「ティール組織」日本における事例の可能性 〜 ソニックガーデンはティール組織だったのか?

2018年を振り返ってみると、経営という観点で言えば「ティール組織」一色だったように思う。2018年1月24日に発売された「ティール組織――マネジメントの常識を覆す次世代型組織の出現」は多くのビジネスパーソンに読まれることになり、一過性のブームでなく年間を通して人々の話題にのぼった。

長時間労働や人手不足の問題が取り沙汰され、働き方の見直しが迫られる時流の中で、従来の組織やマネジメントとは違う、まったく新しいカタチを見せてくれたことが多くの人にとっての希望だったからではないだろうか。

しかし、いかんせんティールの本自体が非常に分厚く、最後まで読み切って理解するには困難が伴う。かくいう私も途中で挫折した。そんな折に年末になって発売されたのが、この「[イラスト解説]ティール組織―新しい働き方のスタイル」である。イラスト付きで、なにより簡潔にまとめてくれていて読みやすい。

そしてなんと、その日本版の発売に際して、非常にありがたいことに帯のメッセージを書かせていただくことになった。しかも私のほかにサイボウズの青野社長や、さくらインターネットの田中社長といった尊敬する経営者の方々と一緒に。光栄である。

メッセージを書くために原稿を拝見して改めて感じたことは帯に書いた通りで「うちの会社はティール組織だったのか!」という思いである。読めば読むほどに、自分たちが実践してきたこと、大事にしてきたことが言語化されている。それが一体どんなあたりなのか、それを解きほぐすのが本稿である。

ティール組織とは。色で示した組織モデルの変化

ティール組織についてのくわしい解説は本書に譲るが、ざっくりと理解するなら、組織のあり方を色にたとえて違いを解説したのがコンセプトの根幹だ。ちなみに「ティール」というのは「鴨の羽色」とも呼ばれる色の名前だ。青と緑の中間色のような色で、コードで言えば”#008080″、こんな色だ。

組織というのは原始時代であっても人が集まったときから誕生している。それこそ力だけで支配していた時代にも組織はあった。そんな強き者によるトップダウンの支配構造を「衝動型」の組織と呼び、その色を赤色だと言った。

次にヒエラルキーによる階層での構造によって秩序と役割で成立した組織をアンバー(順応型)組織と呼ぶ。その次はオレンジ(達成型)組織で、現代の資本主義社会の礎であり、いかに経済を拡大させるか、効率化させていくかを追求する組織だ。

オレンジのパラダイムによって社会は大きく変容し、文明は進歩した一方で働く人の人間的な側面が失われてしまった。そこで注目されたのがグリーン(多元型)組織だ。これは働く人をエンパワーメントすることで成果を出そうというパラダイムだが、あくまで構造的にはヒエラルキーのままだった。

そして登場するのが、ティール(進化型)組織だ。

「セルフマネジメント」「全体性」「常に進化する目的」

ティール組織では、これまで組織の中で定められてきた役割や抑制されてきた個人の思いを解き放ち、個々人が本当の意味で自分らしく存在できたり、内発的動機のおもむくままに働くことができる。それでいて、まるで一つの生命のように組織としても成立することができるのである。

果たしてそんなことが本当に可能なのかと思うかもしれないが、実際にすでにいくつもの企業がそうした組織を実現している。そこから見える特徴は3つ。「セルフマネジメント」「全体性」「常に進化する目的」だ。

セルフマネジメントでは、官僚的なピラミッド構造を廃して、フラットで流動的な組織構造を成立させる。誰も正解がわからない問題を解決しようとするならば、上司部下で指示命令して働かせるよりも自分で考えて判断していく方がいい。セルフという言葉ではあるが、自分だけのことを指しているわけではない。

全体性というのは、これまでの組織で働くときは自分の一面だけを見せていたのに対して、あるがままの自分をさらけ出して嘘のない状態でいられる組織であるということだ。自分のすべてを受け入れてもらうと思えるには、相当な心理的安全が求められることになる。

ミッションを達成するために、未来のあるべき姿を予測して、そこに向けて組織をコントロールしていくというやり方ではなく、組織で働く人たちを観察し、その声に耳を傾けて、自然と向かっていく方向に手助けしていくことが「常に進化する目的」という特徴になる。

ソニックガーデンのティール適応の度合いは?

私たちソニックガーデンでは、ティール組織を意識してきたわけではないが、「管理のない会社経営」を指向してきた。「納品のない受託開発」という新しいビジネスモデルから始まり、リモートワークといった働き方を取り入れ、マネジメントの形も変えてきたのだ。

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では、そんな私たちソニックガーデンにおける組織に対するパラダイムと実践はどうなのか、果たして「ティール組織」に適合しているのか考察してみよう。

まず「セルフマネジメント」について、本ブログでも何度も取り上げてきた。初めて取り上げたのは2013年のこちらの記事だ。

セルフマネジメントのレベルと欠かせないスキル 〜 自己組織化されたチームを作るためには

その当時よりセルフマネジメントのチームを指向してきた。その結果、今では部署もなく上司や管理職がいない組織になった。社員たちは誰の許可もなく経費を使い有給をとるし、一人一人が複数の案件や役割をもって、自分の裁量でリソース配分して働いている。誰も管理しないのに働くのだ。

そして「全体性」だが、私たちの会社では個人評価をなくしたことで、個々人が苦手なことも表明するようになった。

個人評価をなくした会社の1on1面談の仕方「すりあわせ」

心理的安全を保つために採用に1年以上かけたり、ザッソウといって雑談することを推奨したりしてきた。結果、誰もが正直でいられるようになった。なにより目指してきたのが「遊ぶように働く」ということで、仕事することそのものを幸せな時間にすれば、人生の100%が楽しくなると考えて経営してきた。

そして「常に進化する目的」だが、私たちの会社の目的は「プログラマを一生の仕事にする」ということであり、これは社会を変えるような崇高なものではなく、ここで働くプログラマたちが幸せになってくれることを目指している。

売上目標をなくしてもうまくいく? 〜 案件よりも人を優先する経営哲学

だから、会社には決まったロードマップもなければ、売上目標もない。組織の人数でさえもKPIにはしていない。何もコントロールしないが、それでも助け合って働いている。会社とは何か、船や街に例える人もいるが、私たちは「人生とは旅であり、会社とは同じ道を進む同志である」と考えているのだ。

ティールを目指したのではなく結果に過ぎない

「ティール組織」によると、3つの特徴すべてを備えた組織はないということだが、なかなかの適応度合いではないだろうか。とはいえ、私たちが経営をしてくるにあたってティール組織を参考にしてきたわけではない。そのため残念ながら、私たちソニックガーデンはティール組織の事例とは言えないと思う。

私たちは、ただひたすらに働いている自分たちにとって幸せで居心地がいい環境をつくろうとしてきたこと、それも経営者と従業員という境界線もなく、全員がオーナーシップを持って、ソニックガーデンを自分の会社だと思って取り組んできてくれたこと、それが今の組織になっている大きな要因だったと思う。

私自身も社長やCEOという役割もありつつ、その組織の一員にしか過ぎない。そんな私の役割は、組織の管理統制ではないし、強烈なリーダーシップで引っ張っていくことでもない。あるがままに、いい感じに育って働いている組織の様子を観察し、あり方を言語化していくことだけだ。

だから、ティール組織かどうかはあまり気にしていないし、目指してきたわけでもない。ただ結果として、他の人から見て「ティール組織っぽい」と言ってもらえるのは光栄なことだなと思う。(アジャイルに対するスタンスに似ている)

* * *

そんな私たちが取り組んできた組織のつくり方について、実践方法や考え方を体系化した本を書きました。ティール組織を目指すのでないなら、どうやって組織を変えていくのか。それに対する私なりの答えが、この本になります。

管理ゼロで成果はあがる ~「見直す・なくす・やめる」で組織を変えよう
https://gihyo.jp/book/2019/978-4-297-10358-3

2019年1月24日発売(奇しくも「ティール組織」から、ちょうど1年後!)

倉貫 義人

株式会社ソニックガーデン代表取締役社長。経営を通じた自身の体験と思考をログとして残しています。「こんな経営もあるんだ」と、新たな視点を得てもらえるとうれしいです。

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