私たちソニックガーデンの「納品のない受託開発」は、納めて終わりの商売ではなく、月額定額の顧問として継続的に開発するサービスだ。要件定義の難しい新規事業や、継続的に改変していく業務改善といった場面でのニーズに対応している。
この少し変わったビジネスモデル以外に、社員30名強ほどの会社にしては注目して頂けている点は、その働き方なのだろう。在宅勤務は当然として、一昨年には本社オフィスを撤廃し、全社員リモートワークにしたことは大きな働き方の変化だった。
しかし、私たちにとって大事なことは、こうした「働き方」だけを求めて経営をしてきた訳ではない、ということだ。外から見て目立つ「働き方」の部分は氷山の一角で、その見えないところには、ビジネスモデルや組織など多くの要素が隠れている。
本稿では、その働き方を支える要素について分解し、ただ表面の真似から入るべきではない理由について考察する。
目次
「働き方」を実現するための会社の要素
私たちソニックガーデンを参考例として、網羅した訳ではないが、重要な要素に分解してみたのが以下の図だ。リモートワークなどの「働き方」は、中央の上部にいる。これを「会社分析マップ」と呼ぶことにして、ここから探っていこう。
私たちが取り組んでいるリモートチームという「働き方」を支えているのは、セルフマネジメントやフラットな組織といった「組織運営」と、遊ぶように働くことを大事にするような「企業文化」、そして何よりも、リモートワークでも大丈夫な「ビジネスモデル」だということがわかる。
そして、それらの要素についても、ビジョンやミッション、価値観など様々な要素に支えられているのだ。それらは密接に繋がっていて、積み重ねてきた結果としての働き方となっている。
働き方の根幹を支えるビジネスモデル
冒頭で説明した「納品のない受託開発」が私たちのビジネスモデルであり、それこそがソニックガーデンという会社の中心になる。そして、リモートワークが出来る最大の要因が、客先での仕事をしないスタイルのビジネスモデルだからなのだ。
私たちの仕事は、ただ言われたものを作るのではなく、お客さまの問題を解決することだと考えている。顧問として契約させてもらうのだが、どれだけの時間・工数をかけたかは、お客さまへの価値・その対価として頂く報酬と連動させていない。
どこで、どれだけ働いたか関係なく、きちんと成果さえ出せば良いし、お客さまもそれを望んでいる。その前提があるから、客先に赴いて働く姿を見せる必要がない。
その詳しいカラクリについては、ぜひ拙著「納品をなくせばうまくいく」をご覧頂ければと思うが、少なくとも、ビジネスモデルが働き方に影響を与えていることは、わかってもらえただろう。
リモートワークの管理はどうしているのか?
リモートワークについて話をすると聞かれるのが、管理や評価の方法で、それに対する私たちの取り組みは「管理も評価もしない」という極端な方法であり、それを正直に話すと、自分たちには出来っこないとガッカリされることも少なくない。
リモートワークで注目される、ずっと前から私たちは「セルフマネジメント」が出来ることを大事にしてきた。クリエイティブな仕事なのだから、管理して外発的動機で働かせるよりも、自律的に内発的動機で働く方が生産性が高いと考えてのことだ。
そのために、組織内でどうやったら信頼関係が築けるか、心理的安全を保つためにはどうすれば良いか、採用では何を見るべきか、そうした方向性で考えて「組織運営」に取り組んできた。
その結果、セルフマネジメントで働く人たちが集まり、自己組織化されたチームが出来上がった。そうなれば、リモートワークをしようが、なんら問題がないのである。
ビジネスの集客や営業はどうすれば良いのか?
ビジネスがうまくいく一番の方法は、良いお客さんと、良い社員を繋ぐことだ。それが最もシンプルで、最も難しい。ビジネスモデルに合わないお客さまの仕事をするのは互いにとって不幸だし、人の採用で妥協をすると、そこから組織が崩れてしまう。
そのために、マーケティングが重要となる。売り込むのでなく、欲している相手に届けること。そして、探しに行くのでなく、相手に見つけてもらうこと。それが、インバウンドマーケティングだ。採用のリクルーティングも同じ発想でやっている。
こうした集客の地道さも話をすると、ガッカリされるのだが、一朝一夕では出来ないのだから仕方ない。ずっと続けている地道な情報発信の賜物なのだ。
私たちは、お客さまも人材も、情報を発信して知ってもらうことにフォーカスしている。だから、専任の営業も人事もいない。このマーケティング戦略が採れるのはストック型のビジネスモデルだからで、その背景には私たちの価値観がある。
結果、私たちが実現した「働き方」は、今度はそれがコンテンツとなって、優秀な人を採用することが出来ることに繋がっている。
働き方のベクトルを決めるのは企業文化
ビジネスモデルが働き方の可能性を広げる要素だとしたら、その広がった可能性の中から、どういった働き方にするかを決める要素になるのが「企業文化」だ。企業文化とは、その企業で働く人たちの共通認識、背景にある考え方のベクトルだ。
ベンチャー企業や外資系のように、色々と犠牲にしながらも猛烈に働くことで、大きなリターンを得ようというのも、一つの企業文化だ。ルールやしきたりを重視するか、自由や革新を重視するのか、それも企業文化だろう。
私たちの場合は、好きな仕事に就いて、長く楽しく働き続けたいし、そのためには短期的でも無理な働き方はしない、という企業文化だ。無理はしないが、停滞をするつもりはなく、成長に対しては非常にストイックであることも、私たちの企業文化だ。
だから、働きすぎて稼ぎ過ぎるよりも、生産性をあげて空いた時間ができれば、「部活」と呼ばれる自分の成長に繋がる好きな仕事をしても良い働き方を採用している。
指示命令では発生しなかったのに、好きな仕事をしていたら、いつの間にか新規事業として成立していた事例がある。働き方のゆとりから新規事業が生まれたのだ。
企業文化はビジョンに従い、ビジョンは人から決める
そんな「短期的な無理をしない」なんて企業文化が成立するのは何故か?ヒントは、私たちのビジョンにある。私たちには「プログラマを一生の仕事にする」というビジョンがあり、それに賛同する人たちが集まっているからだ。
これは「一生の仕事として働き続ける」ということで、ずっと働くことはビジョンから論理的に導き出され、そうなると短期的な無理は出来ない、となる。プログラマを大事にするのだから、プログラマである社員の幸せを蔑ろには出来ない。
そうしたビジョンはどうやって決めたのか。ビジョンは創業者が自分の思いだけで決めるよりも、同じバスに乗ってくれる仲間たちの顔を見て決めると良い。創業時に同じバスに乗ってくれた4人の仲間。私を含めて全員がプログラマだった。それで今のビジョンが決まったも同然だった。
ここまできて、ようやく1つの要素の終着点「仲間」に辿り着く。まず、一緒に働きたいと思う仲間の存在、それが最も大事なスタート地点なのだ。
「働き方」に繋がるもう一つの起点「価値観」
他にも色々な要素はあるが、もう一つの起点となるのが「価値観」という箱だ。会社とは何か、その本質を追求した時に、共通する「価値観」があることが見えてきた。
価値観が違っても仕事は出来る。今の時代、なんでもアウトソース出来るし、わざわざ同じ会社で雇用という関係にならなくても、仕事は十分にやっていける。それなのに、一緒に助け合う仲間としてやっていけるのは「価値観」があるからではないか。
価値観は、哲学と言い換えても良い。物事に対する考え方、何かを思考する際の方向性。私たちで言えば、「中間に入る無駄をなくして直接つなぐこと」など「7つの価値観」としてまとめて、会社のページで公開している。
価値観の似た人たちだけで集まって多様性はどうなるのか?人間は、そもそも二人と同じ人はいなくて、どれだけ似ている価値観の人たちで構成しても、放っておいても多様性は増してくる。多様性も、目的ではなく、結果のはずだ。
「働き方」を考える前に、自分たちの経営を見直す
今回、作ってみた「会社分析マップ」では、まだ「資本政策」や「オペレーション」の観点が抜けている。今後もバージョンアップしていきたいところだ。
ただ少なくとも今回の分析だけでも、自分たちの考える「働き方」を実現するには、非常に様々な因果関係の元に成立しているということがわかってもらえたと思う。だから、働き方の表面だけを真似しても、うまくいくことはないのだ。
まず最初に取り組むべきは、自分たちの会社や経営がどうなっているのか、そこを分析するところからだろう。今の「働き方」には、必ず理由や原因があるはずだ。そこから見直さなければならない。
そうして、自分たちだけの働き方を手に入れることが出来る。