昨年は『「納品」をなくせばうまくいく』でビジネス書部門で大賞をいただいた翔泳社さん主催の「ITエンジニアに読んでほしい!技術書・ビジネス書 大賞(ITエンジニア本大賞)」が、2016年の今年も開催されました。
結果 → 公式ページ「2016 大賞の発表!」
今回、私はゲスト審査員ということで票ではなく、審査員特別賞を1冊選ぶ権利を頂いたので、デブサミで行われたプレゼン大会に参加してきました。審査員としてプレゼン大会に登壇される6冊はすべて読んだので、受賞作を含めて紹介します。
目次
技術書部門、大賞は「プログラマ脳を鍛える数学パズル」
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今回の技術書部門での大賞は、こちらの「プログラマ脳を鍛える数学パズル」でした。おめでとうございます。
パズル的な問題をプログラムを作って解くという、数学的な発想だったり、アルゴリズムを考えたりするような頭の体操になるような問題を集めた一冊。プログラミングが好きで、パズルを解くのが好きな人ならハマりそうな本です。
プレゼンも良かった。CodeIQでの問題をまとめたものだけれど、その問題をコツコツと作り続け、提出される回答のソースコードのすべてに目を通して、コメントをし続けたという話は壮絶でしたね。その努力に投票した聴衆もいたでしょう。
ゲスト審査員のジュンク堂書店の長田絵理子さんによる特別賞を獲得されました。おめでとうございます。
本書は、ネットワークの基本を抑えつつ、その応用としての実践例をツールの紹介をしています。前半部分にあたるネットワーク技術をざっと俯瞰して一通り説明している部分は、長く使える知識になりそうで基礎を学びたい人にも良さそうです。
プレゼンで仰ってましたが、タイトルは著者の意向ではないらしいですが、売れる本に必要なキャッチーさはありますね。
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ネットワークやインフラの技術者ならば、読んでおいて損はないでしょう。物理設計から始まって、論理設計、冗長化やセキュリテイ、管理運用のことまで考慮して、一気通貫に学ぶことのできる本です。
クラウドコンピューティング全盛の今となっては、物理的なネットワークの構築に関わる機会は減っているでしょうが、論理設計以降の部分については今でもアーキテクチャを考える際の背景の知識として持っていることは有用でしょう。
プレゼンで仰っていた「世の中の気持ち悪いネットワークをなくしたい」という思い、その思いで本を書いたという部分にはとても共感しました。私たちで言えば、「世の中からダメなコードはなくしたい」と思っていますからね。
ビジネス書部門、大賞は「人工知能は人間を超えるか」
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ビジネス書部門での大賞は、こちらの「人工知能は人間を超えるか」でした。おめでとうございます。
すでに10刷4万部近く売れていて、さらにすごいのは、電子書籍の方が現物の本よりも売れているということです。このことは、日本の出版業界にとって大きなインパクトになりそうです。題材も電子書籍を読む層と相性が良かったのでしょう。
内容は、最近話題になっているディープラーニングをはじめ人工知能に関する事柄を、難しい技術的な説明をするのではなく、どちらかといえば平易な言葉で分かりやすく説明してくれています。人工知能の世界を覗き見るのに最適な一冊です。
著者の方の思いとして、これまでブームになっては消えた人工知能に関する関心を、今度こそ閉ざすことなく続いていくように、夢の技術として扱うのではなく、非常に現実的な視点で、できることと出来ないことがハッキリと書かれています。その辺りも、この本が人気になっている理由でしょう。
書籍のカバーには、アニメ「イヴの時間」に登場する女性アンドロイドの画像を採用しており、それでジャケ買いする人も多いそうですが、それはそれで商業出版としては非常にうまくプロデュースされたということで、それも素晴らしいですね。
私は、本書を読んで、人工知能を通じて人間とは何か、人間だから出来る仕事は何か、を改めて考える機会になりました。組織マネジメントをする立場の人が読んでも示唆を受けると思います。
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こちらは、2015年の技術書部門で大賞をとられた『GitHub実践入門』の著者の大塚弘記さんによる審査員特別賞を受賞されました。おめでとうございます。
グーグルの人事制度をもとに、人事のトップによって書かれた本ですが、非常に読み応えがあります。そして、Googleという会社が、なぜ社員の働き方を大事にするのか、そこには合理的な理由があったのだとわかります。
一般的に、社員を大事にする会社は良い会社と思われますし、実際にそうだと思いますが、そこは経営者の思いやカルチャーだけでなく、それに取り組むだけの合理的な理由があるというのは、とても納得感のある話です。
採用、評価と報酬、教育、チーム作り、コミュニケーション、企業文化など、マネジメントにとって重要だと誰もが考えていることについて、Googleがどのように考えて取り組んでいるのか、知ることができる一冊になっています。
「新しい働き方」についてよくよく考えている私にとって、こうした形でまとまって、しかもその背景にある心理学や認知科学にまで及んで説明されているのは、とても学びの多い本でした。
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私は、こちら『HARD THINGS』を審査員特別賞として選ばせていただきました。
本書は、ベン・ホロウィッツという今では優れた投資家として有名な人物による自伝でありビジネス書でもあります。世の中の多くの起業や経営に関する本がどうやってうまくやったのか、ということについて書かれているが、本書では、どういう問題が起こるのかということについて書かれています。
それも、(それなりの年齢の)エンジニアならば知らない人はいないであろうネットスケープ、ラウドクラウドといった企業で起きていた波乱万丈について書かれており、起業家でなくても読みものとして面白く感じるでしょう。(起業家の人にとっては、身につまされるかもしれないが)
ITエンジニア本大賞では、エンジニアに読んで欲しいという観点からの選定になるのだけれど、本書で扱っているテーマは、起業や経営の中で出てくる問題の多くは人の問題であり、そうした問題には正解はないということで、正解のない問題に取り組まなければならないのは、誰にとっても大事なことであり、エンジニアに限らず多くの人にとって学ぶことのできる本だと思って選びました。
特に、私もエンジニアだったのでわかりますが、難しい問題があった時、そこにはどんな正解があるのか、と考えてしまうのです。パズルのようなもので、最適な正解があると思ってしまいがちなのが、エンジニアのサガみたいなものですが、実際に現実に起きる多くの問題は、正解などないのです。正解などない、と思ってから、人生をより楽しめるようになったし、仕事の幅も広がりました。
そうした正解のない問題に取り組むときの力はどうやって養えば良いのでしょうか。人生経験を積むというのも大事なことです。それに加えてできることは、本を読んで、誰かの人生経験を追体験する、その中で自分だったらどう取り組むのか考えることです。それも、より濃密な人生を経験した人の追体験からは得るものがたくさんあります。
この「HARD THINGS」は、それができる一冊です。