人手不足と高コスト体質を同時に解消するための業務改善

人手不足と高コスト体質を同時に解消するための業務改善

仕事には、売上を上げるための直接的な活動のほかに、それを支える必要な手続きをするような間接的な活動がある。会社で言えば、総務や経理の仕事だ。

もちろん大事な仕事だが、できれば効率化してコストをかけずに本業に力を注ぎたい。そうした方が生産効率が高まるからだ。

今現在、私たちソニックガーデンには30人以上の社員がいる中で、総務や経理を担当する部署もなく、フルタイムの社員がいなくても会社をまわすことができている。

私たちが取り組んできたのは、人手をかけずに手間をかけた業務改善だった。本記事では、その取り組みの一部を紹介する。

人が足りない問題、人が余る問題

中小企業におけるバックオフィスの仕事はだいたい常に忙しい。次から次へと仕事がある。

毎月の請求書発行から締め処理に追われつつ、現場からの相談など割り込み仕事も多くある。経営者からは社内の見える化や情報提供を求められる。一人何役も対応して、いつでも人手不足だ。

大企業になると、役割分担がはっきりしていて、バックオフィスも人事や総務、広報、法務など部署がしっかりと分けられている。

それぞれの部署で専門性を高めることで生産性を高めることができるが、部署ごとに最適化しすぎると聖域のような部署や人が生まれ、組織全体の成長に合わせた柔軟な変化が難しくなり、人材も固定化してしまう。セクショナリズムだ。

社内業務を担当する人が増えすぎると固定費がかさみ、いずれ利益を圧迫することになる。もしくは、お客様への提供価格を上げざるを得なくなる。

かといって、安易な配置転換はできないし、社員の場合はクビにするわけにもいかない。それが高コスト体質になってしまっているということだ。

事業が伸びてくるとお客様や社員が増えて、扱う書類や手続きが増えてバックオフィスは煩雑になる。そこで人を増やすかどうかの岐路に立つわけだ。

特に悩ましいのは、人ひとり必要なほどの仕事量がない場合だ。そこで安易に人を入れてしまうと後戻りができなくなってしまう。人を入れたからには、その人のための仕事を作るなんてことが起きてしまうと本末転倒だ。

常に人が足りないくらいがちょうどいい

私たちソニックガーデンでも、創業当時は副社長が一人でバックオフィスをすべて処理していた。

その頃は、スタッフ全員が役員みたいなものだし顧客の数も少なかったので、それほどの煩雑さはなく、クラウドを使った受託開発の仕事は基本的に資産もなく、会計もシンプルだったのでワンオペが可能だった。

しかし、会社を続けていくと人も増えて煩雑な手続きは増えていくものだ。私たちも何度も専任のスタッフを採用したいと思いつつも、無駄嫌い(ケチ)の性分からなんとか人を入れずに解決できないか、業務改善の工夫を重ねてきた。

業務改善の一環で、人を増やす前に業務の見直しをしてみると、当時は必要だったけど今ならやらなくても良い業務があったりするものだ。基本的に業務は増えることはあっても、減らす機会がないからだ。

また個別の判断がいらないルーチンワークの部分はコンピュータに任せるようにしてきた。システム化というほど大袈裟なことではなく、既存のクラウドツールを導入するだけで解消することも多い。

そうした結果、あまり人を増やさなくてもまわせる仕組みが出来上がった。判断が難しく専門性の高い分野をいつでも相談できる顧問の社労士・税理士・弁護士がいてくれて、コンピュータでは判断できない部分やイレギュラーな処理を担当してくれるパートタイムのスタッフがいてくれて、必要最小限でありながら必要十分に機能する組織になった。

これはむしろ人が足りなかったからこそ、工夫せざるを得なかったことを思うと、常に足りないと思っている位がちょうど良いのかもしれない。

最初から完璧なものを目指さない

領収書の管理や請求書の発行といった業務も、数が多くなれば大変になる。人手に頼らずに解決するために、様々なツールを試してきた。

たとえば、領収書の管理は、創業当時はエクセルで副社長が一人で登録して管理していたけれど、当然それではすぐに限界がきた。そこで、業務の流れを一元管理から、各自で登録するように変更した。使ったツールはGoogle SpreadSheetだ。

それでもレシートなどの現物の管理が煩雑になって、kintoneをベースにした「じぶんページ」というツールに移行して、写真を撮って申請するように変更した。

このように、最初から最適化されていたわけではなく、少しずつ改善をしてきた。そして、その度に使うツールの見直しもしてきた。これからも変わっていくだろう。

これが、最初の改善の時点で完璧なものでないと導入しないと言ってたら、何も進まなかっただろう。その時点でできることを取り入れれば良いし、難しくなったら次のステップに変えていけば良いのだ。私たちは、それを「卒業」と言っている。そのツールが身の丈に合わなくなってきたら、ツールから卒業するのだ。そして、新しいツールを使い始める。

いきなり高度なツールを使おうとするのは難しくても、少しずつ階段をのぼるように使う人たちのリテラシーを鍛えていく方が受け入れられやすいだろう。

どんなツールであっても完璧ということはない。ツールを自分たちでうまく使いこなす意思をもっていれば、依存せずに済むのではないだろうか。

人に頼る前に、コンピュータに頼る

人を増やすことの問題の一つは管理コストだ。働く人が増えると、その人の仕事を管理するコストがかかる。仕事に慣れるまでは時間がかかるだろうし、教育も大変だ。どんな仕事をしてもらうのか定義をすることもしなければいけない。

もしかすると、自分でやってた方が楽だったのではないか、と思うようなこともある。かといって、愚直に自分一人で業務を進めていくのは限界がある。ジレンマだ。

また、働くのは人間なので感情がある。やりがいを持ってもらいたいし、楽しく働いてもらいたい。そうすると作業の管理だけでなく、気持ちのマネジメントもしなければいけない。もちろん労務管理にも気を配らないといけない。

そこで業務改善をして、人力で解決するのではなく、コンピュータで解決する。

ルーチンワークは、システム化できる可能性が高い。なんども同じことを繰り返すような業務を見つけて、その部分だけでもコンピュータに仕事をさせよう。最近だと、そうした自動化はRPAと呼ばれている。

コンピュータの良いところは、ミスがないことだ。人間がするとどうしてもミスがあるし、それを織り込んだオペレーションにせざるを得ない。また、コンピュータは疲れない。深夜早朝に働いたとしてもコンピュータから苦情が来ることはないし、労務規定にひっかかりもしない。

クラウドになって、リソースを増やすことも素早く容易にできるし、必要な分だけしかコストはかからない。固定費ではなく変動費のように扱うことができるのだ。

誰か人に仕事を頼むなら仕事を定義しなければいけない。それならばいっそ、コンピュータにさせることができないか考えよう。

すべてをコンピュータにさせない半自動化

システム化することで省力化を行って、人手がいらなくなるからといって、全てをシステム化しようとすることは難しい。

コンピュータに詳しくない人にしてみると、万能の機械のように思われるかもしれないが、コンピュータは基本的にあらかじめ決められたことしかできない。

最近は人工知能があるから、なんでも出来るんだと思われているが、その人工知能に何を回答させるのか、大量のデータを揃えることや、そのデータをもとに学習するモデルを用意することは必要なのだ。まだ魔法のようにはいかない。

だから人間がすることとコンピュータがすることをうまく棲み分けて設計することが重要になる。

たとえば私たちの会社だと、請求書の発行処理はほぼ自動化されている。毎月の定例作業そのものは自動化していて、月末になると各担当者に確認依頼の通知が届くので、内容があっているか確認してボタンを押すだけで終わる。完全自動化ではなく、半自動化という感じだ。それでも全部、手作業でやるよりは圧倒的に楽になる。

ほかにアウトソースする部分とコンピュータを組み合わせる方法もある。

会社の電話応対も大事な仕事だが、契約したお客様とはホットラインが用意されているので、事務所にかかってくる電話は営業電話が多い。本当に大事な電話を取りはぐらないようにしたいが、営業電話は無視したいということがあるだろう。

私たちの会社では、電話の応答サービスを利用している。そのサービスを使って、外からの電話を受け付けてもらい、その電話の内容をテキスト形式にした上で、社内で使っているコミュニケーションツールに投稿してもらうようにしている。社員たちは、自分のタイミングで見れば良いし、そのメモを確認することで返信の要不要を判断できる。電話で集中が途切れることもないし、音声通話で時間を束縛されることもなくなった。

他には、郵便物もスキャンしてデジタルデータにした上で、内容のサマリとともに共有してもらうことで、いちいち開封して現物確認する必要がないようにしている。アナログな部分をデジタルに変換する部分はアウトソース、デジタルになったものはコンピュータで管理、それを使う人にとっては効率化されたデータになっているのだ。

大袈裟な業務改善よりも、小さく始める「業務ハック」

人手が足りない!と思ったら、すぐに人の採用を考える前に、なにか工夫できることはないか見直してみるのも良い。工夫して業務改善に取り組むチャンスかもしれない。

業務改善というと大袈裟なものをイメージしてしまうが、今回紹介したような少しずつ、できることから、既存のツールやサービスを使って取り組んでいくやり方もある。私たちは、こうした少しずつ続けていく業務改善、特にコンピュータもうまく活用したやり方を「業務ハック」と呼んでいる。

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今度、JBpressというウェブメディアにて、『新しい働き方を実現する「業務ハック」』という短期連載をすることになりました。今、第1回が公開されていて、全5回の予定です。もし「業務ハック」に興味が沸いたら、ぜひそちらもご覧ください。

第1回:現場を苦しめる「働き方改革」よりも「業務改善」を

業務改善を始めるきっかけになるオススメ本です。

倉貫 義人

株式会社ソニックガーデン代表取締役社長。経営を通じた自身の体験と思考をログとして残しています。「こんな経営もあるんだ」と、新たな視点を得てもらえるとうれしいです。

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