昨今のプロジェクトは不確実性が高いものが多く、そのマネジメントも簡単ではありません。私たちソニックガーデンで取り組むプロジェクトにも、うまくいくものもあれば、あやしい雲行きになるものもあります。
成功するための要諦は見つけにくいですが、失敗しそうなプロジェクトには共通項があります。それは「イシュー」のマネジメントをしていないことです。イシューを適切に扱っていないプロジェクトの先行きは不安です。
本稿では、私が不確実性の高いプロジェクトに取り組む際に実践した方がよいことの一つと考えている「イシューのマネジメント」について紹介します。
目次
イシューのないプロジェクトが失敗する理由
プロジェクトを進めていて、どうもうまく成果に繋がっていないとしたら、 やるべき仕事に注力できていないことが原因かもしれません。たとえば新規事業のような不確実性の高いプロジェクトでは、やることが膨大にあります。
そうしたときに、片っ端から取り組んでいてはキリがありません。また、先々のリスクを考慮しておかないと、やったことが無駄になることもあります。担当者も、目の前の仕事をこなすだけではモチベーションも保てません。
ならば計画を作って従えば良いかというと、不確実性の高いプロジェクトでは計画通りに進めるだけでは成功には至れません。計画通りに開発したけれど、誰も使わないサービスが出来上がってしまっては意味がないのです。
まずはプロジェクトのゴールやミッションを明確にした上で、そこに至るまでに取り組むべき課題すなわち「イシュー」を洗い出し、優先順位を決めて、一つずつクリアしていくことで、不確実さを減らしていくことができます。
イシューには、対象となる新規事業や問題そのものに対する検討課題もあれば、想定されるリスクへの対処を検討することであったり、生産性を高めていくための仕組みやルール作りも含まれます。
イシューをメンバーと見える化して共有する
プロジェクトを成功させるために取り組むべき課題がイシューです。手を動かせば済むタスクにはなっていないし、解決方法の仮説も立っていない状態のものです。イシューの検討を進めた結果、タスクに落とし込むことができます。
たくさんあるイシューは一度にすべて対処できませんし、プロジェクトを進めるうちに変わってきます。そこで、まずは見えているイシューをチーム全体で洗い出して共有し、優先順位を決めていきましょう。それこそが計画作りです。
イシューは、マネージャやリーダーだけが知っていれば良いものではありません。指示命令すれば動けるかもしれませんが、イシューを知っているかどうかで、具体的なタスクになって担当者が取り組む際の納得感が違ってきます。
場合によっては、メンバーが不安になるようなリスクに対処するイシューもあるかもしれません。しかし、それに蓋をしても解決はしません。リスクの共有は危機感の共有につながり、むしろチームビルディングが進むこともあります。
また、イシューの一覧は一度つくって終わりではなく、継続的に更新することは欠かせません。不確実さを減らしていけば、さらに具体的なイシューが生まれます。それに、最初からすべての検討を進めることなどできないからです。
イシューとタスクの違い。必ずイシューが先
イシューの見える化と共有で気をつけたいのは、タスクとは違うということです。タスクは、実際に取り組んで消化していける状態になったものです。何をどうするのか、What/Howが定まった状態をタスクと呼びます。
イシューの検討を進めた結果、タスクがいくつか生まれることがあります。具体的なタスクになったら、担当者を決めて実行します。それらのタスクを消化したことで、イシューで検討していた課題が解消されることがあります。
一方、イシューの検討を進めた結果、具体的なタスクが発生することなく解消されることもあります。タスクを実行しても解消されなかったけれど、それにより検討が進んで、新しいタスクが生まれることもあります。
つまり、イシューとタスクは別の軸で考えた方が良いのです。せっかくタスクを消化しても無駄になることがあります。なので、取り組むイシューの質が重要です。(その辺りは「イシューからはじめよ」がオススメです)
「タスクばらし」は、イシューの検討結果でできたタスクをさらに分解することです。その際に「そもそも」といって目的から確認しますが、その目的がイシューの検討につながります。それによってイシューが見直されることもあります。
イシューに入れるものは取捨選択はしない
イシューには、緊急度の高いものもあれば、長期的な視点のものも、リスクに対する対策も入ります。また、粒度の大小や抽象度の違いなどもあります。そうしたときに入れるか入れないか迷わずに、なんでも入れておくべきです。
最終的にはプロジェクトがうまくいけば良いのですから、そこに繋がることなら、なんだって検討をすれば良いのです。ただし、優先順位があるので全てを網羅して検討しなければいけないと考えてはいけません。
イシューをたくさん洗い出したあと、それを全てクリアすれば終わりという発想では不確実性の高いプロジェクトではうまくいきません。開発者だったら、つい全部作れば終わりと思ってしまいがちですが、そうではないのです。
優先順位は、取り組むことで効果の高いものや、早めに失敗した方がいいことから取り組んでいきます。これもポイントですが、不確実ならば、いっそ小さく試して早めに失敗してみることも、重要なイシューになります。
そして、優先順位は必ず直列に順番をつける方がうまくいきます。よくS,A,B,Cみたいにカテゴライズしますが、結局どれも大事で、Sばかりになってしまうことが多々あります。難しくても順番付けをすることもポイントです。
イシューを使ったステークホルダーとの調整
イシューの一覧があり、優先順位を定期的に見直していくようにしたら、プロジェクトをマネジメントする立場の人は、リスクやアイデアを思いついたら入れておける箱があるようなものなので、非常に安心できます。
また、プロジェクトをスポンサーする立場の経営陣などのステークホルダーからすると、まさしく知りたいのはイシューの一覧です。タスクがわかってもプロジェクトがゴールに向けて進捗しているかわかりません。
しかし、プロジェクトのマネージャが、適切にイシューを把握しており、優先順位を決めて取り組んでいるかどうかを知ることができれば、そのプロジェクトが健全かどうかはわかります。それが出来ていれば、あとは進むはずです。
ステークホルダーは、イシューのレベルで把握すればよくて、その中身の進め方や検討の詳細については口を出すべきではありません。検討を進めて不確実さを減らして、タスクとして実行していく部分はプロジェクトの責任です。
イシューを出すには様々な観点が必要です。不確実性の高いプロジェクトでは、マネージャだけで全てを網羅しきれません。現場のメンバーからの声やステークホルダーからの意見も必要で、そのために心理的安全性が重要になるのです。
イシューの管理ツールに欠かせない議論の機能
イシューの一覧はプロジェクト内外と、どうやって管理すれば良いのでしょうか。いわゆる課題管理の方法ですが、昔だったらエクセルかもしれませんが、今はもっと適切なツールを使う方が良いでしょう。
エクセルや表での管理が合わないと感じているのは、イシューを一覧で管理したいわけではなく、イシューに優先順位をつけて、適切に検討を進めることをしたいことが本質的な機能だからです。
イシューの検討を、すべて会議の中で決めていくのだとしたら、管理している表と会議の議事録で良かったかもしれませんが、それでは不確実性の高いプロジェクトではスピード感がなく、会議の時間も長くなってしまいます。
ポイントは、非同期コミュニケーションです。古くはメール、ウェブ掲示板のような機能です。週に1度の会議を待つことなく、イシューの検討・議論や見直し・追加をおこなっていけば、会議そのものを短くでき生産性も高まります。
そこで、イシューの一つずつに対して、非同期でオンラインにコミュニケーションがとれる機能がついていることが望ましいのです。既にイシュー管理のソフトウェアは幾つも市場に出ているので、適切に選ぶと良いでしょう。
イシューは管理するよりも検討するもの
私たちソニックガーデンでは「イシューは管理するよりも検討するもの」という考え方で、運用を行なっています。具体的には、スレッド型の掲示板を使って、検討の議論を行います。スレッド一覧をイシューの一覧と捉えるのです。
たとえば新しいイシューがあれば、スレッドをひとつ立てます。そして、イシューに対する検討をスレッドのコメントとして書いていきます。使っているのはツリー形式の掲示板なので、コメントで議論ができるようになっています。
新しいイシューが登録されると、スレッドの一覧は時系列に並ぶので古いものは下に下がっていきます。しかしチャットと違う点は、コメントがついたら再浮上して最新のスレッドになります。議論が続く限り上位にくるのです。
それによって、プロジェクトで検討が活発に行われているスレッドは上位に位置し、関心が薄いスレッドは下の方に下がっていきます。活発さと関心の度合いによって優先順位が自動的に決まるのは合理的です。
この使い方では、一覧の網羅性はなく、すべてを検討しきることも出来ません。しかし、イシューを管理するのではなく、良い感じにする(マネジメントする)のであれば、これで十分だと考えていますし、実際に問題は起きていません。
個人的には、流れていってしまうチャットよりも、スレッド型の掲示板の方が仕事には向いているのではないかと考えていて、自分たちの仮想オフィスにもメイン機能として用意して使っています。