「ITエンジニア本大賞」のビジネス書部門で大賞を頂いたことは、私にとっての書籍『「納品」をなくせばうまくいく』を取り巻く活動の一つの区切りとなりました。
そこで、この記事では私が書籍を書いた理由と、出版したことでの個人的な気付きについてふりかえってみました。
目次
ブログを書き続けていたことが執筆のきっかけだった
日本実業出版社から連絡を最初に頂いたのは、2013年8月末のことでした。ご丁寧なメールを頂いたのを覚えています。私のブログも読んでいただいて、それもきっかけの一つだったようです。ブログ一生懸命に書いていて良かった。
当時の私は、実は書籍を書こうとしていて何社かと交渉しつつも結局は企画が通らずにいた頃でした。ボツになった企画の「はじめに」を公開していましたね。
そんな私にとって今回の話は渡りに船で、すぐにお会いして企画を作りました。そして1ヶ月かからずに企画が通り、執筆を開始することになりました。
私の本業は経営者なので、やはり実体験を元にしたものを書こうと「納品のない受託開発」にど真ん中から向き合うことにしました。
『「納品」をなくせばうまくいく』に土壇場で変更!
当初の企画は「納品のない受託開発」というタイトルでしたが、表紙デザインを決めるという最後の最後で、どうしてもタイトルの変更をしたくなってしまい、無理を言って変更してもらうことにしました。
『納品のない受託開発』は、インパクトはあってもキャッチーさに欠けるし、立派な印象と同時に堅い印象は拭えません。また私たちのサービス名と被っていることにも抵抗がありました。この本は何も宣伝のために書いた本ではないからです。
多くの方に「納品のない受託開発」というコンセプトを知って頂き、より多くの実践者と共に業界を変えていくために書いたのです。だからこそ、純粋に多くの方に読んで頂けるものにしたかったのです。
書籍のタイトルは一旦出してしまうともう変えることはできません。とても難しい判断でしたが、ソーシャルメディアの時代にあわせてシェアされやすいこと、少し強気な感じなこと、そして最後は一般人である家内の意見もあって決めました。
ついに出版、そして2週間で増刷、kindle版も順調
当初から今回の書籍は、私たちソニックガーデン3周年の記念としても出したいという思いもあり、その予定どおりに2014年6月に出版することができました。自分の書いた本が、書店に並ぶという経験は何度味わっても嬉しいものですね。
知人の方を中心に献本もさせて頂きました。口コミして欲しいという狙いもあるのですが、それだけで依頼されることが嬉しくないのは知っているので、そうではなく本当に読んでほしいと思える人たちだけに送ることにしました。
そして、読んで本当にいいと思ったら紹介して欲しいとお願いしました。何よりも読んでさえもらえれば、きっと伝わるという自信があったのです。結果として多くの皆様が沢山紹介をしてくださいました。本当にありがとうございました。
そのおかげもあって出版から2週間で早くも増刷がかかりました。初版が少なかったので、増刷といっても大したことはないのですが、すべて返品されて出版社に大迷惑をかけてしまうという恐怖があったので、増刷がかかったことは本当に嬉しかったです。
新人著者が受ける洗礼と、著者が自ら動くべきだと気付いた
それなりに多くの方に読んでいただけてよかったのですが、それでも前回の記事で書いた通りに、新人著者としては辛いこともありました。例えば、書店によっては、なぜか電子回路の棚に並べられたりもしたこともありました。
出版業界の問題点について理解したとしても、私は一介の著者で出来ることは限られています。しかし、そこで出版業界の愚痴を語っても、出版社に文句を言っても仕方ないと気付いたのです。いったい私はなんのために書籍を書いたのか考えました。
私が書籍を書いた理由は、私のミッションが「プログラマを憧れの職業にする」であり、ソニックガーデンのビジョンが「納品のない受託開発の市場を創る」であり、それらを実現するための一つの手段として、私は本を書いたのでした。
ブログだけでは届けられない人たちにも、より多くの方に読んでいただくことで、こんな新しいビジネスモデルがあって自分たちでもできるんじゃないかと感じてもらうことでした。私自身の変化を世界に広げたいというのが最初の動機でした。
そうならば、私の書籍を出してくれている出版社には、感謝こそすれ恨みなどなにもないのです。私のビジョンを実現するための支援をしてくれているのです。改めて感謝の意を表します。本当に、ありがとうございました。
そして、そう気付いてからは、もっと著者である私自身が動くべきだと考えるように変わりました。
全国10ヶ所以上での勉強会に海外発表、そして対談
そこから、私は全国行脚に出ることになります。書籍を読んでくれた日本中の方々が、書籍の勉強会を開催してくれるというので、それらの勉強会にできる限り参加させてもらうために、沖縄から北海道まで飛び回る日々が始まったのです。
様々な地域で熱い思いをした読者の方々との交流は、本当に楽しいものでした。どの地域でも著者自身が勉強会に参加するということで、とても喜んで下さって歓待して頂いたのですが、むしろ何より私自身がエネルギーをもらった感じでした。
書籍という媒体がどのような形になろうとも、著者と読者が直接つながること以上のフィードバックはないですね。応援してくださる皆さん、本当にありがとうございました。また皆さんに会いに行きたいです。
書籍をきっかけにした出会いから香港での論文発表をすることになったり、書籍が話題になることで様々な方々と対談させていただくチャンスも頂きました。サイボウズの青野社長、はてなの栗栖社長との対談は特に楽しく、その対談記事自体も多くの方に読んで頂けました。
- 国際会議にて「納品のない受託開発」の論文を発表してきました
- ソニックガーデン倉貫義人×はてな栗栖義臣が、『社長の苦悩とエンジニアの採用』を語る
- ソニックガーデン倉貫義人×はてな栗栖義臣対談──シンプルすぎる『会社が上手くいく』秘訣
- 幸福なシステム開発は実現できるか?――ソニックカーデン倉貫義人とサイボウズ青野慶久が考えた
- 日本のサラリーマンは「35歳定年」でいい――倉貫義人×青野慶久、プログラマーを再定義する
私にとって書籍を書くことはビジョンを伝える手段
今回の書籍を書いたことで、私の考えが世に出ることになりました。以前に共著で書いた技術書の場合は、既にある技術を解説し紹介すればよかったのですが、今回の本は違います。100%が私の経験と考えから出たものになります。
そうなると、作品への批判などは全て私自身に対するものになります。とても恐ろしいことですが、実際に出してみると、もちろん批判が無い訳ではないですが、それ以上に共感と応援が得られたのです。作品作りの醍醐味を知ってしまいました。
ただ、それでも私にとって書籍を書いて読者に届けること自体は目的ではありません。私には成し遂げたいビジョンがあり、その実現のために仲間と共に会社を経営しています。書籍は、そのビジョンを伝えるための一つの手段だったのです。
そして、私のビジョンは今回の『「納品」をなくせばうまくいく』だけでは伝えきれていないと思っています。だから、恐れることなく次の本も書こうと思うのです。