テレビ東京のワールドビジネスサテライトで取り上げられるなど、このところ話題になることの多い「リーンスタートアップ」について、提唱者であるエリック・リース自身によって書かれた本の翻訳版が出版されました。

リーンスタートアップとは、起業家であるエリック・リースの失敗と成功の経験をもとに、製造業におけるリーン生産方式の概念を応用して説明した、これまでにない新しい「スタートアップの手法」のことです。

リーンスタートアップそのものについては、以前に私もブログで紹介しましたので、そちらも参照ください。

リーンスタートアップとは

世の中のスタートアップの殆どが失敗しているけれど、実は成功の確率を高めるにはやり方があって、そのやり方としてまとめたものが「リーンスタートアップ」だと本書では言っています。

そのやり方は、必要最小限の機能だけでリリースをすることや、サイクルタイムを極端に短くしていくこと、ユーザや顧客の反応を実験してフィードバックをうけ、意思決定を科学的に判断するというようなことが特徴的です。

この方法は、新規事業を成功させるためには、事前に綿密な事業計画を立てて、大きな投資や予算を獲得し、優秀な人を集めて、素晴らしい製品を作り上げるべきだ、と考えている人からすると、ありえないと思えるかもしれません。

しかし、ありえないことを起こすことがイノベーションであるならば、従来の方法では生みだすことは出来ません。これまでにないやり方が必要なのです。

だからといって「Just do it!」の精神で、あたかもギャンブルのようにスタートアップに取り組めば良いかというと、それではうまくいきません。

そのスタートアップにかける情熱やエネルギーを無駄遣いすることなく、成功させるためには従来とは違うマネジメントの方法が必要になります。それがリーンスタートアップです。

以下のリーンスタートアップの5つの原則を本書を読むことで身につけることができます。

1.アントレプレナーはあらゆるところにいる
2.起業とはマネジメントである
3.検証による学び
4.構築ー計測ー学習
5.革新会計(イノベーションアカウンティング)

わたしのリーンスタートアップの起源

私も自分で起業してスタートアップを立ち上げている一人なので、リーンスタートアップに書かれていることはとてもしっくりきました。私もエリックと同じでアジャイル開発に取り組んだ後、そこでの経験を元に起業したという経歴をもっているので、彼が経験した成功と失敗について、とても共感しました。

私が大企業に所属していた頃に社内ベンチャーを立ち上げたことが、今の「株式会社ソニックガーデン」の前身になっています。社内ベンチャーを立ち上げたきっかけも、新規事業をしたいという情熱が最初でした。

当時をふりかえってみると、大企業の中で新規事業をしようとすると、最初に事業計画書をつくる必要があります。そこまでは会社として当然ですが、そこから予算をとったり、事業をすること自体の承認を得たりと、様々な関係部署や役員などとの調整が入ります。

多くの関係者のアドバイスやおせっかいの結果として、当初考えているよりも大きな成果を求める計画が出来上がり、短期間でそれを実現するために、最初から大きく賭けないといけなくなってしまいます。当然リスクを排除した中身もつまらないものになります。

しかし新規事業は未開拓の領域に進むことなのに、最初から計画を決めきって大きく進めていくようなやり方は向いてなかったのです。そこで、社内ベンチャー2年目以降は与えられた予算を殆ど使うことなく、小さく少しずつ検証しながら進めていくやり方に切り替えました。

その結果として、大きな予算を使って進めようとするよりも、小さく検証を繰り返しながら進めていく方が、事業としては成功することが出来、会社として独立することができるようになりました。

無駄をなくして、検証から学ぶことのできるチームを作ることができれば、大きな組織では出来なかったことを実現することが出来るのです。

「リーンスタートアップ」という本の価値

この本を読んで、当たり前のことが書いてあると思った人もいるかもしれません。私もそれに近くて、リーンスタートアップそのものを知る前からやっていたことを、リーンスタートアップを知る人に説明したら「それはリーンスタートアップですね」と言ってもらえたからです。

そういう人にとっては当たり前のことしか書いてないかもしれないけれど、スタートアップに関して、こうした経験を元に分析された上で総合的にまとまって理論として書かれた本は他にあまり知りません。

この本が広まって、多くの人に読まれることで、読者同士の共通言語が出来ることが大事なんだろうと思います。

特にエンジニアは、経営(マネジメント)に関することにあまり興味をもっていない人が多い。にも関わらず、このリーンスタートアップというビジネス書は、エンジニアも興味をもっている人が多いです。

アジャイル界隈でのキーワードである「リーン」という言葉を入れてきたエリックリースのうまさはありますが、これまで読むことも意識することもなかったであろうエンジニア層にリーチできたのは素晴らしいことです。

このビジネス書を読んだ同士であれば、経営者でもマーケッターでもエンジニアでも、共通言語をもつことができて、同じ言葉で議論をすることが出来ます。それってすごいことだし、そうして議論できるチームというだけで、スタートアップとして成功する確率が高そうに思えます。

ちょっと読んで知った風に振る舞うのではなく、一度、謙虚にじっくり読んでみると良いと思います。(たしかにちょっと文章は冗長だと思いますけどね。)

読書メモ

ここでは本書を読んで気になった部分をメモしておきます。

p69.「リーンな考え方における価値とは顧客にとってのメリットを提供するものを指し、それ以外はすべて無駄だと考える。」

顧客とってのメリットとなること以外は無駄だと言ってます。とてもシンプルで、かつ明確な判断基準になります。どれだけアジャイルだなんだと言って沢山つくったとして、それが最終的に顧客にとってのメリットにならなければ、すべて無駄なことなのです。

p79.「問うべきなのは「この製品は作るべきか」であり「このような製品やサービスを中心に持続可能な事業が構築できるか」である。」

スタートアップは実験だと考えるべきで、できるかどうかではなく、すべきかどうかを先に考えなければいけないし、それが正しく答えられるためには実験をする必要があるのです。実験を行って「検証からの学び」ができるチームでなければいけません。

p148.「作るのにどれだけの時間がかかったかなど、顧客は気にしない。顧客が気にするのは、自分にとっていいか悪いかである。」

これも開発者だと勘違いしてしまうところです。作るのに時間をかけたものは価値があると思いたくなる気持ちもわかりますが、時間は価値にならないのです。そうであれば、最小限の時間で最大限の効果を出せるように無駄をなくす意識をもつべきですね。

p.150.(MVPを作るときのシンプルなルール)「求める学びに直接貢献しない機能やプロセス、労力はすべて取り除く」

MVPは思っているよりも小さくていいし、立派でなくても良いんです。人が動いても良いし、あるものを使っても良いんです。大事なことは顧客に提供して「検証からの学び」を受け取れるかどうか、なのです。

このように、作るべきモノの開発よりも、顧客そのものを中心に考えることがリーンスタートアップの基本にあります。その辺りはアントレプレナーの教科書という本に出てくる「顧客開発」の考えかたに近いです。

それもそのはず、アントレプレナーの教科書を書いたスティーブブランクは、リーンスタートアップの著者であるエリックリースのメンターだったからですね。

目次

  • はじめに
  • 第1部 ビジョン
  • 第1章 スタート
  • 第2章 定義
  • 第3章 学び
  • 第4章 実験
  • 第2部 舵取り
  • 第5章 始動
  • 第6章 構築・検証
  • 第7章 計測
  • 第8章 方向転換(あるいは辛抱)
  • 第3部 スピードアップ
  • 第9章 バッチサイズ
  • 第10章 成長
  • 第11章 順応
  • 第12章 イノベーション
  • 第13章 エピローグー無駄にするな
  • 第14章 活動に参加しよう