リモートワークを許可していない会社は怠慢か? 〜 複雑化する仕事には多様化する働き方を

リモートワークを許可していない会社は怠慢か? 〜 複雑化する仕事には多様化する働き方を

先日、愛媛松山で開催された、「JAWS Festa中四国2017」に参加して、パネルディスカッションに登壇して来ました。

クラウドに関するコミュニティのイベントだけど、今回のパネルディスカッションでは、リモートワークや複業という最近の話題になっている多様化する働き方をテーマにしたものでした。一緒に登壇して頂いた皆さん、ありがとうございました。

「○」と「×」で回答してコメントしていく形だったので、本記事では私の回答とコメントについて、少し補足しつつ書いておきます。(パネルディスカッションでは、リモートワークと副(複)業と並べてましたが、わかりやすさのために今回の記事では、リモートワークにフォーカスしています)

原則リモートワーク禁止な会社にいたことはありますか? → ○

私の前職は、それなりの規模の企業だったし、私が働いていた当時はリモートワークという言葉もなかったので、いわゆる普通の一般的な働き方をしていた。毎日、決まった時間に家を出て、満員電車に揺られて、大きなビルに通い、セキュリティカードで入館した部屋で一日働く。そんな働き方だった。

そして、ソニックガーデンはそんな普通の働き方の会社の中で、社内ベンチャーとして始まった会社だ。だから、ソニックガーデンも最初は、普通に通勤して同じオフィスで働いていた。最初から、リモートワークや複業などの、新しい働き方を実践して来た訳ではない、ということだ。

現在の会社はリモートワークを許可していますか? → ○

しかし、今のソニックガーデンでは、リモートワークも、副業も許可している。許可しているどころか、2016年には本社オフィスも撤廃してしまったし、全社員がリモートワークを必須にしている。複業といえば、「論理社員」という考え方で、他の会社で社長をしながらソニックガーデンの社員をしている人もいる。

では、普通の働き方から、今のような働き方へ変わったきっかけは何だったのか?

きっかけの1つは、社員の採用だった。社内ベンチャーを買い取る形で独立をしたのが2011年。5人で独立した我々は、新しい仲間を増やしていきたいと考えていたのだが、独立したばかりの会社で、勤務地を東京に限定すると、エンジニアの採用は非常に困難になることは容易に予測できた。

かといって、エンジニアの採用に妥協はしたくなかった。当時は経営の経験はさほどなかったが、採用に妥協した瞬間に会社はダメになってしまうだろうということは直感していた。では、どこにいるのか?どうすれば、小さな会社が優秀な人材を採用できるのか?答えは、地方にあった。

当時、アイルランドに滞在しながら日本の仕事をしていた仲間がいて、離れた場所で働くことへの抵抗はなかった。そのことを活かすならば、日本中で人を採用すれば良いと考えて、「勤務地不問」この言葉を応募要項に入れることにした。そうして応募があったのが、兵庫県に住む伊藤さんだった。

彼は住んでいる西脇市に一軒家を建てて、自宅の1階で奥さんがパン屋を営んでおり、上京してくることは難しい。家族を大切にしたいという思いがあって、単身赴任や出張の多い生活も難しい。だけど、熱意と実力があったので、それならば、ということで在宅勤務を開始したのだ。

幸いにも彼が非常に在宅勤務をうまくやってくれたことで、私たちも実績ができて自信を持つことができたので、それ以来はずっと勤務地不問で進めてきた。結果として、今は社員数の半数以上が地方で在宅勤務をしている。

正直、リモートワークは万人向きではない? → ○

ソニックガーデンとしては、リモートワークや複業を推し進めているが、この回答には○、すなわち万人向けではないという点については同意である。現時点で、リモートワークは誰でも出来るものではない。実際に、リモートワークが苦手だった人の応募があったが、うまくいかなかった。

今は、採用の早い段階で見極めるようにしている。その一つが、面談をテレビ会議でするというものだ。ソニックガーデンでは初回面談を社長面談としているが、もちろんテレビ会議で面談する。そこで「どうしても会って熱意を伝えたい!」と言ってくれる人もいるが、残念ながら、そういう人は不採用となる。

テレビ会議の時点で熱意が伝えられないなら、リモートワークのリテラシーが低いと言わざると得ない。これから先、長く一緒にやっていこうという時に、何かあるたびに会う必要があるとしたら厳しいからだ。私が本人と物理的に会うのは、最近は内定が決まったお祝いの時としている。

私たちのようなナレッジワークでのリモートワークに向いているのは、セルフマネジメントが出来ることが必須となる。オンラインでも信頼関係を築くことができ、しっかりと成果を出せる。コミュニケーション能力も高い。これが出来る人は優秀な人材だ。優秀な人材なら、リモートワークは出来る。

だから、誰でも出来ることではない、すなわち万人向けではない。それに、誰もがリモートワークをしなければいけない訳ではない。集まるのが好きなら、集まれば良いだけだ。リモートワークが働き方の多様化という訳ではない。好みの働き方を選択できる方が多様だと言えるだろう。

リモートワークの許諾は会社の成長に不可欠? → ○

ただ、それでもリモートワークを選択しているのは、リモートワークをした方が合理的だし、コミュニケーションも物理的なオフィスに集まるよりも円滑だと私たちは考えているからだ。

Zoomを使ったテレビ会議なら、会議室は要らないし、録画をして後から共有も出来る。Remottyを使えば、オフィスにいるよりも一緒に働く人たちの顔をみて安心しながら働ける。趣味や家族に合わせて住む場所を選びながらも、自分が集中できる場所で働ける。

そう、リモートワークをすることの方が、むしろオフィスで集まって働くことの進化形なのではないかと考えている。交通手段で、自動車があるのに、あえて馬に乗る人はいないだろう。今はまだ一般的ではないかもしれないが、いずれ当たり前になる時代が来るだろう。

また、一つ前の項目の回答にあるように、リモートワークが出来る人は、今の時代の仕事に適した人、優秀な人が多い。会社の成長に不可欠なものは何か?と問われると、それは人だ。ナレッジワークの会社であれば、尚更、会社の成長に対して人の占める割合が大きい。

リモートワークに向いている人だけで構成すれば、自ずと優秀な人材で構成することが出来る。それに昨今の人材不足の中で成長していくには、勤務地を限定して採用をしていては覚束ない。成長したいと考える企業がリモートワークを選択するのは、とてもシンプルで、合理的な判断なのではないだろうか。

リモートワークを許可していない会社は怠慢だ → ×

これだけが唯一の「×」だった。むしろ、リモートワークをしないなんて勤勉だと思わないか。

リモートワークを始めて気付くのは、毎日の通勤電車は本当に地獄だったということだ。通勤してた頃は、多少は嫌だとは思いながらも、毎日乗っていた。しかし、普段は在宅勤務をして、たまに通勤電車の時間帯に電車に乗ることがあると、その異常さに気付く。

あの満員電車に毎日乗って会社に通うというのは、とても「勤勉」なんじゃないか。

そもそも、この質問では怠慢であることが、よくないことだという共通認識がある。しかし、怠慢や怠惰なことを是とする社会にならなければ、働き方は変わっていかないのではないだろうか。怠けていても、成果が出せることが一番のはずだ。

怠惰か勤勉かという態度で見ずに、成果に焦点を当てることが本当の働き方改革に繋がるだろう。

私たちの会社は、プログラマの職人集団であることに誇りを持っている。そして、プログラマの三大美徳が、短気・傲慢・怠惰だ。コンピュータに出来ることはコンピュータにさせて自分を楽にすることは、プログラマにとって美徳なのだ。

人は怠惰でも、コンピュータが成果を出す、それが良いじゃないか。

「コミュニティ」と「クラウド」は働き方改革に影響がある → ○

ひと昔前は、他社の働き方なんて知る方法はなかった。同じ会社にいて、半径3メートルくらいの人たちだけを見て働いていても、働き方に疑問は持たない。変えていきたいと願うこともないだろう。他社の働き方を知ることで、自分たちの働き方を見返すきっかけになる。そのきっかけを作ることのできる場所が「コミュニティ」だ。

IT業界では、昔から勉強会などのコミュニティがあり、そこに行けば、自分が持っていたモノサシとは違うモノサシを持った人たちと出会うことができた。そうすると、自分だけの価値観が拡張されていく。IT業界以外では、今でも他社の働き方を知る機会は少ないのかもしれない。

もっと、世の中に会社という枠は超えるけれど、業界は同じというコミュニティが増えれば、そこで他社を知り、己を見返す人が増えるのかもしれない。

また、今のリモートワークが出来るのは「クラウド」が前提になっているのは間違い無い。私たちの「納品のない受託開発」というビジネスモデルも、クラウドがなければ成立しないし、今や多くの仕事における成果物はクラウドで共有することが出来る。

成果物がクラウドで共有できるなら、次は、働く場所もクラウド化することができるはずだ。そうして物理的なオフィスをやめて、クラウド上のオフィスとして用意したのがRemottyだ。インターネットやクラウドは、働き方に大いに影響を与えたと言えるだろう。

なぜ、多様な働き方を許容するのか?

とても合理的な理由がある。まず、私たちの会社の仕事は、ソフトウェアを開発したり、新しい事業を創造したりするナレッジワークだ。毎日、同じことを繰り返したりはしないし、それぞれの担当者が自分の頭で考えたことが成果に繋がる。ナレッジワークでは、細かな指示命令は出来ないし、ルーチン化やプロセス化は難しい。

それに、仕事の中身が複雑になってきている。働く人たちは自分の得意分野を伸ばして、足りない不得意分野についてはチームで助け合う。個人だけで完結することも難しくなっているので、チームとして働くことも、とても重要なことだ。

単純作業のルーチンワークなら、人を増やしたところで同じプロセスに乗せれば、うまくいくかもしれない。そこには、多様な働き方など要らないだろう。しかし、そんな仕事はコンピュータにとって変わられる。

人それぞれの特徴を活かすナレッジワークで、かつチームとして成立させることを考えると、自ずと多様な働き方を許容することになる。

私たちのリモートワークの最初のきっかけは、地方の人を採用したことから始まった。そこで、新しく入る人の多様さを許容したのだ。それ以来、新しい仲間が増えるたびに、その仲間に合わせて制度を拡張してきたのだ。そして、これからも仲間が増えるたびに多様さは増していくだろう。

私たちにとっての企業の成長とは、ただ人が増えて拡大していくことではなく、多様性が増していくことなのだ。

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倉貫 義人

株式会社ソニックガーデン代表取締役社長。経営を通じた自身の体験と思考をログとして残しています。「こんな経営もあるんだ」と、新たな視点を得てもらえるとうれしいです。

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