2023年のふりかえり

個人的に思い出せるように、2023年をふりかえっておきます。2023年もお世話になりました。多くの方に支えられた一年でした。ありがとうございました。

ソニックガーデンミートアップ

私の経営する株式会社ソニックガーデンは6月期なので、2023年7月から13期目に入りました。12年周期で考えると、13期目は2周目ということになりますが、経営体制の再構築やコーポレートアイデンティティの見直しなど、確かに第2創業に近い感覚でいます。

12期の最後となる2023年6月には、社員一同がリアルに集まり、お客様も招待してのソニックガーデンミートアップというイベントを開催しました。普段はリモートワークで過ごしており、ここ数年はコロナもあって全社員が集まる機会がなかったのですが、思い切って開催することにしました。

ずっとリモートワークですと、組織が大きくなっていっても実感が伴わないこともあり、社員同士のコミュニケーションや振る舞いが良い意味でも悪い意味でも変わらなすぎるのですが、こうして実際に集まる機会があったことで認識のアップデートができたように思います。

ご来場いただいたお客様、企画運営を実施してくれたスタッフ、ご協力いただいたイベント会社さん、多くの協力を得て実施できたこと感謝いたします。ありがとうございました。→開催レポート

親方と弟子の徒弟制度が2年目

2022年4月からプログラマの若手採用と育成を始めています。業界未経験の方もチャレンジできる採用枠を用意し、優れたプログラマを目指す人たちを支援しています。2023年も継続しており、2期生となる若者たちを採用しました。

セルフマネジメントを前提とする中途採用と違い、経験も浅く技術力やマネジメント能力を身につけていない状態からのスタートになるため、ベテランのプログラマがマネージャとして担当します。ソニックガーデンでは、プログラマのマネージャのことを親方と呼んでいます。

親方は、自分自身が現役のプログラマとして自らもコードを書きながら、若手の育成も行います。育成といっても手取り足取り教えるのではなく、適切に仕事を振ってフィードバックしていきます。今年また弟子たちの数が増えたことに応じて、今年から親方4名の体制になりました。

弟子たちは自分の親方が住む地域に移り住んで、親方とリアルで会って仕事をするようにしています。岡山に続いて、川崎と広島にも拠点が増えました。この親方を通じた人材育成は、私にとっても新しいチャレンジの機会になっており、付き合ってくれる親方たちには感謝しています。

カルチャーコミュニケーション

若手の採用を続けていくにあたり、一般的な採用や広報をするのではなく、私たちソニックガーデンらしい形を模索した結果、ソニックガーデンキャンプやソニックガーデンジムといったプログラマの方々の成長機会を提供しています。これらは2023年も続けており、キャンプは来年初頭から第5回が開催されます。

他にも、プログラマたちの技術書展への出展を支援したり、SGTechというスキルアップ勉強会ツクアソ(作って遊ぶ)ハッカソンを開催しています。ソニックガーデン採用サイトのリニューアルも行いました。改めて私たちの考えや文化を明文化しなおした形にアップデートしました。それに合わせて継続的に記事の公開も続けてくれています。

私は、こうしたプログラミングを中心とした文化を耕し、残していく活動をカルチャーコミュニケーションと呼んでいます。社外だけでなく、社内で行われている合宿などの取り組みも、そうした文化に投資する活動の一環です。これまで私がブログや書籍、講演などで行ってきたのもカルチャーコミュニケーションといえます。

2023年からは私だけでなく、ソニックガーデンという会社の活動に広がった年でした。本活動に取り組んでくれた社長室メンバーの皆さん、サイト刷新をお手伝い頂いたデザイナーさんたちにプログラマたち、ありがとうございました。

「納品のない受託開発」の進化

私たちの主な事業である「納品のない受託開発」は、どのお客様とのお付き合いも続けさせて頂きつつ、じっくり新しいお客様とのお付き合いも始まり、順調に事業成長しています。また、お客様の事業が順調に拡大されるケースもあり、私たちのサービスもアップデートしながらスケールに対応させて頂きました。

私たちが「納品のない受託開発」で提供したいのは、お客様の事業の成長に合わせて付き合い続けるパートナーであり、ソフトウェアを活かす事業の意思決定の支援をすることです。単なる開発リソースの提供ではありません。私たちはお客様と一つのチームとして一緒に事業に取り組んでいきたいと考えています。

事業には様々なステージがあります。MVPを作る段階からスケールに対応する段階まで、どの段階においてもパートナーであり続けられるようにサービスのアップデートに取り組んでいます。また、扱う技術要素やインフラについても、Rails/AWSに加えてFirebase/GCPなどにも広がっています。

そうした「納品のない受託開発」の事業自体の推進と進化については、紆余曲折を経て4名体制となった執行役員プログラマたちが中心となって進めていってくれる体制にシフトしつつあります。「納品のない受託開発」に取り組む顧問プログラマを担う皆さん、事業をリードする執行役員の皆さん、この事業を支えてくれるバックオフィスの皆さんには感謝しています。

コーポレートアイデンティティ

創業から12年が経ち、組織も50人を超えて、若い社員たちも増えて、いくつもの事業が立ち上がったことは、どれも喜ばしいことではあります。しかし組織が多種多様になる中で、社内外の人たち(特に若い人)にとってソニックガーデンがどういった会社で、どうあろうとしているのかは示していく必要があると考えました。

そこで取り組んだのがコーポレートアイデンティティの見直しです。会社法人としては複数の事業を扱っていますが、私たちソニックガーデンのアイデンティティとしては「納品のない受託開発」に取り組むプログラマの集団であるのだと考えました。

まだ途中なのでミッション・ビジョン・バリューといった形には収まっていないですが、「一緒に悩んで、いいものつくる」をお客様への約束(スローガン)、「プログラマで、生きていく」を私たちの理念(マニフェスト)という言葉として導き出せました。

この活動は、私にとっては非常に取り組みがいのあるもので、自分たちのことを言語化し直すことを通じて、より理解や解釈、思想や哲学が深まったように思います。このリブランディングにお付き合いいただいているコピーライターさんたちには感謝しています。

クラシコムの経営と社外取締役

2018年から参画した株式会社クラシコムでの社外取締役も続けさせて頂いています。社外取締役かつ監査等委員なので、経営の監査・監督という立場での関わりと同時に、自社システムを内製しているテクノロジーグループにアドバイザー的な立場でも関わっています。

2023年は初めての株主総会にも出席しました。私自身、前職では上場企業に新卒入社したのち、社内ベンチャーを作ったあとMBOで上場企業から独立をしたのですが、そのあと社外取締役として参画した会社で、上場から株主総会まで経験するとは思ってみませんでした。貴重な経験させてもらいました。

昨年に上場を果たしたクラシコムですが、倉庫の拡張など事業の成長に耐えうるシステムを作り続けることに取り組みました。不確実性の高いソフトウェア開発のプロジェクトを、経営サイドからみてどう取り扱っていくのか模索してきました。

その学びをクラシコム主催のテックトークのイベントで、マネージャの方と共に話をさせてもらいました。これまで、あまりクラシコムの立場で外に出ることはなかったので光栄でした。クラシコムの経営陣・マネージャ、社員の皆さん、ありがとうございました。

「人が増えても速くならない」

そのクラシコムで取り組んできた経営とソフトウェア開発の良い関係づくりについて、経営者の方に知ってもらえる形でまとめたのが「人が増えても速くならない」という本でした。2023年6月に、私のビジネス書の単著としては5冊目になる本として上梓しました。

経営者の方に向けて書いたつもりでしたが、予想通りというか、多くのエンジニアの方にも読んでいただけたようです。エンジニアの方々からも「こうやって説明すれば良いのか」「上司とお客様に読んでもらいます」と言った言葉を頂けて、ありがたかったです。

出版をすると登壇や取材などお話する機会を頂けます。今回も、Biz/Zineさんでの青木さん小野さんとの対談、手放すラボでのトークライブPIVOTさんのポッドキャスト倉重弁護士との対談など、私にとっても話をさせてもらうことで新たなインスピレーションを頂けた良い機会でした。

先日の福岡BacklogWorldの基調講演のほか、今年は地方でのイベントにも多数呼んでいただき、登壇してきました。久しぶりに様々な場所に行けて、これまた旅好きの私としてはありがたいことでした。出版に関わった編集者さん、呼んでくださった皆さん、ありがとうございました。

新たに出版事業の立ち上げ準備

これまでは出版社さんからお声かけ頂いて、編集の方と二人三脚で企画を練って、自分自身で執筆するという著者という活動をしてきましたが、今度は自分自身が版元となって書籍の出版をしてみようと考えました。構想自体は以前からあったのですが、2023年になって準備が進んで、いよいよ形が見えてきました。

著者としての活動はやりがいもあるので続けていくつもりですが、著者である限りは、どこかで出版社に納品しないといけないわけです。その後、販売計画やマーケティングについては出版社に一任されることになります。もちろん著者として販促活動をしますが、コントロールできる範囲は限られています。そこで作品を作るところから届けるところまで全部やってみたいと思うようになったのです。

取次を使わず直販から始めるので自費出版といえばそうですが、イメージとしてはインディーズバンドの出版バージョンみたいな感じで、手作り感ありつつも、ちゃんとした物理の本を印刷・製本を経て販売していきます。この出版事業では、著者の方にチームに入ってもらい、私は執筆しないプロデューサー的な立場で関わっています。

いま一冊目を鋭意製作中ですが、物理の本を作るには印刷会社さん校正・組版の会社さんに装丁家さん、イラストレーターさんなど、多数の関係者の方々の協力があって成り立っているのを実感しています。何より出版事業を始められたのは、出版チームメンバーの皆さんと、そして出版に関する指導をしてくださったdZero松戸さんのおかげです。ありがとうございます。

ザッソウラジオは2年目に突入

がくちょこと仲山さんと一緒に取り組んでいるザッソウラジオも、2年目に入りました。『僕たちの知り合いをゲストにお呼びして、雑な相談のザッソウをしながら、ゆるくおしゃべりしていくポッドキャストです。』と言いつつ、すでに共通の友人は枯渇して、いずれかの友人に来てもらうのも試しました。

ゲストであるはずのおっさんラジオ(&はてな社長)の栗栖さんにパーソナリティ役をお願いしてみたり、がくちょと二人で以前にザッソウラジオのゲストできてくれた環境大善の窪之内さんに会いに北海道まで行ったり、ついでに、がくちょの実家に寄って現地収録してみたり、色々と遊べた年でした。

また、がくちょがログミーさんのアンバサダーに就任されたということで、なんとザッソウラジオがログミーさんで何回か書き起こしてもらえています。

・現代人を苦しめる「思い通りにいかない」現実と理想のギャップ ビジネスの世界でのヒントになる「流れに身を任せる」老荘思想とは
・雑草というと、海外では「悪い草」日本では「なんでもアリ」 植物学×ビジネス視点で考える「雑」という言葉の懐の深さ

ザッソウラジオが続けられてるのは、ディレクターさん、ジングル&音声編集の大島さん、がくちょのおかげです。ありがとうございます。ゆるく楽しく続けていきましょう。

ワーケーション&合宿で地方へ

徐々にリアルなイベントも復活してくれたおかげで様々な地方へ講演などに出かけられた他、ソニックガーデンでも合宿を何度か実施したし、そうしたイベントなどに合わせて地方で働きながら過ごすワーケーションもよくできた1年でした。

軽井沢には、ソニックガーデンの合宿所として借りた場所ができたので数回は行っていて、なんとなく馴染みができてきました。糸魚川での交流も楽しかったし、高知ではワーケーションで川で座禅やサウナなども体験できた。北見は2回も訪問して、カーリング体験のほかにバスツアーも用意してもらって楽しめました。

毎日を同じリズムでストイックに過ごすのも嫌いではないですが、見知らぬ土地に行くことや移動することそのものが結構好きなんだな、と自覚しました。色々なところに呼んでくださったり、遊んでくださった皆さん、ありがとうございました。

ちなみに一人旅と一人飯も好きで、知らない土地を歩いて自分で飲食店を探す「孤独のグルメ」の真似事をしたりするのですが、2023年はあまり一人行動は少なかったので、それは2024年には増やしたいところです。

経営に影響を受けた書籍3選

今年も、それなりの数の本を読んできました。どの本も面白く読ませてもらったのですが、中でもソニックガーデンの経営に影響を与えてくれたな、と思う3冊をピックアップしました。経営者も人間なので、様々なインプットをもとに考えるのですが、そのうちの一つが書籍です。この辺りを読んでもらうと、私が取り組んでいる背景を知ってもらえるかもしれません。

これまで事業や組織にこだわりを持つことがあったけれど、それを「ソース」という言葉で表現されたことで、これまで考えてきた経営者であることの責任の果たし方とは違う感覚を持つことができるようになりました。自分はソニックガーデンというクリエイティブフィールドのソースであることは間違いないけれど、その全てを自ら執行しなくてもよくて、むしろ周りの人に頼っていこうと考えるようになったのです。→詳しい感想

プログラマという再現性の低いクリエイティブな仕事において、どのように人を育てれば良いのかを考えていたときに出会った一冊。コーポレイトディレクションの小川さんに教えて頂いた。職人を育てる徒弟制度や共同生活、仕事に向き合う姿勢など、多くのことを学んだ。ソニックガーデンでの徒弟制度に「親方」という表現をつけたのは、まさしくこの本の影響と言えます。→詳しい感想

こちらも育成に関する学びを得た本。人のアドバイスには矛盾することがあるが、それは、その相手によってステージが違うからである、というくだりがあって、我が意を得たりと思ったものです。ソニックガーデンで育成を考えた時も、フラットでティールな組織にまだ熟達していない人たちを混ぜてしまうと、双方にとって居心地の悪い環境になってしまうと考え、環境を分けて徒弟制度を作ったのでした。

2023年の内省的なふりかえり

2023年は、こうして思い返すと様々なことに取り組んでこれました。どの活動も自分一人ではできなかったことばかりで、本当に周りの人に助けてもらい、支えてもらったのだなと思います。本当に感謝しかないです。物足りない気もしたけど、自分としては最大限のスピードで1年を進めることができたのだと、こうしてふりかえった今なら思えそうです。

まもなく50歳になるという年齢的なものもあるのか、メンタル的に不安定になることもあったり、体調や心身に不調が続く時もあったりしました。組織が大きくなることで、人間関係の大変さにも直面しました。そして企業が成長して経営者としてのあり方や仕事の仕方を変えるべきなのに、それに対応できずに苦心したこともありました。

そうしたときも、周りに助けられてきたので、そのときの感謝を忘れずにいれば、なんとかなりそうだと思えます。

自分のことを過信せず、だけど卑屈にならず、できることに取り組むこと。時には、焦らずに待つこと。時間をかけることで、少しずつでも進めばよい。自分のキャパを超えるときは相談して頼る。自分が一番の賢者でなくてよい。知恵を借りること、一緒に悩んでもらっても良い。恐れよりも、希望でもって選択すること。

そんなふうに考えるようになった2023年でした。

倉貫 義人

株式会社ソニックガーデン代表取締役社長。経営を通じた自身の体験と思考をログとして残しています。「こんな経営もあるんだ」と、新たな視点を得てもらえるとうれしいです。

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