私はよく講演などで「弊社はマネジメントしない会社です」と言ってます。ソニックガーデンでは、指示や命令などすることなくて、スタッフは各々で状況判断しながら仕事に取り組み、働くことを監視されたりすることはありません。
マネジメントしない、というのは、あえて気を引く言葉を使っているだけで、本当は、各自が自分で自分のマネジメントができるから、なんです。つまり、全員がセルフマネジメント出来れば、マネジメントは不要になります。そうすると自己組織化されたチームが出来上がります。
とはいえ、セルフマネジメントにもいくつか段階があると最近感じるようになりました。最初から高いレベルのセルフマネジメントができる人は稀です。順番に身につけていくような気がしています。この記事では、そんなセルフマネジメントのレベルについて考えてみました。
Jogging on a bright November morning / Ed Yourdon
目次
セルフマネジメントLV0.作業だけをするロボットと同じ
まだセルフマネジメントを始めていない状態を、LV0としましょう。この状態の人がいたとしたら、仕事の成果を出すためにはマネジメントが必須です。マネジメントする側が、タスクに分解してあげて、優先順位を決めてあげて、進捗を見てあげなければいけません。
LV0の人は口をあけて待っていれば良いわけです。しかし、それってロボットやコンピュータと同じなので、手間は相当かかりますし、同じなら、ロボットやコンピュータを使った方がマシです。こういう人たちはチームにとって負担になりかねません。
セルフマネジメントLV1.与えられた仕事は一人で出来る
セルフマネジメントで目指す最初のレベルは、この状態です。これは、何かしら成果の見えるひとまとまりで仕事を与えられたときに、その仕事の中身を分解してタスク一覧をつくり、自分でそのタスクの優先順位を決めて、自分で時間管理をしながら仕事を終えて報告出来る、という段階です。
逐一、タスクのひとつひとつのどこまで進んでいるかどうか管理することは不要になれば、マネジメントする側の人の負担は減ります。ただし、まだ「仕事を与える」というマネジメントをしなければいけないので、セルフマネジメントとしてはレベルが低いです。
これって、多少でも社会人としての経験があれば当たり前のことだと思っていたんですが、案外できない人も多くて驚きます。
このレベルになるための重要なポイントは、仕事を作業(タスク)に分解する、という部分です。ソニックガーデンでは「タスクばらし」と呼んでいますが、30分から1時間で終わる程度の作業に分解します。大きすぎる塊のままだと、どれだけ進んでいるかわからなくなってしまい、自分でマネジメントできなくなるからです。
仕事を始めるときの最初に一覧を作って、それが全部クリアしたら、仕事の成果になる、というものを準備するのが「タスクばらし」です。「タスクばらし」の技を覚えたら、まずはLV1です。
セルフマネジメントLV2.与えられたリソースで仕事が出来る
次のレベルで目指すのは、仕事を与えられるのではなく、リソースを与えられるようになる段階です。どの事業に、どれだけのリソース配分をするか、さえ決まっていれば、あとはそのリソースの範囲内で、自分で仕事を見つけて仕事をすることが出来る、という段階です。もちろん、その中の仕事はLV1相当で、自分でタスクばらしして仕事ができます。
ソニックガーデンの場合、社内にいくつか事業があって、社員が兼任することが普通です。半分受託をやって、半分自社サービスというように。そうすると、自分のリソースをどこの事業に充てるか、という判断が必要になります。LV2では、そのリソース配分のマネジメントさえしてしまえば、あとは任せておけるので、ほぼ現場のマネジメントは不要になります。
ここまでくれば、一般の会社であれば、いわゆる「管理職」のようなレベルではないかと思います。
この段階に必須なのが「Whyから始める」スキルです。お願いされた仕事をする訳ではなく、自分で仕事を見つけ創り出して成果に繋げるためには、その事業の目的を理解するのは当然として、なぜその事業をするのか、というWhyを把握していなければ、しなくても良い仕事をしてしまうなど無駄なことに時間を費やしてしまうかもしれません。
セルフマネジメントLV3.何するかも自分で決める
LV3になれば、誰かによるマネジメントは不要になります。自分自身の裁量で、その会社やチームにとって良いと思えることであれば、なんでもやるし、それにどれだけのリソースをかけるべきかも自分で判断します。何をすれば良いかを完全に自分で考えることができる人がLV3です。
こうなると、管理そのものは不要になります。必要なのは、会社やチームのビジョン・方向性を共有することです。自律だからといって、何をしても良いかというとそうではなくて、会社にはビジネスモデルがあり、そして価値観やカルチャーに従う必要はあります。
こうなれば、自分のリソースも自分で管理する訳で、会社の経営の一端を担うレベルにいると言えます。
この段階までくれば、事業のスピードは格段に速くなります。誰に確認することもなく、自分の判断で仕事を見つけて進めていけるからです。
このレベルでの技が「そもそも思考」です。何をするかを自分で決めるためには、課題や目的に対しても「そもそも何の為にやっているのか」「そもそも必要なのか」といったことを考える癖がなければ勤まりません。思考停止にならずに考えながら仕事ができなければいけません。
セルフマネジメント、その先のレベルへ
それ以上のレベルになると、さらに考えかたと仕事の仕方の幅が広がっていきます。
- LV4.自分たちの仕事の常識を変えていける
- LV5.お金を稼ぐという仕事をとってこれる
- LV6.お金を投資して新しい仕事を生み出す
この先は、自律に加えて、自立することが求められそうです。フリーランスや起業をして社長をするというのであれば、LV5くらいはいってないと、やっていけないのではないでしょうか。
LV4以上については、機会があればまた記事にしましょう。
自己組織化されたチームを作るために
メンバー全員がセルフマネジメントを体得して、自律して働くようになるならば、チームは要らないのか?ということを考えるもいるかもしれません。セルフマネジメントが出来ることと、チームであることは相反するものではありません。
セルフマネジメントできない人たちを守るためにチームがあるわけではありません。ひとり一人のスキルが違っている中で、お互いの得意分野で最も力を発揮出来る場所を見つけ、大きな成果に繋げることがチームである意味です。
セルフマネジメントが出来たとしても、分野によっては、やはり得意不得意はあります。そこをお互いに補いあうことが出来るのがチームの良さです。そんなチームのメンバーでいるためには、誰かより一つでも何か抜きん出ていないと、つらいかもしれません。
このような指示や命令がなく、それぞれが自律的に仕事をしていくチームでは、信頼関係が重要になります。ひとりで出来ない大きな仕事をするためには、仕事を任せているメンバーのことを信頼していなければ、その人のことをマネジメントしたくなってしまいます。
信頼して任せること、そして、任されていると信頼し、それに応える。そうしていくことで、自己組織化されたチームを作ることができるのです。
誰かが誰かに指示命令する訳ではなく、チームのビジョンに向けて、それぞれが自分の得意分野ですべきことを勝手に判断して動いているけれども、そのすべきことにはお互いのスキルを補完しあうことすら判断して動き、その結果としてチームとして機能する。
それが自己組織化されたチームであり、私たちが目指しているのは、そんなチームです。
ソフトウェア開発をしている私の会社には、労働者という役割の人はいなくて、全員が管理職だと思ってる。マネージャーという意味でなく、労働者との対比でいう管理職。全員が自己管理できる人たちで構成する。我々の仕事における労働者とは、コンピュータのはずで、それを使役するプログラマは管理職。
— Yoshihito Kuranuki / 倉貫義人 (@kuranuki) April 21, 2013