リモートワークの定義レベル5と、障壁の越え方

リモートワークの定義レベル5と、障壁の越え方

前回の記事では、私たちソニックガーデンがどういった経緯を経て、物理オフィスをなくした完全なリモートワークまで辿ってきたのか紹介した。

そこから見えてくるのは、リモートワークには段階があるということだ。それをレベル分けすれば、わかりやすく目指す指標ができるのではないかと考えた。

本稿では、自動運転の世界で考えられている定義とレベルを参考に、リモートワークのレベルについて考えてみた。

自動運転のレベル

昨今、自動運転が非常に注目されている。実用的なレベルになりつつも、まだ時期尚早という見方もあって話題にあがることが多い。

おそらく近い将来に、現代のオートマ車とミッション車の比率のように、自動運転の方が当たり前になる時代がくるのだろう。

それまでには、まだ段階がある。その段階を表したものが「自動運転のレベル定義」だ。Wikipediaによると、以下のようになっている。(少し簡略化した

レベル0

ドライバーが常にすべての主制御系統(加速・操舵・制動)の操作を行う。

レベル1(運転支援)

加速・操舵・制動のいずれか単一をシステムが支援的に行う状態。自動ブレーキなどの安全運転支援システムによる。

レベル2(部分自動運転)

システムがドライビング環境を観測しながら、加速・操舵・制動のうち同時に複数の操作をシステムが行う状態。ドライバーは常時、運転状況を監視操作する必要がある。

レベル3(条件付自動運転)

限定的な環境下若しくは交通状況のみ、システムが加速・操舵・制動を行い、システムが要請したときはドライバーが対応しなければならない状態。通常時はドライバーは運転から解放される。

レベル4(高度自動運転)

特定の状況下のみ(例えば高速道路上のみなど、極限環境を除く天候などの条件)、加速・操舵・制動といった操作を全てシステムが行い、その条件が続く限りドライバーが全く関与しない状態。

レベル5(完全自動運転)

無人運転。考え得る全ての状況下及び、極限環境での運転をシステムに任せる状態。ドライバーの乗車も、ドライバーの操作のオーバーライドも必要ない。安全に関わる運転操作と周辺監視をすべてシステムに委ねる。

リモートワークのレベル

自動運転のレベルを参考に、私たちが経験してきたことをもとにリモートワークのレベル分けをしてみるとどうなるだろうか考えてみた。

また、私たちはすべてのレベルを経験しているので、その乗り越える際の知見も加えて書いた。

レベル0

全社員がオフィスに通勤して、物理的に集まって働く。昔ながらの働き方。

レベル1(働き方の効率化)

ペーパーレスやクラウドの導入など、それまでの業務をシステム化することでファシリティに頼らず、効率的に働けている状態。

オフィス特有の物理的な制約を減らして実現できる。業務そのものを見直し、無駄な工程を減らしたり、ツールを導入したりといった「業務ハック」をすることでレベル1に到達できる。

この段階に到達するだけでも相当な生産性向上が見込める。逆に言えば、高い生産性の現場じゃないとリモートワークは適さない。それ以前に他にやるべきことが多い。

レベル2(部分リモートワーク)

チャットやテレビ会議の導入など、社員同士のコミュニケーションをオフィスに加えてオンラインでも実現できている状態。出張先や自宅から緊急時に、滞りなく連絡が取れる状態。

オンラインでのコミュニケーションという新しいチャネルに適応できたチームがこの段階に到達できる。特にリアルタイムのコミュニケーション手段が、物理的に会って話すという選択肢しかないうちはレベル2には到達できない。

デジタルネイティブな若い世代たちには、抵抗感なく導入されるだろう。重要な点は、ただチャットツールを使うというだけでなく、メッセージのサイズを小さくして、フィードバックを多くした意思の疎通ができるようになることだ。

レベル3(条件付リモートワーク)

部署やチームの中で、地方に戻ったり、介護や育児のために在宅をせざるを得ない特別な事情のある人だけが、リモートワークしても良い状態。それでも、その人はオフィスには定期的に通う必要がある。

この段階は、一般的なテレワークでイメージされる状態に近い。本社やオフィスという多数派が集まって働いて、一部の人だけが離れて働いている。

この際に、テレワーク側が疎外感や遠慮を感じることが多く、それによって失敗に終わることもある。この段階をうまく実現するために、テレビ会議を多めにすることや、常時接続をしておくなどの工夫をするところも多い。

本命はバーチャルオフィスの導入だろう。チームワークにはオンライン上でも、一緒に働く場所があるという感覚の共有が重要だからだ。

レベル4(高度リモートワーク)

バーチャルオフィスで働くことが当たり前になって、理由や条件などなく社員の全員がリモートワークをしても良い状態。物理的なオフィスはあるが、コワーキングスペースのような感じで使う。

オフィス内はフリーアドレスになっても問題がなく、働く場所に制限がない状態。基本的なコミュニケーションはすべてバーチャルオフィス上で行っている。

仕事の都合上、ブレストをしたり顔を合わせて話をしたい場合は集まることもある。

この段階に至るために必須になるのが、管理職や経営層など組織の上層にあたる人間が率先してリモートワークに取り組むということだ。

それまで通勤して働くことが習慣になっている人たちをリモートワークにもっていくには、トップに近い立場がやってみせるのが良いだろう。

レベル5(完全リモートワーク)

全社員いつでもリモートワーク。物理オフィスを撤廃して、バーチャルオフィスだけの状態。前回の記事で紹介した私たちソニックガーデンがここだ。

働く際は、バーチャルオフィスへの出社(論理出社)だけして働く。仕事をする上で、物理的な移動をすることは一切ない。物理的な移動は、社員旅行などのレクリエーションのためだけになる。

あらゆる発想が、まずオンラインで実現できないかを考えて、物理的なものはすべて補完するために活用する。

だから、オフィスはないが、必要に応じて社員の自宅近くにサテライトオフィスを用意することもある。

目指すレベルを知ること、話し合うこと

こうしてレベルに分けて考えることで、自社がどの段階にいるのか判断がつくだろう。

私はなにもレベル5の段階のリモートワークだけが素晴らしいなどと考えていない。世の中には組織の数だけ、取り組み方が違ってくる。

こうした指標を見ることで、どのレベルまでを目指しているのか、自社にあったリモートワークとは何かを考えるきっかけになるだろう。

導入でよくある問題は、自分たちの目指すリモートワークの姿にコンセンサスが取れていないことだ。

また、レベル1の業務効率化や、レベル2のオンラインコミュニケーションの土壌がない段階で、いきなりテレワーク!といって離れて働いてもうまくいかないだろう。

たとえば生産性の向上を目的にするならば、「業務ハック」を始めてみるなど、働き方を変える前に取り組めることは沢山あるはずだ。

リモートワークを始めようという組織にとっての一つの目安になれば幸いだ。

倉貫 義人

株式会社ソニックガーデン代表取締役社長。経営を通じた自身の体験と思考をログとして残しています。「こんな経営もあるんだ」と、新たな視点を得てもらえるとうれしいです。

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