが、繰り返すとなると無駄が多いのだ。

だから、業務ハックでは、同じ人が業務改善とシステム化をすることになる。それをする人こそが「業務ハッカー」だ。

クラウドなんてなかった時代には、業務改善を実現するシステムを作るためには、それなりの技術を持った専門家が必要で、それなりの人数を集めないと開発ができなかったかもしれない。その時は、分業する方が効率的だったのだろう。

しかし、今はクラウドの時代だ。物理的なサーバを用意する必要はないし、プラットフォームに乗っかれば開発する箇所も少なくて済むし、運用だって任せてしまえる。業務改善とシステム化を兼業できる土壌は整ったのだ。

「業務ハック」は誰がするのか?

スキルさえあれば、「業務ハック」は、業務に関わる全ての人が取り組むことが出来る。業務そのものは、仕事をしている限り、どこにでもあるし、改善の余地はどこの現場に行ってもあるだろう。そうした業務上の無駄を無くして生産性を高めるチャンスは誰にでもある。

事実、現場の中にいて、どうすればもっと効率化できるのか、ずっと考えて取り組んでいる人たちはいる。ただ、その業務改善そのものが仕事として認められれば良いが、目の前の仕事をこなした方が評価されるような組織では、改善のモチベーションが続かない。

業務改善でシステム化まで実現することが出来て、そこで同じ業務をしている人の数が多ければ多いほど、その効果はレバレッジが効く。一人当たりの改善できる時間は短くても、システム化さえされていれば、その人数が増えるほどに大きなインパクトになる。

だから、業務改善とシステム化をすることは、一見コストのように見えて、あとで劇的な効果を産む。それを片手間で、業務の隙間で、本人の善意でやらせるのは、会社としては悪手なのではないだろうか。専業の仕事としても良いのではないか。

そんな業務改善とシステム化を一緒にやってしまう仕事に、「業務ハック」という名前を付けることで、そして多くの人が、その名前を使うことで、世の中で認知されていけば「業務ハッカー」という職種も、企業の中で、市場の中で市民権を得ることができるのではないだろうか。そうしていきたい。

そうした社会を実現するためにも、日本中の企業で業務ハックする人を増やし、プロの業務ハッカーも社内の業務ハッカーも互いに仲間が出会えるようにするために、今後も勉強会なども開催していくつもりだ。

「業務ハッカー」に求められるスキルと経験

「業務ハッカー」の仕事は、業務を分析して見える化することと、使えるITツールの提案、本当に必要な部分のシステム化をすることになる。そして、繰り返し効率をあげるために一人で担当するため、それらに付随する仕事も多数ある。

そこで求められるスキルは、システムインテグレータで働くSE、もしくは社内SE、いわゆるシステムエンジニアの持つスキルに似ている。ただひたすらにプログラミング能力だけが必要というよりも、総合力が求められるのだ。

業務分析をするためには、現場の人たちの観察とヒアリングをしなければならない。ある程度のコミュニケーション能力が求められるし、状況を整理する力が必要だ。関係者の認識を揃えるためにも、この場面では、よく業務フロー図を書くことも多い。業務フロー図を書けることもスキルの一つだ。

現状を把握した上で、どこをどう改善していくか考えるのが次の仕事だ。そこではアイデアが必要だが、自分一人で出せない場合は周りからの意見を集める必要がある。ブレーンストーミングする際のファシリテーションが出来ると良いだろう。

システム化する際には、無駄なものは作らなくて済むよう既存のツールの知識が必要だ。その上で、ようやくプログラミングのスキルも必要となる。自分自身でプログラミングをするからこそ、ここまでの段取りが意味をもってくるのだ。

では一体、どれほどのプログラミングのスキルが必要となるのだろうか。その点は、クラウドのプラットフォームを活用することで、従来のシステム開発に比べて圧倒的に敷居を下げることが出来る。私たちソニックガーデンでは、サイボウズのkintoneを活用している。

「業務ハック」には”kintone”がうまく効く

kintoneは、ざっくり言ってしまえば、インターネットで使える業務用のデータベースだ。プログラミングをしなくても、ブラウザから自社の業務に適したデータベースを設計して使うことが出来る。もちろん出来ることは限られているが、それで十分なシステムも沢山ある。

それが「業務ハック」をする中で、非常に有効に働く。kintone自体が業務システムに向いたものだし、業務改善をしていく中で、どうしてもエクセルではなく、データとして管理をしたくなる場面は出てくるからだ。そして、ゼロから作る必要がないのも相性が良い。

かといって、すべてがプログラミングなしで解決する訳ではない。そうした時のために、kintoneでは一部をプログラミングすることで、本当に業務にフィットするものに仕上げることができる。プログラミングが出来ることで、さらなる業務改善を実現することが出来る。

しかも、始める敷居は低くても、その先には、やはりプログラミングの世界だから非常に奥は深い。腕を磨けば磨くほど、楽になるし、より理想的なソフトウェアを作ることが出来るようになる。成長できる楽しさもある。

特定のツールやプラットフォームに依存しないのが良いプログラマだが、楽になる使えるものがあれば使うというのも良いプログラマだ。2017年の今、kintoneは業務ハックにうまく効くのだから、使わない手はない。

プログラマを一生の仕事にするための「業務ハッカー」

ちょうど先日、サイボウズ社のイベント「kintone hack2017大阪」に、私たちソニックガーデンの業務ハッカーチームのメンバーが出場し、優勝させてもらうことが出来た。kintoneの世界に、凄腕プログラマが使う開発環境を持ち込むというテーマだった。(資料はこちら

地方に住みながら、下請けや派遣ではなく、お客様と直接やりとりして貢献しつつ、好きなプログラミングでものづくりも出来る。それが、彼の選んだ「業務ハッカー」という仕事だ。この仕事が成立する時代になってきたのだ。

プログラマを続けていくため、SIerをやめてウェブ企業で働くのも良いだろう。しかし、選択肢はそれだけではない。こうした「業務ハッカー」という働き方も、プログラマを続けながら、それまでの経験も活かして働くという道もある。

私たちソニックガーデンのビジョンの一つは「プログラマを一生の仕事にする」だ。そのためにも「業務ハッカー」という新しい職業で、楽しくプログラミングを続けていける人を増やしていきたい。だから、プロの業務ハッカーとして働きたい人のために、ソニックガーデンでは募集要項を追加することにした。

「納品のない受託開発」の新しい職種「業務ハッカー」の募集を開始しました

一緒に「業務ハッカー」という新しい働き方と仕事を広めていける人が来てくれると嬉しく思う。

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倉貫 義人

株式会社ソニックガーデン代表取締役社長。経営を通じた自身の体験と思考をログとして残しています。「こんな経営もあるんだ」と、新たな視点を得てもらえるとうれしいです。

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