問題解決ツールとして「相談」を使いこなそう

「ホウレンソウ(報告・連絡・相談)に代わるザッソウ(雑談・相談)」という本を出しましたが、改めて「相談」は強力なコミュニケーションツールだなと感じます。

職場に限らず人間関係のある場で起きうる問題の多くは、相談することで解決のとっかかりを得ることができますし、それだけでなく、相談で人間関係そのものが良好になることさえあります。

そんな問題解決のコミュニケーションツールとしての「相談」について考察します。

報告は過去のこと、相談は未来のこと

仕事では報告が大事と言われますが、報告や相談を受ける立場で考えると、どちらかといえば報告よりも相談の方がありがたいと思っています。

報告では既に起こったことや決まったことを伝えます。それは、とても大事なことですが、過去の出来事であるため、それを受けて次どうするかは考えられますが、起きてしまったことは基本的には覆すことはできません。

お客様にご迷惑をおかけするトラブルが起きてしまったような問題の報告や、何かしらのアワードを受賞したとか狙っていた案件が受注できたといった嬉しい報告など、そうした報告は受け入れれば良いだけです。

しかし、お客様にどのように対応したら良いか判断が難しい状況であったり、何かやりたいことがあるけれど今の仕事ではできないといった悩みがあったとして、そこで相談もなく何かして結果だけを報告されると何の援助もできません。

まだ自分に決定権のボールをもっている状態で相談されないと、決定に関われないので部外者と見做されているように感じてしまいます。もちろん、相談できる関係性を作ってこなかった側にも問題はあるのですが残念なことです。

相談しないで決める人を採用できるか

例えば、企業の採用において、こんなケースはどうでしょうか。応募者の方と面談を続けている中で、あるとき「会社を辞めてきました」と話をされたとします。このとき、まだ内定を出していないとしたら驚きますよね。

応募された方にとっては、背水の陣を敷いて本気を出すためだったのか、色々な思いがあったにせよ、会社を辞めることを一言の相談もなく決断された上で報告されたら、困ってしまうと思います。

会社側としては、採用の可否の判断を急がねばならなくなりますが、採用において判断を急ぐことは愚策です。しかも、採用のセオリーでいえば迷った時は断ることです。だったら、不採用とせざるを得なくなります。

こうなるのは急な判断だったからだけでなく、なによりも、その応募者の方は、この先に一緒に仕事をするとしても何かあったときに相談できずに決める人だと想像できてしまって不安になるからです。

もし一人で決めて報告する前に「現職を辞めようと思うのですが」と相談をされていたら、その理由から確認して、誰にとっても良いと思える案を一緒に考えることができたことでしょう。

組織で相談できる人は自立している

仕事をしていく上で周りに適切に相談ができる人だと、仕事を任せても大丈夫だろうなという安心感があります。お願いした内容が難しかったとしても、それで一人で困り続けるのではなく相談してくれれば対処できます。

これまで見てきた中でも、仕事ができるなと思った人たちは相談が上手だったように思います。正解のない仕事の場合は自分なりに考えつつ相談するし、知っていれば解決することは大袈裟にせずサッと相談します。

うまく相談できると成長も速くなります。相談するからには、相手からのアドバイスを聞こうという姿勢がありますし、ただ答えを求めて質問をするのではなく相談なので、自分なりの考えをぶつけることで思考力が高まります。

私たちソニックガーデンではセルフマネジメントを大事にしていますが、入社してからしばらくは、社内の誰に何を相談していいかわからないと困るため、特定の相談相手としてメンターが付きます。

そこから少しずつ社内で関係ができて、誰に何を相談していいかわかってくると、メンターがいなくても困ったときに適切に人を定めて相談にいけるようになります。そうなれば、組織内でもセルフマネジメントで自立した状態になるのです。

相談すれば「問題vs私たち」が作れる

相談される側としては、決断する前に相談してくれると助けたくなるのが人情です。困った問題があっても一緒に解決しようと思いますよね。しかし、決めてしまってから報告されると、もはや、とりつく島もない意見を拒絶する態度に映ります。

よく私たちは仕事をする上で「あなたvs私」ではなく「問題vs私たち」の構図を作りましょうと話しています。相手を打ち負かすような働きかけではなく、解決したい問題に一緒に取り組むような姿勢をつくるのです。

参考:「問題 vs 私たち」を実現する対話の技術

そのために相談が活用できます。相談をするのは、意見を聞きたい姿勢の表明です。相談された側としては、その決定プロセスに関わることができます。相談によって「問題vs私たち」の構図が作れるのです。

そうすると、めんどくさいことになりそうだと思うかもしれませんが、なにも相談したからといって、意見をすべて受け入れる必要はありません。最終的には自分で判断すれば良いのです。大事なことは結論ではなく、プロセスに巻き込むことです。

「提案よりも相談」で敵を作らず仲間を作る

私の前職時代の体験談ですが、それなりに大きな会社で新規事業を立ち上げたいと考えて動いていた頃の話です。当時は、まだ課長くらいの立場で、社内で新規事業を立ち上げる決裁の手順やルールなど何もわかっていませんでした。

まだ血気盛んだった私は、所属していた大手システム会社で従来のビジネスモデルを続けていては、会社としても未来はなく自分自身のキャリアも見えないため、新規事業に取り組むしかないと思い込んで、上司や役員に提案にいったのです。

しかし、いくら会社のためを考えた提案であっても、そう簡単には実現しません。今にして考えると提案とは、相手にYESかNOを求めているものだとわかります。よくわからない提案をされたら、まず上司はNOと言うでしょう。

しかも、若い社員から現状を否定するような知った風な提案をされるとカチンとくるはずです。そこで私は作戦を変えました。新規事業をやりたいのだけど、どうすればいいかわからずに困っていると相談することにしたのです。

教えを乞うように相談にいくと、風通しの良い会社だったことも幸いして、上司や役員たちは色々と相談に乗ってくれました。相談をしているうちに、親身になって応援してくれたり、仲間になってくれる人まで出てきました。

提案をしていたときは相手に向かって対峙していたのですが、相談をするようになってからは相手と一緒に問題解決していこうという姿勢に変わったのです。相談によって、敵はいなくなり仲間しかいない状況で私は新規事業を始めることができました。

「決断よりも相談」が問題解決の最初の手段

そうした経験から私は、提案ではなく相談することの大事さを学んだわけです。いきなり決めつけて報告するようなコミュニケーションの取り方をしても、誰も得をしないのです。

私の好きな「ヴィンランド・サガ」という有名な漫画で語られるのは、暴力は最後の手段で、いかに最後の手段をとらずに済むか、最初の手段は話すことだといったニュアンスのことが語られます。

相談のない決断は暴力に似ています。あらゆる問題の根本には、関わる人たちとの関係があります。自分以外の人が関係しない問題は存在していません。関わる人たちに相談することが最初の手段です。

相談に求められるものは理性です。感情的になってしまっては、話し合いにはなりません。話せばわかると思って人には接したいし、話せばわかる人だと思ってもらえるようにいたいものです。

倉貫 義人

株式会社ソニックガーデン代表取締役社長。経営を通じた自身の体験と思考をログとして残しています。「こんな経営もあるんだ」と、新たな視点を得てもらえるとうれしいです。

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