「働きがい」と「働きやすさ」の違いと両立

「働きがい」と「働きやすさ」の違いと両立

先日ソニックガーデンが、「働きがいのある会社」ランキングで5位に入選しましたが、今度は、第3回ホワイト企業アワードにてイクボス部門を受賞しました。「働きがい」に続いて「働きやすさ」という面でも、対外的に認めて頂けたこと、素直に嬉しく思っています。

経営者である私自身が、私たちソニックガーデンの経営スタイルや、働き方について、このブログなどを通じて発信はしているものの、あくまでそれは自分で言っているだけともなってしまうので、きちんと第三者からも評価されて安心しました。

良い機会として本稿では、「働きがい」と「働きやすさ」について改めて考察してみました。

「働きがい」と「働きやすさ」の4象限

「働きがい」と「働きやすさ」は似ているようで違う。「働きがい」とは、仕事を通じてのやりがいを感じることだ。一方、「働きやすさ」とは、仕事をしていく上での環境や制度に関することだ。

それぞれ、別の軸として考えることができる。必ずしも、働きがいがあることと、働きやすさは連動はしない。「働きがい」の軸と「働きやすさ」の軸があり、それらが交差して4つの象限に分かれる。

たとえばベンチャー企業なんかだと、圧倒的な成長の機会が得られて、とても「働きがい」があると感じられる。しかし、人数が少ない中での急成長が求められる企業だと、「働きやすさ」はそこまで重視しきれないケースも多いだろう。

一方で、大企業は「働きやすさ」はとても高い。上場企業だと特にコンプライアンスや人権を重視した制度設計がなされている。ただし、役割分担が強すぎると、自分の仕事が社会にどう役立っているのかわからず、「働きがい」が感じられなくなる。

いずれもステレオタイプなイメージであって、必ずしもそうとは言えないとは思うが、傾向としてはあるだろう。また、もしかしたら「働きがい」も「働きやすさ」もない職場もあるかもしれない。それは早々に職を変えた方が良い。

私は、上場企業で15年も働いたこともあるし、社内ベンチャーを立ち上げ、それを買い取る形ではあるが起業をした経験もある。だから、それぞれの良いところ、よくないところを知っているつもりだ。

その経験から、ベンチャー企業のような、事業を自分ごとで考えられる人たちが集まって活気のある環境と、きちんと家族や自分の時間を持ちつつ経済的にも安心した中で働ける環境、その良いところを両立した会社が理想だと考えている。

では、その両立のために必要なものは何か。大企業でもなく、ベンチャーでもなく、莫大な利益をあげている訳でもなく、あまつさえオフィスすらないような会社で、「働きがい」と「働きやすさ」はどう両立できるのだろうか。

立派なオフィスだけが「働きやすさ」ではない

以前に、1週間ほどアメリカの西海岸に行って、いくつかの企業を見学する機会があった。主にIT系の企業を中心に回って、そこでの最近の取り組みや企業としての経営方針について話を聞いてきた。どの企業にも共通していたのは「社員の働きやすさや働きがいを大事にする」と謳っていたことだ。

そうした企業のオフィスに見学に行くと、広々としたエントランスにワークスペース、そしてビリヤード台、無料で食べられる食堂、お酒の飲めるバーがある。そんな立派なオフィスは、わかりやすいけれど、果たして本当に「働きやすさ」を感じるのだろうか。

誰もが同じアウトプットを期待されるルーチンワークであっても、外発的な環境要因よりも人間関係などが、生産性には重要だと何十年も前にホーソン実験で証明されている。つまり、そういったファシリティは本質ではないはずだ。

まして、現代の企業で求められる仕事は、企画やデザインやプログラミングといったクリエイティブな仕事だ。クリエイティブな仕事をする人たちにとって、本質的な「働きやすさ」とは一体何か、興味深い記事がある。

「長時間働くな、良く眠れ、そして旅に出よ」お金を出して社員に旅行させる理由、CEOが明かす

Basecampというツールを提供するソフトウェア企業ベースキャンプ社CEOのインタビュー。ベースキャンプ社は、Ruby on Railsを生み出したDHHの所属する会社であったり、『REWORK(邦題:小さなチーム、大きな仕事)』などの本で有名だ。

私がアメリカ西海岸の企業の立派すぎるオフィスを回って得た違和感を、以下のように表現してくれている。

「無料のクリーニングや、食事が素晴らしいことであるように言われています。だけどそこには『オフィスを出るな。必要なものはすべてここにある』というメッセージが込められています。私には、ちっとも素晴らしいとは思えません」とフライド氏は語る。

経済的な報酬や評価だけが「働きがい」ではない

「働きがい」は、「働きやすさ」よりも難しい。「働きやすさ」は会社が制度や設備などで提供することで、ある程度はコントロールできるが、「働きがい」はお金をかけたからといって手に入るものではない。そこで働く個人がどう思うか、だけが指標になる。

Great Place to Work®のサイトから引用すると、「働きがい」の定義はこう書いてある。

従業員からみた「働きがいのある会社」の定義:従業員が会社や経営者、管理者を信頼し、自分の仕事に誇りを持ち、一緒に働いている人たちと連帯感を持てる会社

マネジメント(会社)からみた「働きがいのある会社」の定義:「信頼」に満ちた環境で、ひとつのチームや家族のように働きながら、個人の能力を最大に発揮して、組織目標を達成できる職場

「信頼」や「誇り」、「連帯感」などがキーワードだろうか。私たちのようなフラットな組織において、少し違和感を感じるのは、経営者と従業員を明確に分離して考えている点だった。働きがいなんて、誰かに与えてもらうものではないはずだ。

私たちが取り組んでいるセルフマネジメントのポイントは、外発的動機でコントロールしないことだ。権力や情報格差、評価や報酬などといったものを使って、人をコントロールしても本人が楽しくなければ良い仕事はできない。

「働きがい」を感じる要素は、個々人によって違う。他の人より評価されて、たくさんの報酬を得られることに「甲斐」を感じる人もいれば、技術的にできなかったことが出来るようになって「甲斐」を感じる人もいるし、お客様の喜ぶ顔に「甲斐」を感じる人もいるだろう。

だから、「働きがい」を一律でコントロールしようとすると、おそらく「働きがい」のない職場になってしまう。少し逆説的だが、個々人が自分から「働きがい」を感じるように、自由に働けるようにすることが、大事なのではないだろうか。

「働きがい」や「働きやすさ」を生み出すものは自由と自立

「働きがい」を得るためには、自分の意思で仕事に取り組むことに他ならないのではないか。そのために、あらゆる選択の自由、自由にできる余地の大きさが、会社にあると良い。

働く場所や、働く時間を自由にすること。リモートワークであったり、裁量労働が出来る環境と制度を整備して、それを良しとするカルチャーがあること。そうすれば、働く場所と時間を自分の意思で決めることが出来る。

今回はイクボスという賞を頂いたが、それは単に仕事中にちょっと抜けて、子供の授業参観や家庭訪問に対応したり、熱がでた子供に付添いながら仕事ができたり、子供の送り迎えなどしたり、そういったことが評価された。それらは、場所と時間に自由があるから出来たことだ。なにも育児に特化した話ではないのだ。

私たちの場合、セルフマネジメントを追求することで、さらに大きな裁量がある。顧客に対してどのようなサービスを提供するか、空いた時間にどんな仕事をするのか、仕事の進め方だけでなく、仕事の中身そのものに対する裁量もあり、自分の意思で考えるて決めることが出来る。

さらには評価を無くして、ほぼ一律の年俸制とすることで、昇進や評価というものにも縛られずにいられる。お金のため、という制約からも思考が自由になれば、チャレンジをするもしないも、自分の選択となる。

自由と自立の幅を広げていくこと、そうしても会社として成立する仕組みを作っていくことが、私たちソニックガーデンの経営で取り組んできたことだ。それが、セルフマネジメントやフラットな組織に繋がって、結果として「働きがい」や「働きやすさ」が得られたように思う。

「働きがい」や「働きやすさ」と経営

何事も自分で決めることで、自分にとっての「働きがい」を最大化することができる。なんでも決めて良い、自由と言われても、きっと誰もが最初は戸惑うだろう。そう、自由とは大変で難しいものだ。だからこそ、生きがいや働きがいを感じることができる。もちろん、その自立をサポートするのも経営の仕事だ。

だからと言って、「働きがい」や「働きやすさ」を最大化することだけを考えて、会社を経営してもうまくはいかないように思う。会社は、社会やお客さまに対して価値を生み出すことで、存在しうるものだからだ。それに、きちんと価値を生み出していると感じられることが、結局は「働きがい」には繋がってくるだろう。

どういった会社でありたいのか、それを表明して共感する人を集め、その先は自由な意思で働けるようにして、自立していけることをサポートしていく。そんな経営を続けていければ、と思っている。

* * *

今回、2つの賞にて評価を頂けて、大変光栄に思っています。さらに「働きがい」や「働きやすさ」を、結果的に感じられるような会社にしていくためにも、よりもっと自由な発想で経営をしていきたいと思います。そのために、それらを指標にしないで考えていくと良さそうなので、こうした賞へのエントリーは今回をもって終わりにしようと考えています。

倉貫 義人

株式会社ソニックガーデン代表取締役社長。経営を通じた自身の体験と思考をログとして残しています。「こんな経営もあるんだ」と、新たな視点を得てもらえるとうれしいです。

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