管理をなくせばなくすほど生産性が高まる新しい組織の形「ホラクラシー」その背景とメリット

管理をなくせばなくすほど生産性が高まる新しい組織の形「ホラクラシー」その背景とメリット

私たちソニックガーデンのマネジメントを説明するとき、セルフマネジメントでフラットな組織、メンバーそれぞれが自己判断して仕事を進める組織、と話していますが、最近ではそんな組織のあり方を「ホラクラシー」と呼ぶそうです。

この記事では、その「ホラクラシー」と呼ばれる新しい組織の形について、そしてそこに辿りついた私たちが考えているメリットについて考えてみました。

新しい組織の形「ホラクラシー」とは何か

「ホラクラシー」とは、ヒエラルキーの反対を表わす造語で、組織をトップダウンの階層構造で管理するのではなく、メンバー個々人に意思決定が委ねられてフラットな構造を保つような組織のあり方を指します。

Airbnb、Zappos、MediumといったアメリカのIT企業やスタートアップで実践されているマネジメント手法として注目されています。日本では、ヌーラボがホラクラシーを実践しているという記事もありました。

組織の階級を廃止し、いかにスタッフの内的モチベーションを湧き上がらせるか。「ホラクラシー」という組織マネジメント法

ホラクラシーの組織には、部署はなく上司や部下といった関係もありません。仕事に応じたチームがあり、それぞれのチームに役割をもって参加して、自分たちで決めたゴールに向けて働きます。管理職が不要の組織です。

従来のヒエラルキーで管理する組織よりも、一見すると非常に複雑な組織になります。指示命令がないため、各自が自分自身で考えて行動するセルフマネジメントの人材であることが求められるでしょう。

私たちソニックガーデンでは、これまで「管理のない会社経営」ということで、セルフマネジメントできる人材を集め、自律的に行動できるよう育成し、そうした人材が最大限に働きやすくなるような環境づくりを目指してきました。

「ホラクラシー」という言葉を知る前からやってきた私たちとしては、とりたてて特別なことをしている感覚はなかったのですが、「ホラクラシー」について知れば知るほど、これは私たちがやっていることに非常に近いと感じました。

クリエイティブな仕事は管理しない方が生産的になる

私は以前、3000人ほどのそれなりの人数のシステム開発の会社で管理職として働いていたことがあります。その規模になると会社には多くのルールがあり、そのルールを守らせることも管理職としての仕事の一つでした。

管理する対象は、ソフトウェア開発をするエンジニアたち。彼らの仕事は、新しい価値を作り出すクリエイティブな仕事であり、頭の中で考えることが仕事です。どこでだって出来る仕事をオフィスに縛りつけたりするのです。

人数が多いから仕方がないとはいえ性悪説を前提としたルールで管理をすればするほど生産性は落ちていきます。ルールで縛れば縛るほど自分たちで考えることを放棄するようになるのです。それは非常に残念なことでした。

そこで、今の会社の前身である社内ベンチャーを始めたとき、私はなるべく管理をなくせないかと考えました。そして、実際にやってみて管理を減らしていけばいくほど、チーム全体の生産性は高まっていったのです。

もちろんお互いに信頼関係のあるメンバーだったこともあり、小さなチームだったこともありますが、管理などしなくても誰もがきちんと働くし、それまで以上に責任感を持って取り組むし、個々の主体性も増しました。

頭は使わず手を動かせば済むような仕事であれば、もしかすると管理をしないと働かないようなことが起きるのかもしれませんが、そういった仕事は早晩ロボットやコンピュータに置き換えられてしまうことでしょう。

私たちが取り組んでいるような自分の頭で考えて、創意工夫の余地があるような仕事は、働く人のモチベーションで大きく生産性が変わります。そうしたとき、管理で縛るより自由に働く方が高い生産性を発揮するのです。

承認をなくして意思決定を分散すれば効率がよくなる

私たちソニックガーデンの「納品のない受託開発」での仕事は、ソフトウェア技術を駆使してお客様の問題解決をすることだと考えています。問題解決をする部分はコンサルティングの仕事とも言えます。

問題解決の仕事の特徴は、再現性がないことです。どのお客様でも、どの文脈でも、まったく同じ状況というのはありえないので、その都度ごとに担当するプログラマが一生懸命に考えるしか解決できません。

そういった仕事の場合、たとえ上司がいたとしても、現場で働く部下の方が詳しくわかっているという状況になります。問題解決の仕事の場合は、指示命令をして仕事をさせることなど出来ないのです。

コマンドコントロール型のマネジメントでは、上司やマネージャがボトルネックになりかねません。現場の担当者に任せて判断させる方が生産性が高くなります。

「許可を求めるな、謝罪せよ」という有名な言葉がありますが、それは承認を得ようとすると責任の所在が上司に移ってしまうため、何もできなくなってしまうことを回避するために、やってしまってから謝る方がいいよ、という話です。

そうしたカルチャーの会社では、社員はのびのびと仕事が出来て、新しい価値が生み出される可能性が高まります。だったら、いっそのこと、そもそも承認が必要な上司をなくして、謝罪などしなくても良い組織にしてしまえばいいのです。

指示命令もなく、管理されることもない中で、個々人が判断して仕事を進められるようにするためには、会社における価値観をしっかりと共有しておく必要があります。何を大事にするのかが共有されていれば、チームとして成立します。

テクノロジーを徹底活用すれば管理の無駄をなくせる

伝統的なヒエラルキーの組織では、会社のビジョンや価値観、方向性についてはトップダウンで降りてきます。そうした上意下達を徹底させることも、ヒエラルキーにおける中間管理職の仕事の一つでもあります。

しかし、そうしたところにヒエラルキーで管理することの無駄を感じます。会社のビジョンを伝えるのに、伝言ゲームでしか伝えることが出来ないのは、そうした手段しかない時代だったからではないでしょうか。

今は間に人を介さなくても多くの人に情報を伝える手段はいくらでもあります。たとえば、このブログを書くことも一つの手段です。私が経営をしてきた上での考察をまとめていますが、社員のみんなに読んでもらうことで私の考えを共有できます。

私の場合は、会社を超えて多くの人に私たちの考えを知ってもらうことで、文化を広げていきたいという思いがあるので公のブログにまとめていますが、社内に向けて共有することも目的にしています。

また、最近の私たちの会社では、日報ならぬ「日記」がブームになっています。セルフマネジメントで仕事をするので、誰かが会社全体の状況を把握するということはない代わりに、各自が自分の状況を発信することで、お互いの状況を把握します。

他にも、「社長ラジオ」という取り組みで、毎朝5分間だけ私が録音した音声メッセージを社員たちに配信することもやっています。会社のビジョンや価値観などを伝言ゲームにすることなく、直接伝えることができるのです。

ITリテラシーが求められますが、テクノロジーを活用することでこれまでヒエラルキーの伝言ゲームでしか伝えられなかったことを解消することができるのです。

働き方の多様化を認めれば優秀な人材が集まってくる

セルフマネジメントで仕事をすること、テクノロジーを活用すること、この2つを揃えることができれば、働きかたは非常に柔軟なものに変えていくことができます。たとえば、場所や時間に縛られないリモートワークです。

ホラクラシーの組織とリモートワークは非常に相性が良いです。伝統的なヒエラルキーの管理体制のままリモートワークを実現しようとすると、本当に働いているのかどうか監視をすることを考え出したりして、コストがかかり過ぎてしまいます。

セルフマネジメントを前提とすることでリモートワーカーを管理することについて問題が起きることはありません。その上で私たちは「Remotty」のようなツールを使うことで、社内のコミュニケーションも問題なくできるようにしています。

リモートワークのような働きかたを認めることで、場所に縛られずに人材の採用をすることができます。自分の人生の都合にあわせた働きかたができることで、働きたいけど諦めていたような人を救うこともできます。

ホラクラシーには管理職もなく上司部下もなく部署すらありません。やるべきゴールは自ら設定し、チームを組んで役割分担をし、自律的に成果を出すことを目指します。そうした状況にやりがいを感じる人もいれば、恐怖を感じる人もいるでしょう。

そこで恐怖を感じる人はやはりヒエラルキーの組織で働くことが向いているのかもしれませんが、自らモチベートして主体的に仕事に向かえるような人からすると、ホラクラシーでは自分が面白いと思えるフィールドを自分で作リ出すことができます。

ホラクラシーにはトップダウンやボトムアップという考えはありません。自分たちの会社を良くするのは自分たちなのです。それはまるで誰もが経営に関与できるようなものです。それを望むような人と一緒に働くことができるのです。

ただし「ホラクラシー」を目指すことはオススメしない

ホラクラシー組織を成長させていくためのキモは、やはり人材の採用と育成にあります。甘い基準で人を入れてから、その人たちをどう働かせるかの管理にコストをかける位ならば、そのコストを採用と育成に先行投資する方が合理的だと考えています。

勘違いしてはいけないのは、ヒエラルキーの組織に比べてホラクラシーの方がコストがかからないとか、理想的だとかそういうことではありません。ホラクラシーならではの苦労もあるし、ヒエラルキーとは違う形でコストもかかります。どのベクトルを選ぶか、ということです。

私たちが相当に採用と育成に時間とコストをかけていることについては、以下の記事に詳しく載っています。

今後、ホラクラシーを目指そうという企業が増えてくるかもしれませんが、盲目的に「ホラクラシー」を目標にしてしまうと、おそらく失敗するでしょう。表面だけを真似しても、本質を捉えていないとうまくいかないのは「アジャイル」と同じです。

私たちの会社で正しいホラクラシーができているかどうかはわからないし、正直に言えば、そんなことはどうでも良いことなのです。私たちには私たちの考える理想の組織のビジョンがあり、それに向かって経営をしてきた結果が今の姿だからです。

「ホラクラシー」というのは外部から見たカテゴライズの結果、分析に過ぎないと考えた方が良いでしょう。ホラクラシーを目指すようになると、そこで思考停止になり進化は止まってしまいます。目指すのはもっと先の姿でなければうまくいきません。

本当にホラクラシーでありたいと考えるのならば、それを宣言するのは経営者自身であり、経営者自身が自分の権力を放棄することから始まります。その覚悟がなければ、組織の変革に踏み出すことなど出来ません。

経営者にその覚悟があるのかどうか、きっとホラクラシーを妨げる最も大きな要因はそこにあります。

倉貫 義人

株式会社ソニックガーデン代表取締役社長。経営を通じた自身の体験と思考をログとして残しています。「こんな経営もあるんだ」と、新たな視点を得てもらえるとうれしいです。

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