YWTを使った「すりあわせ」の方法 〜 自律的に働く組織マネジメントのカギ

「管理ゼロで成果はあがる」という本を去年だしてから、管理職やマネージャの方から何度か聞かれることがある。それは「どうやって管理しないで、社員を働かせることができるのか?」というものだ。

そこは本を読んでもらいたいところだが、その中でもカギになるポイントが幾つかある。たとえば「ザッソウ」というキーワード。雑談と相談をあわせてしまうことでホウレンソウよりも柔軟にチームを把握できる。

そして、もう一つのキーワードが「YWT」だ。YWTをつかった「すりあわせ」をすることで、指示命令や管理をなくしても成果のあがる自律的な組織にしていくことができる。本稿では、YWTについて解説する。

「働かせる」から「働きたくなる」へ

そもそも自律的に働く組織を目指すのであれば、「どうやって働かせるのか」という発想から変えていく必要がある。「働かせる」という外部から人の心をコントロールするのではなく、「働きたくなる」ように環境や制度といった外部を整えるのだ。

どうすれば「働きたくなる」のか。人は自分の興味関心のあることならば、放っておいても調べたり、行動したりするものだ。なので、その人が本当に興味関心のあること、その人自身が意味があると思うことを仕事にしてもらうことがポイントになる。

就職や転職の際に会社を選ぶとき、報酬や福利厚生なども選択のポイントになるだろうが、自分が興味関心のある仕事に就けるかどうかが大きいのではないか。そうして選んだのに望んだ仕事をできないとなるとパフォーマンスは出なくて当然だろう。

とはいえ、興味関心のまま好き勝手なことしかしないというのでは、会社としての成果は出ない。会社側には会社側で、解決したい問題や取り組んで欲しい仕事があって、その人に期待することがある。だから「すりあわせ」が大事になる。

すりあわせの手法「YWT」とは何か

実際どうやって「すりあわせ」を行っているのか。YWTというフォーマットを使っている。YWTは以下の頭文字をとったものだ。

  • やったこと(Y)
  • わかったこと(W)
  • 次にやること(T)

正確なやり方は知らないが、私たちソニックガーデンでは、このYWTをすりあわせのための観点として使っている。

YWTを使ったすりあわせは、話し手と聞き手がいる。多くの場合、聞き手は上司やマネージャが担当することになる。1on1形式でやると良いだろう。聞き手であるマネージャの役割は良いアウトプットになるようサポートすることだ。

頻度は、四半期ごと、半年ごと、年に一度と、ある程度の期間を置く。社歴が長くなるほど、自然とすりあった状態になるので、インターバルは長くなる。ちなみに、KPTを使った「ふりかえり」は改善なので、もっと高頻度に実施する。

YWTの進め方(準備編)

YWTの話し手(メンバー)は、事前にYWTの内容を考えて、YとWについてはメモにして当日に持ってくる。Tについては考えてくるが、カッチリと決めすぎずにもってくる。というのも、YWTした結果で変わることもあるからだ。

やったこと(Y)については事実や実績なので、それほど難しくない。ポイントは、客観的に事実を記載していくことと、自分の主観や感想は切り離すこと。評価するためではないので、良いことだけでなく悪いことも記載する。

わかったこと(W)は、やったことを通じて感じたこと、考えたことを書いていく。ここは思いきり主観が入って自分自身を見つめ直したことを書くので良い。「わかった」という言葉で勘違いしがちだが「考えたこと」なのだ。

よくあるのが「xxという技術で開発をした」というYと、「xxという技術についてわかった」というWになるもの。これでは浅い。その開発という仕事を通じて、自分は何を考えたのか、どのように次の行動が変わるのか、を考えるのだ。

YWTの進め方(当日編)

だいたい時間は一人あたり1時間〜2時間ほどやっている。これも、すりあってくれば短い時間で終わるが、すりあうまで距離が遠い場合は時間がかかってしまう。

話し手の持ってきたYWTを画面に写したりして話をしていく。やったことを聞くことで聞き手であるマネージャは現場の情報収集にもなるので、気になったところは都度確認していくと良いだろう。

わかったことの内容が浅い場合は、聞き手は「どうしてそう考えたのか?」「経験を通じた変化は何か?」「他の人に伝えるには?」「今回の得られた学びは何か?」といった質問をすることで抽象化と言語化を促していくこと。

わかったことから、次にやりたいことや、やってみたいことを導き出すことができる。次にマネージャは、会社側としての現状や困っていることなどを話しつつ、本人の興味関心と合致する仕事を一緒に検討して、次にやることを出す。

最終的に、本人にとってのYWTが出て、次にやることに対する納得感がある状態になることで着地する。そして、そのTを実現するために会社側で協力することは何かあれば、それは会社側の宿題として持ち帰ることになる。

聞き手(マネージャ)が気をつけること

YWTは、話し手のためのものであり、聞き手が言いたいことを言ったり、考えを押し付けたりするものではない。まして、説教したりする場でもなければ、評価する場でもない。評価にした途端、事実の確認ができなくなってしまう。

どんな教訓も、本人が実体験して自分なりに痛い目にあったり、嬉しいことがあったりしないと、どれだけ外から伝えたところで、本人の中には残ることはない。だから、あくまで自分で考えるきっかけを作っていくようにする。

そのために聞き手ができることは事実をフィードバックすること。多くの人は、どうあるべきかは言われなくてもわかっている。わかっていないのは、そこに自分が向き合わないといけないということだ。それは事実だけ伝えれば気付く。

そして「次にやること」を考える際に重要なのは論理性だ。せっかくの実績と考察をYとWとして出したにも関わらず、まったく関係のないことをTとして出たとしても、うまくいかない。YWTのロジックが通っているか見てあげよう。

YWTを使った「すりあわせ」の意義

マネージャにとっては、現場でどういった人間関係が構築されているのか、どういった問題や課題があるのか、そうした生々しい状況を把握する機会になる。状況を把握できれば、リスク対策をすることができるようになることに意義がある。

話し手であるメンバーにとっては、客観的な自己分析をすることと、事実のフィードバックをもらうことで、自分のキャリアを考えるきっかけになる。会社に言われた通りのキャリアではないから、自律的な思考が身につく。

当然、自分自身の興味関心のある仕事もしくは、そこに近い仕事に携われる可能性が高くなる。しかも、それが会社側の期待や関心の部分であれば、やりたいことに会社が応援してくれる形になる。そうなると成果は出やすくなるだろう。

これができて、本当の適材適所ということになる。もし「部下の考えがわからない」「どうやったらモチベーション高く仕事してもらえるのか」ということに悩んでいるなら、試しにYWTをやってみるのも良いかもしれない。

倉貫 義人

株式会社ソニックガーデン代表取締役社長。経営を通じた自身の体験と思考をログとして残しています。「こんな経営もあるんだ」と、新たな視点を得てもらえるとうれしいです。

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