管理ゼロの経営が事業に与えるシナジーとは? 〜「事業の成長」と「新しい組織」の両立

先日、ティール組織やホラクラシー に通じる経営スタイルを追求している「自然経営研究会」の開催するイベントのパネルディスカッションで登壇する機会をいただきました。ありがたいことです。

オンライン参加も含めると200人以上が参加ということで、新しい組織や新しい働き方への関心が非常に高まっているのだと感じました。

「ティール組織の組織運営実態調査」に関するプレスリリースも出ており、前半は調査結果に関する考察も発表されました。以下が、そのときに使われていた資料です。なかなか興味深いですね。

“事業の成長”と”新しい組織”の両立

私の登壇は後半で「”事業の成長”と”新しい組織”の両立」というテーマでした。経営者やマネージャにとっては、もっとも気になるところではないでしょうか。

目指すのは、ただ単に楽しく自由な組織を作ることだけではないはずです。「管理ゼロ経営」や「自然経営」が本当に成果につながるのかどうか?それがもっとも大事です。

本稿では、私の考えている「新しい組織」のあり方が、事業にどのようなシナジーを与えているのかという点についてまとめました。

1)ルーチンワークや販管費の削減

成果を出すために考えられるアプローチは2つあります。1つは成果の総量を大きくする方法。もう1つは、かけるコストを最小化することで相対的な成果を大きくする方法です。管理ゼロの効果でわかりやすいのは後者です。

シンプルに考えて無駄なことをしなければ成果の価値は高まります。そして管理することは基本的にコストです。それ自体が何かを生み出すわけではありません。管理する人やタスクを減らすことができれば、それだけでコストパフォーマンスは高まります。

もし全員がセルフマネジメントを身につけて、コミュニケーションも円滑で、プレイヤーばかりでも相談しながら協調して仕事ができるのならば、報告のための会議が減ったり、管理のためだけの作業は減らすことができます。

またコスト削減という観点から考えれば、繰り返し同じことをするルーチンワークは人間がやらずに、システム化してコンピュータに任せた方が良いでしょう。人間にルーチンワークをさせようとするから管理しなければいけなくなるのです。

たとえば私たちの会社では、請求書の発行という仕事はシステム化しており、各自が自分でチェックをする仕組みにしています。システム化して無駄をなくしつつ、分散化することで管理コストを下げるようにしています。

ルーチンワークを減らすことができれば、人間はより一層クリエイティブに価値を出す仕事に取り組むことができます。

2)クリエイティブな仕事の生産性

次は、どれだけクリエイティブな価値を出せるかどうかという観点です。今はクリエイティブな仕事が多くなってきました。私の考える「クリエイティブな仕事」の定義とは「再現性が少ない仕事」のことです。

その定義で言えば、記事を執筆することも、デザインすることも、コンサルティングも、経営も、マーケティングも、新規事業や商品開発はもちろん、プログラミングだって、クリエイティブな仕事です。昨日と今日、今日と明日でまったく同じことをしているわけではないなら、創造性は求められます。

そうしたクリエイティブな仕事は、マニュアル通りに手を動かすわけではありません。マニュアル化できないし、一言一句まで指示できないのが特徴です。そうなると、計画や手順を作って、きちんと手を動かしているかどうかをチェックする管理ではうまくいかないのは自明です。

また、従来のようにアメとムチを使ってクリエイティブな仕事の生産性は高まるのでしょうか。それよりも内発的動機付けで動いたほうが良い品質や生産性を出すことができるはずです。それも管理とは違うマネジメントが求められます。

管理ゼロというのは、管理しなければ良いということではなくて、仕事に合わせたマネジメントをしましょうということです。現代の仕事に管理がフィットしないのです。

そして、産業革命の前後で仕事の種類が大きく変わったように、100年前と今では仕事の種類が変わってきています。クリエイティブな仕事の比率が増えて、どの仕事にも創造性が求められる時間が増えてきたのなら、それに合わせてマネジメントも変えなければいけません。

3)新しい事業の自然発生的な創出

コストをかけないことと、クリエイティビティを向上することで、既存事業で成果を出すことはできるようになりますが、新規事業はどうでしょうか。新規事業こそ、いくら管理をしたところで生まれてくることはありません。

どんな緻密な計画を立てたところで、市場や顧客がその通りに動いてくれることはありません。計画通りに動かすことが管理だというなら、計画通りだけでは成果につながらないのが新規事業です。しかも、ゼロからイチを生み出すというのは、1になるまでずっと0ということです。その進捗は管理できません。

企業内の新規事業でよくある失敗が、プロダクトの開発そのものの進捗管理をして、新規事業が進んでいると錯覚してしまうことです。やっている本人たちもスポンサーも、その数字で安心したいのはわかりますが、いくら開発が進んでも事業として成立しないと、新規事業としての進捗はゼロなのです。

また、社員たちから新規事業のアイデアが生まれたりするには、時間の余裕が必要です。通常業務で目一杯に管理されて100%のリソースで仕事に取り組んだとしたら、アイデアを生み出したり新しいことを試したりする機会は訪れません。

業務時間で新しいことに取り組めないなら、きっとヤル気のある人は業務後にやることになります。しかし、そうなると事業がうまく立ち上がるとしたら、きっと辞めて独立してしまうでしょうね。

管理ゼロの背景にあるのは、セルフマネジメントです。セルフマネジメントできれば、時間を自分で判断して使うことになります。そうすると既存事業の時間、新規事業の時間を自分でやりくりできるのです。

管理をなくすことよりも成果を出すこと

沢山のコストをかけて大量に成果を出そうというのは、産業の中心が製造業で人口が増え続ける時代に求められたことです。そうした時代には、マネジメントの手段として管理は適切で有効だったのかもしれません。

しかし今では労働人口が減って大量生産ではなく多様な価値創造が求められる時代になりました。求められる仕事が変わってきたのだから、そこでは管理と違う手段のマネジメントで成果を出すことができるのです。

いつの時代もマネジメントの目標は成果を出すことに違いはありません。マネジメントは管理することが仕事ではないということなのです。管理の裏に隠されてきた本質を見極めなければ、今の時代感にあった成果を出すことができないのです。

私の本は少し極端なタイトルになっていますが、マネジメントの本質を考えるキッカケになってもらえればと思ってつけました。もし気になったら「目次」はこちら「はじめに」はこちらでご覧になれますので参考にしてください。

こちらは私の使った自己紹介の資料です。

倉貫 義人

株式会社ソニックガーデン代表取締役社長。経営を通じた自身の体験と思考をログとして残しています。「こんな経営もあるんだ」と、新たな視点を得てもらえるとうれしいです。

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